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サラリーマンになったらパワハラでうつ病にされてしまいました(3)

とある4月のうつ状態

 ただ、じっと見ていた。薄笑いを浮かべながら。

 うつは様々なものを奪います。驚くくらい動かない心。自覚のない表情。思考回路は常にオーバーヒート。波のように襲い来る症状。

 ここではとあるうつ病にされたサラリーマンが緩やかに壊れていく様を、時系列に沿ってご紹介します。

Twitterから読み取れる4月初旬のうつ傾向

4/5 今日はまだマシだな。明日が心配。雨だしね
4/6 なにが正解だか、わからんなー。心は昨日、趣味と食欲で全力発散したから、けっこう平気
4/7 まだまだだなー先っぽが折れ曲がってる感じ
4/8 やっぱしごとないと軽いわ。やる気はそんなに出てこないけどね。

――当時のTwitterより抜粋――

 多少混乱している様子が見て取れますが、まだまだまともです。

 嫌なことがあったら全力で発散してきなさい、というのがモットーである妻のバックアップもあり、ここら辺の対応は正しいと言えます。

4/10 言いたいこと、言えないよなー
 驚くくらいいろんな事がどうでもいい。
 だめだ戻ってこられない。
 残されてく
 チャンスすらない

――当時のTwitterより抜粋――

 唐突に落ちます。改めて見返すとびっくりするくらい。

 それでも何とかして戻ろうと模索している時期ですね。初期段階とでも言いましょうか。ただし、こんな状態にされている時点で想像以上に心は深く抉られているので、ちょっとやそっとの発散では解決できません。

 ここで注目したいのは「驚くくらいいろんな事がどうでもいい。」の部分。

 この状態では、周りで起こるすべての事象がどうでもよくなります。何を聞いてもどうでもいい。何を見てもどうでもいい。よく聞く“心が動かない”とは、こういう状態のことです。

Twitterから読み取れる4月中旬のうつ傾向

4/11 せねせねせねせねせねせねせねせね
 一瞬でも部下が救われたなら、俺の勝ち

――当時のTwitterより抜粋――

 昂っています。生理的に大黒様(ストレッサーである上司)を受け付けなくなっている状態です。

 大黒様は預かっている所属員全員に対し、分け隔てなく扱いが酷かった。自分はもちろん、部下に対しての暴言も常態的。そんな大黒様のことを皆、不快に感じていました。言われ放題になっている自分の部下。その代わりに言い返す自分。そんなやり取りを常日頃から繰り返していたものです。

 なんだか西洋の悪徳領主みたいな話ですね。こんなのが実際に居て、しかも組織の中核に座しているのだから、現実って残酷だなと思います。

4/12 楽しい楽しい楽しい楽しい
 どうしたらいいんだろう。なにも思いつかない。
4/16 いかんなあ 何もする気がおきない
 出掛けたくない 人に会いたくない

――当時のTwitterより抜粋――

 目立った壊れ方をするようになってきました。

 被害者ぶっているとか自分に酔っているとかではなく、本当にこういう状態になります。この一歩手前は何もかもがどうでもいい状態。この段階は何も思いつかない状態。似ているようですが全く違います。ここら辺からは実際に経験してみないと理解が難しい部分になってきます。

 なにも思いつかない。

 簡単な表現です。ですが、働き盛りのサラリーマンにとっては致命的です。働きぶりは至って真面目。リーダーシップを発揮して職場を牽引していた人物が、ある日突然なにも思いつかなくなる。その落差たるや、そう簡単に受け入れられるものではありません。

 何もする気が起きない。

 この状態の恐ろしいところは、頑張ろうとすればするほど、どうにかしようとすればするほど逆効果になります。セルフで勝手に崖っぷちへと追い込まれて行くようでした。

Twitterから読み取れる4月後半のうつ傾向

4/18 今日は大分マシ。何が違うんだろう。頭がまともに働くのは本当、久々な感じ
4/19 驚くくらい心が動かない

――当時のTwitterより抜粋――

 不安定ですね。

 原因があるわけではない。朝起きて、どうなっているか。本当にそれだけ。振れ幅も同じく、朝起きたタイミングでどんな状態かが分かるような状態。

 法則性があって対策出来るなら、とっくの昔に対策されていたでしょう。残念ながら、開けてびっくりの毎日でした。

4/20 開き直ってバンバン休み取るようにしたら、結構楽になってきた
 無理ゲーにつきあっても仕方ない。俺なら乗り越えられるとか思い上がらない。後は勝手に外が踊ってるのをみてると、滑稽ですらある。驚くくらい心が動かない

――当時のTwitterより抜粋――

 ちょっとの体調不良でも休む。朝起きて頭痛かったら休む。無理せず休む。とにかく休む。

 休むのって、本当大切。当然取り巻く環境も自分が置かれている状況も好転しないですが、そんなことより自分に与える休養の方が大事です。

 ここで言う無理ゲーというのは、頑張ったところで大黒様(ストレッサーである上司)からの評価フラグは立たない、という事実を知ってしまったんですね。大黒様の攻略を諦めたのです。

4/26 だめだなーやっぱり苦手。いろいろ無理だわ。
 いままでコツコツ築き上げてきたものを緩やかに崩していく感じ。悪くない。

――当時のTwitterより抜粋――

 もう覚えていませんが、大黒様からまた何か言われたのでしょう。不思議なことに大黒様本人は全くメンタルヘルスの知識もパワハラしているという自覚もないので、この手のオーバーキルはここから先も結構な頻度で食らいます。

 徐々に崩壊していく職場を見ても、何も感じなかったことを記憶しています。

電車と酒──襲い来るうつからの脱出口として

 この時期何をしていたかと言えば、酒を飲んでいました。

 電車通勤をしていました。かかる時間は片道2時間ほど。帰りの電車で一杯やりながら帰る時間が、あの頃唯一とまでは言いませんが、仕事から解放された感覚を味わうために必要でした。どうしても必要でした。

 実際、飲んでいる(酔っている)間は思考に歯止めがかからないので、比較的まともだったことを覚えています。知識や理論で知っていたわけではないので、経験から無意識にその感覚を求めていたのでしょう。

 さらに、乗り物に乗りながら酒を飲むと、揺れにより大分酔いが捗ります。つまり、そのくらい瞬発力の高い酔いを求めていきます。

 毎日電車で見かけるあの人も。いつもハイボール片手に電車に揺られているあの人も。相当の酒好きか。それとも、少し追い詰められているか。確証はありませんが、その確率は高いだろうなと思っています。この時期の経験から。

 かく言う自分も、未だに電車飲みしています。今ではストレス発散の方ではなく、単なる酔いによる解放感を楽しむために飲むようになってしまいました。

 生まれ変わることがあるなら、二度とサラリーマンなんてやりたくないですね。

社会人はそう簡単に休んではいけないという刷り込みと“うつ”は相性が良すぎた

 第一段階として、考えがまとまらなくなります。

 ただし、まだ正気を保てているので、何とかしようという意気込みが勝ちます。しかし、もうこの域になるとこの「何とかしよう」が逆効果になります。

 本当は何もしないで休むのが一番いいんですけど、この時点でそういう英断を下せる人間て、そうそういないと思います。周囲も基本的にうつの知識も理解もない。せいぜい、何だか最近元気ないっすね、くらいの感覚でしょう。

 さらに、社会的大多数の人間から理解のないうつ。そして、社会人はそう簡単に休むものではない、という刷り込み。それらは組み合わせとして最悪です。ゆるやかに、ゆるやかに、見えないところで、勝手に追い詰められていきます。

 サラリーマンとうつ。想像している以上に残酷です。

うつは感情を蝕む──諦めから始まる心と表情の変化

 諦めると色々なものが弛緩するのか、薄笑いが浮かんできます。楽しいわけないのに不思議ですね。

 若干、前のめり気味に仕事をしてきました。いざ歩みを止めてみると、周囲の人間の必死に働いている姿が不思議に思えて仕方がなくなります。

 強烈な客観視。

 冷静というよりも、むしろ他人事というか、物語を読んでいるような感じに近いでしょうか。

 新しいことを始めるには大きな熱量が要ります。さらにそれを継続していくには、より一層の熱量が必要とされます。そして壊してしまうのはとても簡単。

 情熱を注いで築き上げてきた職場。入社してからここに至るまで積み上げてきた実績。心の止まってしまった自分の中に、それらを維持できるだけの熱量は残されていませんでした。

 少しずつ、少しずつほころびが生じていくのをただ、じっと見ていた。薄笑いを浮かべながら。

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