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建物を建てない建築士とは

◇自己紹介

一級建築士カビラといいます。

建築学科の大学を卒業後、設計事務所に入所。以後7年間ほど「建物を治す専門家」として活動しています。

2019年に一級建築士を取得しました。

◇よくある建築士のイメージ

建築士(建築家)と呼ばれる人たちは一般の人から見るとどういったイメージがあるのでしょうか。第一に〈建築〉と名前に付いているので、建築に携わる資格であることが分かると思います。ほどんどの人は建築士=住宅や建物を建てる専門家だというイメージがありそうです。安藤忠雄さんや隈研吾さんなどメディアに出てくる有名な方たちは〈建築家〉と呼ばれ、彼らが作る建物は時に作品として扱われることもありますね。こういった人たちからも建築士は建物を建てる専門家でそれに携わる仕事をしていると考えている人が多いと思います。

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しかし、実際には建物を建てない建築士という人たちが存在します。それが私が在籍している設計事務所であり、私が仕事としている「建物を治す」専門家としての建築士です。

◇修繕設計という仕事

これを見ているあなたも、街中で、マンションやビルに足場がかかっているのを見たことがありませんか。建物は建てるだけが終わりではなく、人間の体と同じで何もしなければどんどん劣化していきます。人が作ったものは必ず何かしらの劣化が発生し、それを放っておけば当然使い物になりません。建物も同じで定期的なメンテナンスが欠かせません。さらに建物はさまざまな機能やパーツでできています。躯体・外壁・防水・衛生設備・電気設備・換気設備…これらはメンテナンス方法も修繕の周期も全く違います。こういったメンテナンスには、新築とは別の知識や能力が必要となります。なので我々のような修繕設計専門の設計事務所が存在します。

設計事務所によっては新築と改修、どちらも業務として行っている事務所も存在します。私が所属している事務所は100%修繕設計専門というちょっと変わった事務所だと思います。私は設計事務所に新卒で入所しました。そもそも大学生の就活の時は、そんな事務所があることすら知りませんでした。しかし、考えてみれば、建築とは非常に複雑なもので、ひとつひとつの機能がそれ単体でも専門知識が非常に必要になってくるものなので、実際の業務は専門性が高く、それに特化した事務所や会社があることは必然と言えます。実際に設計事務所が建物を建てる時も、構造や照明、給排水設備などは専門の設計事務所と協働で行っています。

では、修繕設計専門の設計事務所がなぜ必要なのでしょうか。

|お金(予算)が分からない

いきなり具体的な話になりますが、結構聞くのが新築専門の設計事務所は改修工事にどれくらいの工事費が掛かるのか分からない、金額が出せないというものです。マンションの一室のリフォームなど比較的小規模な工事なら話は少し変わりますが、建物の外観から内部までの改修となると新築のときとは工事費の考え方が変わってきます。詳しい話はまた別の機会で記事にしようと思いますが、建築の世界では人件費を考える時の指標として「人工」と呼ばれる指標があります。これは職人さんなどの一人の専門職が「一日がかりで完了する作業量」のことです。これが新築と修繕では考え方が違うため、新築専門の設計事務所では費用が出せないわけです。

|日常生活の中での工事であること

建物を修繕するとき、ほとんどの場合は建物は通常通り使用しながらの修繕になることが多いです。マンションなどで言えば、居住者の皆さんが普通に生活しながら外壁や防水の改修工事を行います。この場合、極力日常生活に支障をきたさない配慮が必要になります。材料もどんなものでも使えるわけではありません。作業時間も限られたものになります。施工会社も改修工事に慣れている現場代理人は要領を分かっているのですが、設計者も設計の段階から、その特殊性を設計に反映させる必要があります。ここら辺は、最終的に施工会社と協働で工事計画を進めていく必要があります。このような観点から、我々はPM(プロジェクトマネジメント)の側面も併せ持っていると言えます。

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◇建物は建ててからが本番

少子高齢化社会による人口減少が話題になってから、建築の世界もストック社会として、今あるものを長く使い続けていく傾向にあります。

当たり前のことかもしれないのですが、建物は建てられてから、どのように使われていくのかが問題となります。

最近でも過去の名作建築と呼ばれるものがメンテナンスの観点や老朽化から取り壊しや取り壊しの危機にあっているものがいくつかあります。


私は7年ほど修繕設計を行ってきて、いろいろな建物を見てきました。築10年しないうちに漏水が発生した建物、極端な外壁タイルの劣化、屋上防水も「あと少し立ち上がりを高くとっていれば漏水しなかったのに」といった防水層の納まり。決してそれが設計だけの問題ではありませんが、小さな配慮が足りなかっただけで、苦労するのはそこに住む居住者や建物の使用者なわけです。

そんなわけで、これからも修繕設計であったことをつらつらと記事にしていきますので、よろしくお願いいたします。





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