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【疾患センター解説】腫瘍に放射線を照射して消滅を目指す 放射線(陽子線治療)センター

がんの3大治療法に数えられる放射線治療。放射線を腫瘍に照射し、消滅を目指します。放射線と聞くと強い副作用を連想しがちですが、技術の進歩は著しく、正常細胞への影響を減少させるさまざまな技術が生まれています。陽子線治療は、このことを極めて効率的に実現する治療法です。

※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載<

放射線センターとは チーム医療によって他科と連携し、患者さんの適応を確認して、治療を進めます

医師のほか、放射線技師、看護師、医学物理士が協力

手術、化学療法と並んで、がんの3大治療法のひとつとされているのが、放射線治療です。放射線というと、「副作用が強いのでは」と感じる人が多いようです。しかし実際は、体に傷をつけることがありませんし、身体の機能と形を維持することができます。そして腫瘍の状態によりますが、日常生活をしながら通院で治療を受けることが可能です。なにより注目すべきは、技術の進歩により、正常細胞への照射が減少し、副作用の低減が期待できるようになってきたことです。このことを極めて効率よく実現できる治療法に陽子線治療があります。

陽子線治療は、例外なくチーム医療で成り立っています。放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士、看護師、事務員などが一致協力して、治療を進めていきます。また手術や化学療法と併用して、がん治療を行うことも珍しくありません。

そもそも放射線センターが、独断で陽子線治療を行うことはありません。患者さんが強く要望しても、そのまま受け入れることもありません。まず担当科の主治医と放射線腫瘍医が、経過、画像、病理の所見から放射線治療が適応できるのではと判断した時に、患者さんの了承を得た上で、判定委員会にかけます。ここには主治医や放射線センターのメンバーはもちろん、他科の医師も参加します。この判定委員会で「適応あり」と判断されて、初めて陽子線治療が受けられます。

陽子線治療装置
陽子線ビーム発生装置

陽子線治療の流れ 主治医と密に話し合いながら、チーム医療で患者個々に適した治療を進めていきます

適応可と判断されてから治療が進められる

前項で述べたように、陽子線治療の場合は通常の放射線治療とは異なって、判定委員会で適応が認められてから治療の準備が始まります。本項では、その治療の流れについて、一例を紹介します。

まず、担当科の医師と放射線腫瘍科医師が患者の病状を聞き、診察をします。患者および主治医と十分協議検討した上で、陽子線治療がふさわしいと思われる場合には、判定委員会に諮問します。判定委員会では陽子線治療の適応があるかだけではなく、その他の最適と思われる治療方法も審議します。判定委員会で、陽子線治療の適応と判断された場合には、陽子線治療の方法、効果、考えらえる副作用について再度患者さんに説明し、同意書に署名してもらいます。また、放射線腫瘍科スタッフから治療スケジュール、治療期間の注意点、治療にかかる費用について、患者に説明します。治療に入る前に、治療計画を策定します。これは、どの部位に、どのくらいの放射線を、どのように照射するかという計画です。目標とした部位に放射線を正確に照射するためには、治療中に体が動かないようにすることが必要です。治療する部位によっては、一定の姿勢を保つために固定具を用意します。また位置合わせのために体に印をつけます。このような前処置後に治療計画用の CT撮影を行います。

撮影したCT画像とコンピュータを使って放射線治療計画を策定します。正確な治療実施のために、実際の陽子線治療装置で照射し、計測するという確認作業が必要なため、 CTの撮影から治療計画の策定、治療開始までに数日間を要します。治療装置に付設されている透視装置で照射部位の撮影を行い、腫瘍やその周囲の正常臓器の位置がずれていないか確認をしてから、陽子線を照射します。一回の治療時間は20〜30分程度です。照射中に痛みなどを感じることはありません。

放射線の種類について 放射線とひとくちにいっても、X線・陽子線・重粒子線などさまざまな種類があります。

放射線治療が著しく進歩副作用を抑えた治療法へ

放射線療法とは放射線を照射することにより、がん細胞内のDNAにダメージを与え、がん細胞の死滅を図る治療です。放射線はがん細胞のような細胞分裂の活発な細胞ほど殺傷しやすい性質があるため、正常な細胞にはあまり影響を与えずにがん細胞を殺傷することができます。また正常な細胞は放射線によるダメージからの回復能力が、がん細胞よりも高いため、放射線の量を小分けにして照射することで正常細胞を回復させながら、がん細胞を攻撃していきます。

放射線療法は、高精度な治療に向けての医療機器の開発とコンピュータ技術の進歩を背景に、これまで以上に正常な組織や臓器への影響を減らし、効果的にがん病巣部へ照射できるようになってきています。

1.高精度放射線治療

高精度放射線治療と呼ばれる放射線治療は、がんの形状に合わせて放射線に強弱をつけること(IMRT)や、立体的に多方向から放射線を照射すること(SRT)で、正常組織にあたる放射線量を少なくし、がんに集中して放射線を照射することが期待できます。

IGRT(画像誘導放射線治療)と呼ばれる位置合わせを行う補助技術を用いることで、治療直前の患者さんの腫瘍位置を正確に捉えることが可能となり、より精度の高い照射を実現しました。

2.粒子線治療

従来の放射線治療や高精度放射線治療は、 X線を使用しています。水素や炭素の原子核などの粒子を光速に加速した放射線(陽子線、重イオン線)を粒子線といい、粒子線を利用した放射線治療を「粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)」といいます。これも高精度放射線治療の一つです。

粒子線は、ある深さにおいて最も強く作用し、また一定の深さ以上には進まないという特性があり、体の深いところにあるがんに集中的に多くの放射線を当てることができるため、体の浅いところにある正常な組織の損傷を低く抑えられ、標的より後ろの正常組織への影響を理論上ゼロにできます。X線では、放射線のエネルギーは体表面から 1〜 3cm下の皮下組織で最も強くなり、その後次第に減衰していきますが、粒子線では放射線のエネルギーのピークを腫瘍の位置へ調整することで、正常組織にあたる線量を小さくし、がんに対して多くの放射線を当てることができます。


湘南鎌倉総合病院 放射線腫瘍科 陽子線治療部長 先端医療センター センター長補佐
德植 公一(とくうえ・こういち)

1981年大阪大学医学部卒業。1991年国立がんセンター放射線治療部、2001年筑波大学陽子線医学利用研究センターで勤務。2008年東京医科大学放射線医学分野主任教授に就任、2018年東京医科大学特任教授を経て、2021年より現職。日本医学放射線学会認定放射線科治療専門医。