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【特別寄稿】白内障手術のタイミングは ……

白内障は大半の方がかかる病気。しかし、いつ手術を受ければ良いのかは意外とわからないもの。そこで、数多くの学会発表や論文にも評価が高く、白内障手術35,000例以上の実績を持つ眼科医療の名医・貞松良成医師に、白内障の種類や手術を受けるタイミングなどを本誌に寄稿いただいた。

※『名医のいる病院2023 眼科治療編』(2023年3月発売)から転載

白内障は大きく分けて2つ

白内障は先天性のものと後天性のものに大別されます。先天性のものは母子感染や代謝異常、ダウン症候群など出生時から乳幼児期に発症します。

後天性のものは原発性と続発性に分かれます。原発性は加齢により発症し、80歳以上になると大半にみられます。

続発性としては、緑内障やぶどう膜炎、網膜疾患などの眼科疾患や、糖尿病やアトピー性皮膚炎による全身疾患に伴うもの、更にはステロイド等の薬剤の影響や放射線の影響のものも見られます。その他に外傷によって生じる白内障などもあります。

安心して受けられる白内障手術

白内障は誰もがかかる老化現象

白内障は点眼薬で進行を遅らせることは可能ですが、治すためには手術以外の方法はありません。手術時期は見え方や見づらさなどの自覚症状の度合いによって違います。基本的には、医師の判断と患者さんの希望に沿って手術を実施しますが、中には急性緑内障の原因となるものや、眼底疾患を疑わせるものに対しては早期の手術が検討されます。

私が大学の研修医だった30年ほど前に経験した話です。白内障手術はまだ超音波を用いた手術が一般的になっておらず、大きく切開し(10ミリから12ミリ)水晶体を丸ごと摘出する嚢外摘出術が一般的でした。現在の手術とは違い、しっかりと傷口を縫合する必要があるため、術後の乱視が強く眼鏡使用は当たり前という時代でした。手術の精度もそれほど高くはなく、手術時期については先輩医師からは「術前より見え方が悪いと言われると申し訳ないので、机の上のお茶碗が見えなくなったら勧めるように」と教わりました。

現在は小切開(2ミリ程度)の無縫合手術が主体となっています。機器や技術の進歩もあって、成功率も非常に高くなりました。それにより早期から手術が可能になってきました。また、単に白内障を治すだけではなく、乱視の矯正や老眼の治療を含めた眼鏡によらない日常の見え方の改善も可能となっています。

生活に不自由を感じたら手術を検討

白内障手術をするかどうかを判断する大前提は、本人がうっとうしさや生活に不自由を感じて治したいと思うことが基本です。白内障と言われて、日常生活で不自由を感じ始めたら、手術を検討したほうが良いでしょう。特に自動車を運転している人は気を付けるべきでしょう。日常の視力が0.7未満でも、いつも慣れている道しか通らないから大丈夫と話される方もいますが、慣れている道こそ油断があり、事故を起こすこともありますので注意が必要です。

加齢による白内障として、特徴的なものに核白内障があります。核白内障は水晶体の中心が濁るタイプで、通常は進行が遅く、多少進行しても視界はクリアで、自覚症状が出にくいことが特徴のひとつです。また、進行に伴い近視化するので、白内障になる前より手元が見えるようになります。そのため、老眼が治ったと思い込み、悪化したとは感じないこともあります。このタイプの白内障は進行に伴い、水晶体が硬くなり超音波で破砕処理するのが困難になることもあるため、まだ見えているから大丈夫だと思っても主治医から手術が必要と言われることもあります。

白内障が進行すると手術後の結果が難しくなることも

白内障だけであれば、ほとんどの方は改善します。ただし、残念ながら改善しない場合があります。緑内障、糖尿病網膜症などの網膜の病気がある場合などです。白内障の程度が強いと陰に隠れて気づきにくいため、手術後にわかることがあります。それを避けるには日ごろの定期検査が重要となります。

経験した例を紹介します。5年前に他の医院で「白内障手術をしたほうが良い」と言われたが、忙しくて先延ばしにしていた方がいます。かなり見えなくなってきたので当院を受診され、成熟白内障 (混濁のため眼底の確認ができませんでした )となっていました。早めに手術を行いましたが、思ったほど視力が出ず、眼底検査を行ったところ古い黄斑変性がありました。初期であればなんとかなった可能性もありますので残念な経験でした。このように担当医師が手術を勧めるのは、白内障の状況だけでなく他の病気が隠れていたり、悪化したりすることも考慮し、説明していることもあります。主治医とよく相談し、なぜ手術をしなければならないのかを理解し納得したうえで受ける必要があります。

ネット情報の取り扱いには注意が必要

ネット上には真偽不明の情報が多数見られます。眼科の分野でも多くの情報があり、例えば白内障も手術以外に薬で治るのではないかと思い込んで検索し、外来診察の際にそのことについてお話しされる患者さんもいました。そのようなサイトの情報を信じている方に、正しい情報を伝えるのは苦労することが多く、時間を無駄に過ごしてしまい、緑内障などでは治療を開始するころにはかなり進行している場合もあります。書籍であればある程度の監修が入りますので、いい加減なことは書けませんが、ネットは法の規制も甘く、医師以外の誤った意見であっても正しいことのように書かれています。常識とかけ離れた、医学的な根拠のない情報には注意が必要です。ただし、主治医が言うことに何も疑問を持たず、ただ受け入れるのではなく、気になることは主治医に相談し、十分理解し納得したうえで手術を受けることが必要です。

白内障手術の眼内レンズの選び方

白内障手術は、基本は保険診療になります。混濁した水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズを挿入します。眼内レンズは単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズに大別されます。単焦点眼内レンズは保険診療で行えます。眼鏡をかけずに遠くが見える方が良いのか、近くが見える方が良いのかを選択する必要があります。多焦点眼内レンズは、一部保険が使える選定療養か全額自費の自由診療になります。

単焦点眼内レンズ選択のポイントは眼鏡なしで遠くを見たいのか、近くを見たいのかという点です。遠くを選んだ場合は、本を読んだりする際に眼鏡が必要です。反対に近くに合わせた場合は、外出する際に眼鏡が必要となります。最近では、単焦点眼内レンズの範疇ですが、近くの見え方も考慮された眼内レンズも出てきています。

遠くも近くもしっかり見たいということであれば、多焦点眼内レンズが良いでしょう。ただし、多焦点眼内レンズにも欠点があります。単焦点に比べてすっきり感に劣る場合があり、夜などハロー・グレア現象という光をまぶしく感じることもあります。

両方の長所や短所をよく理解した上で、自分の日常生活にあった選択をすることが眼内レンズ選びの重要なポイントとなります。きちんと主治医と相談して、自分に合ったレンズを選びましょう。


医療法人社団豊栄会 さだまつ眼科クリニック 理事長・院長
貞松 良成(さだまつ・よしなり)

1992年、順天堂大学医学部卒業。医学博士。順天堂大学病院眼科入局。同大学助手、成田記念病院眼科部長を経て、平成14年6月さだまつ眼科院長、平成17年4月より現職。日本眼科学会専門医。