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高杉君は腰痛持ち

「おはようタカシ!」

 月曜の朝、いつものように後ろから声をかける。同級生のタカシときたら、なにしろ背が高すぎて周囲の同級生や後輩はもちろん先輩(といっても一学年上なだけだけど)たちよりも頭一つ二つ高い。

 「あ、おはようヒトシ」

 こちらを上からのぞき込むようにして挨拶を返したタカシは、顔をしかめて腰を押さえた。

「なにまた腰痛?大丈夫?」

 背が高すぎるタカシは、一般的な身長の同級生と話をするときに顔を近づけようとするためにどうしても背中を丸めなければならず、この歳で腰痛持ちだ。

「うん、土日休めたし」

 その長身をさらに伸ばそうとでもするかのように背中をそらし、タカシが答える。タカシの家族は全員背が高いので、家ではこんな苦労はしないらしい。

「大変ならさ、背伸ばしたままでもいいんじゃない?話すときとか」
「でもそうするとみんなの声も聞こえにくくなるし、声も大きくなっちゃうし」

 そんな話をしながら学校へと歩いていく。そろそろかな。

「おっはよー!」

 来た!ほぼ予想通り、いつものタイミングでいつものように声をかけてきたのは、こちらも同級生の三宅さん。小さなかわいらしい女の子だ。小さな、と書いたがそれはいささか控えめな表現だ。もちろん一般的には女子は男子より小柄なものだけど、三宅さんはその中でも頭一つ抜けていた。いや、ネジが抜けているとか間抜けとかそういう意味ではなくて、逆方向に。

 そんな三宅さんがタカシの隣に並んでしまえば、まるで親子のようにも見えてしまう。ま、制服を気にしなければ、だけど。そうなればもちろんこの後どういう状況になるか、誰だってわかるだろう。僕にとっては毎朝の光景だ。

「お、おはようございます三宅さん」
「おはよう高杉くん」

 予想通りいつもよりも更によりいっそう背中を丸め、少しでも三宅さんに近づこうとするタカシ。体を近づけるのではなく顔同士を近づけようとしている。毎朝(平日)のことだが、タカシは三宅さんに会うたび緊張してしまうそうだ。顔も赤くなるし思ったこともうまく話せない。そのことを気にしたタカシにたびたび相談されるのだが、一方の三宅さんはそんなことはまったく気にしない。少なくとも、気にしてはいないように見える。どんなに顔が近づいてきても。

「今日さー、数学の小テストあるんだよねー高杉君は勉強してきた?」
「ぼ、ぼくも嫌だけど、勉強はしてきました!」
「そうかー高杉君はえらいねー私は全然だよ」

 身長180cmを超えるタカシと、140 cmもないだろう三宅さん。そんな二人を見ながらしみじみ思う。仲良きことは美しきかな。そして、 

そりゃ腰痛にもなるわ。

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