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映画「ハリエット」

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ミンティは後に女性奴隷解放運動家として知られるハリエット・タブマンとして歴史に残ることになります。

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1849年メリーランド州で、家族とともに農園での過酷な生活を余儀なくされ、結婚してしばらくして、農園主に、生まれてくる子どもを自由の身にしてくれるように願い出ます。

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しかし、その希望は、「おまえもおまえの子ども、そのまた子どもも、すべて自分のものだ!」と言う農園主の言葉に踏みにじられます。
絶望し、その悲しみを神への祈りにぶつけたミンティは、主人の死を神に願っているところを屋敷の息子ギデオンに身咎められます。

その願いが聞き入れられたかのように、次の日に農園主は亡くなってしまいます。葬儀で呆然とするミンティをにらみつける農園主の息子ギデオン。
彼は憎しみのあまりでしょうか、ミンティを売る貼り紙を出します。
わが身の危機を悟ったミンティは逃げる決意を固め、夫のジョンに同行を求めるのでしたが…。

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これはアメリカでの奴隷制度の犠牲となった女性の人生を描いた傑作だと思います。
逃亡の途中で追っ手に追いつかれ、すぐそばまで迫ったギデオンに、「罪を許すから一緒に帰ろう」と言われた時に返したハリエットの言葉が胸に沁みました。

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「自由か、死か!」と叫ぶミンティは橋の欄干を乗り越え、下の激流に身を躍らせるのです。
追い詰められ、考える余裕もない時にとっさに出てきた言葉の重さ…。
それこそが、彼女がいつも思っていた心情だったのです。

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やがて無事に逃げおおせたハリエットは、ペンシルベニア州・フィラデルフィアにたどり着きます。
そこには、奴隷の逃亡を助ける「地下鉄道」という秘密組織があったのです。

街中を自由に歩きまわる黒人たちを初めて目にしたハリエットの驚きはいかばかりだったでしょうか。自分たちとあまりにもかけ離れた彼らのことが信じられなかったでしょうね。

そして、故郷に残してきた家族や友人たちを救い出すことが彼女の使命となり、行動に駆り立てます。
何度も農場に足を運び、何年もかけて奴隷たちを逃がすことになりますが、一度も失敗したことがなかったというのには驚かざるを得ません。

たとえ、ハリエットが周辺の地理に詳しかったといっても、常に追っ手がいるわけですから、運も味方につけたとしか思えません。

ミンティは子どもの頃、頭に大けがをした後に、突然眠る(倒れて意識不明になる)発作にたびたび悩まされていたのですが、それには「神からのメッセージ」が含まれていたそうです。
危機に際して、超自然的な力から助けを得られていたらしいですね。不思議な話ですが、事実のようです。

奴隷解放運動家としてのハリエットの力が周囲からも認められ、やがて「モーゼ」と呼ばれるようになりました。
世間が「モーゼ」を男性だと決めつけることで、彼女の行動範囲は広がり、身を隠すことにも役立ったのです。

こうして長い間、奴隷解放運動に捧げたハリエットの生涯をたどることは、現代の私たちにとって有意義な行為だと感じています。

折しも、アメリカ全土のみならず、世界中が人種差別の大波に揺れていて、黒人の命が軽ろんじられる現状が人々の意識にのぼるようになりました。
このような事件と現象は、今に始まったことではありません。これまでも再三再四繰り返され、「もうこれからは起こらないだろう」という希望が常に打ち砕かれ続けてきたわけです。

私はこれまでも「黒人/奴隷」に関するたくさんの映画を観てきました。そのたびに涙を流したものです。
なかでも、ある場面が心から離れることはありません。それは、奴隷船の船底で、手足を鎖で繋がれ、すし詰め状態の黒人奴隷が苦しむ姿です。

「同じ人間なのに、どうしてこんな悲惨な目に合わされなければいけないのか?」と、怒りが込み上げてくるシーンでした。
そんな劣悪な環境のせいで亡くなる人が何人もいて、海に投げ捨てられたようですね。
絶望にかられた黒人たちの胸の内を思うと、理不尽さに怒りを覚えます。

奴隷狩りが世界中で行われていた時代があり、それで富を得た悪人たちも数知れないと言われています。奴隷商人が存在し、売買が行われ、当然の権利のように人の自由、時には命さえ奪い、差別を繰り返してきた、負の歴史に立ち向かう時が今まさに始まったということなのでしょう。

いつかは人種差別と決別しなければいけないと頭では分かっていても、何をどうすればいいのかという具体的な指針が必要になってくるのではないかと思っています。

「差別撤廃!」と叫んでも、どこから手を付けるべきなのかがしっかり理解できている人は世界にはたして何人いるでしょうか?
長い年月を通して染み込んだ人の心の中から、差別意識を無くすのはとても困難だと思います。利害も絡んでくるでしょうから、社会的にも雇用問題の解決すら難しいのが現実ですよね。

それでも、人々の意識が高まっている今でなければ、人種問題の解決は永遠に実現されないのではないかと思っています。もし、いつものように騒動が下火になれば、また元に戻るのではないでしょうか?

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<黒人奴隷/黒人差別映画>参照

それでも夜は明ける/2014.3月公開
スティーブ・マックイーン監督
1841年。奴隷制度廃止前のニューヨーク州サラトガでの、
自由黒人バイオリニスト・ソロモンが白人の裏切りにより拉致され、奴隷としてニューオーリンズに売られ、苦難の12年間を耐え忍ぶ。
アミスタッド/1998年.2月公開スティーブン・スピルバーグ監督
1839年に実際に起きた「アミスタッド号事件」を元にしている。
黒人の暴動でシージャックされた奴隷船「アミスタッド号」が
アメリカに漂着。
黒人たちを持ち主不明の奴隷として扱うのかという根底には、
当時の奴隷貿易の実態が複雑に絡んでいた。
アミスタッド/1998年.2月公開
スティーブン・スピルバーグ監督
1839年に実際に起きた「アミスタッド号事件」を元にしている。
黒人の暴動でシージャックされた奴隷船「アミスタッド号」が
アメリカに漂着。
黒人たちを持ち主不明の奴隷として扱うのかという根底には、
当時の奴隷貿易の実態が複雑に絡んでいた。
リンカーン/2013.4月公開
スティーブン・スピルバーグ監督
アメリカ合衆国第16第大統領エイブラハム・リンカーンの伝記映画。
奴隷解放運動と南北戦争の危機に直面した歴史物語。
私はあなたのニグロではない/2018.5月公開
ラウル・ペック監督
公民権運動家でアメリカ黒人文学作家
ジェームズ・ボールドウィン原作の映画化。
アメリカの人種差別と暗殺の歴史。
ヘルプ~心がつなぐストーリー/20123月公開
テイト・タイラー監督
1960年代のアメリカ・ミシシッピで上流会階級の作家志望女性が
黒人メイドたちへのインタビュー
を通して真実を追求する社会派作品。
デトロイト/2018.1月公開
キャスリン・ビグロー監督
1967年のミシガン州・デトロイト暴動の映画化。
権力・社会に対する黒人たちの不満を発端に、
デトロイト市警察やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、
地元の警備隊が衝突。
評決のとき/1996年.12月公開
ジョエル・シュマッカー監督
アメリカ・ミシシッピ州の街カントンが舞台。
白人男性2人による10歳の黒人少女への暴行事件。
父親が裁判所で二人を射殺。
事件を担当する新米弁護士ジェイクの法への挑戦する姿が描かれる。


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