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アンティークの祝祭

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家中にところ狭しと並べられた魅惑的なアンティークの数々。クレールが愛情をこめて集めてきた、かけがえのない心の拠り所なんですね。

クレールはある朝目覚めると、「今日が自分の最期の日になる」との思いがこみあげます。人にはこんな瞬間があるのでしょうか?単なる思い付き?それとも啓示?
それは人ごとに違うのかもしれませんね。

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しかし、クレールはなぜかそう確信し、「人生の終い方」を決心します。
それには家に置いてある大量のアンティークの処分が必要だと悟った彼女はさっそく手配をして、集まった若者たちにアンティークを庭に出して並べるよう指示するのでした。

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「大丈夫?」と聞きたくなるほどの貴重なアンティークたちが、惜しげもなく次々と庭に並べられるのには、心が痛みました。
それらを買い付けにきた近隣の住人たちが品定めする様子をじっと見つめるクレールの心中には限りない過去の出来事がよぎります。

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少女時代、若い頃の自分と向き合うにつれ、いろんな感情が生まれては消えていきます。
クレールに「人生の最期の日」という決心をさせたのは、最近ひどくなった物忘れなどの「老いの兆候」。

いつかは誰にでも訪れる悲哀ですが、彼女のようにこんなにきっぱりと片をつけられる人は多くはないと思います。
人生に対する未練や後悔など、様々な葛藤が心を襲うでしょうし、生きるのをあきらめるのは至難の業ではないでしょうか。

劇中で過去と現在がせわしなく行き来するなかで、アンティーク・セール開催を聞き、20年ぶりに実家に駆け付けてきた娘マリーとの対決もありました。2人は疎遠になっている状態だったのですね。

この家族には触れたくない苦い過去がありました。それに付随するできごとが母娘の亀裂を生んだのです。せっかく家族として生まれたのに、20年もの長い年月を疎遠になるというのは、痛ましさを感じさせます。

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突然帰省したマリーと顔を合わせたクレールの最初の言葉は、「とつぜん帰ってきてどういう風の吹き回し?」でした。そして「今日は私の人生最期の日よ」とも。

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心の中では、久しぶりに会う愛娘の帰郷を喜んでいるのかもしれませんが、そこには簡単には譲れない彼女なりの“強がり”が秘められていたのではないでしょうか…

それを聞いたマリーの心中はどんなものだったでしょう。驚きながらも、口に出しては言えない寂しさなのかもしれません。
母の最期の日になるなどとはまさか本気にはしないでしょうが、なにかしら不吉な予感を感じたでしょう。

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自宅の庭には家に飾ってあった思い出の詰まった品々が売りに出され、人々が喜々として選んでいる光景があるのですから。果たして、母の真意はどこにあるのか?

そんなマリーに、幼馴染のマルティーヌが寄り添います。実はマリーにアンティーク・セールを知らせたのは彼女でした。
マリーはクレールの状態を心配するマルティーヌに、「母は認知症が進んでいる」と打ち明けます。

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それを聞いたマルティーヌは焦ります。クレールの突然の判断が間違いだった可能性が出てきたからです。
そして、客が買い求めた品をできるだけ買い戻していきます。この家族と親しく付き合ってきた彼女にとってもお気に入りだったアンティークが、無造作に買いたたかれ、家から持ち出されるのに耐えられない思いだったでしょう。

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偶然にも、その日は町の祝祭日。楽し気な人たちであふれたカーニバルをクレールはどんな気持ちで眺めていたのでしょうか。
カーニバルのゴーカートで、童心に帰って揺られるクレールの姿が愛おしかった。ひとときのやすらぎが訪れたようなシーンでした。

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老いは避けられない現実ですが、身の回りの物たちとの別れを決意するに至ったクレールの心境を思うと切なさがこみあげてきました。

幼かった自分、子どもたち、破綻してしまった結婚生活、娘との断絶。
それらの物たちにはクレールの人生が詰まっているのですから。

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マリーをカトリーヌの娘であるキアラ・マストロヤンニが演じています。
2大女優の共演には胸躍りますよね。2人ともフランス映画の至宝なのはまちがいないでしょう。
ちなみに、2人が共演したのは3度目のようですね。

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フランス映画ってこういう描き方が上手ですよね。人生の機微をさりげなく写し取る文化がきちんと伝承されていると思います。

私はハリウッド映画派ですが、そこには感じられない深淵さを、フランス映画から読み取ってきたように感じてきました。
ハリウッド映画のように派手さはなくとも、日常での素朴な人々の暖かさや気持ちの揺らぎなどを切り取り、表現する力があると思います。

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ドヌーブを始めとして、往年の女優「男と女」のアヌーク・エーメはもちろんのこと、名だたる名優が揃っていることにも要因があるのでしょう。
現在、第一線で活躍(あくまでも日本公開)している女優を挙げてみます。

               ★★★★★

イザベル・ユペール、シャルロット・ゲンズブール、クロエ・セヴィニー、マリオン・コティヤール、ジュリエット・ビノシュ、オドレイ・トトゥ、レア・セドゥ、エヴァ・グリーン、オルガ・キュリレンコなど、錚々たる名女優(名俳優)の存在あってのことだと思います。

一筋縄ではいかない人間を描かせたら右に出るものがいないほどのフランス映画界を高く評価している映画ファンも多いのではないでしょうか。
今まで「アンニュイ」という表現を見たり聞いたりしてきましたが、まさにそれこそがフランス映画の醍醐味ですよね。

「これとはっきり言えないけれども、そこには確かに何かがある」と感じさせるような趣きが私を惹きつけて離さない理由かもしれません。
とにかく、カトリーヌ・ドヌーブが大好き!!

               ★★★★★

カトリーヌ・ドヌーブのプロフィール/私のお気に入りを選んでみました~

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2019年公開 「真実」是枝裕和監督
フランス映画界の大女優ファビエンヌの自伝本出版に振り回される一家の焦燥感をあぶり出す傑作。
アメリカ在住の娘役にジュリエット・ビノシュ。その夫にイーサン・ホーク。

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2017年公開 「ルージュの手紙」マーティン・プロボスト監督
パリに住むクレールと義母のベアトリスの30年ぶりの再会がもたらす許しの物語。
わがままいっぱいにふるまうベアトリスはカトリーヌ・ドヌーブのはまり役ですね。

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2010年公開 「しあわせの雨傘」フランソワ・オゾン監督
一家の主婦が心臓発作で倒れた夫の代わりに雨傘工場の経営に乗り出します。主婦だったスザンヌは思わぬ才能を発揮することになります。

                ◇◆◇

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2009年公開 「隠された日記 母たち、娘たち」ジュリー・ロペス=クルヴァル監督
祖母の日記発見により、孫娘、その母親と親子3世代の女性たちの隠された心情が露わにされるのでした。

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2002公開 「8人の女たち」フランソワ・オゾン監督
雪のなかにたたずむ大豪邸の主人マルセルがナイフで刺殺されます。
この日は家族が集まりクリスマスを祝う予定だったのですが。
予期せぬ展開に一同は困惑するばかり。

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