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たいして売れてもいないお笑い芸人が大晦日NGな理由。大家さんと僕/矢部太郎(カラテカ)

 我ながら、失礼なタイトルをつけたなあと思う。例えそれが、本当のことであっても。

 お笑い芸人の、コンビの、カラテカ、矢部太郎、と聞いて「ああ、あの」と思い浮かべられる方は、さてどのくらいの割合であろうか。現在ではTV番組への出演どころかコンビとしての活動を見かけることもなくなっている。

 前述のとおり、そして現実として「カラテカ」というコンビは決して芸人としては売れっ子ではない。相方の入江さんの方は、持ち前のコミュニケーション脳力を活かして会社まで設立し、そちらの月収は280万円とも報じられるがそれが芸人としての面白さ、仕事に直結しないのが難しいところである。 

 特別「カラテカ」のファンというわけでもなかった私ではあるが、しかし、最近、矢部太郎という人は「持っている」人だと思う。

 ここでいう「持っている」とは、現金や土地などの資産や、あるいは何かしら価値のある品物ではない。残念ながら芸人としてのウデ、技量や技術でもない。矢部太郎が持っているものとは、「偶然を重ねる力」である。 

 当時借りていた部屋で、深夜番組の企画によりポケバイが走り回ったり霊媒師が御札を貼りまくった結果、大家さんに更新しないことを告げられた。矢部は当然引っ越すことになる。タイトルにある「大家さん」は、そちらの「大家さん」のことだ。

 新宿区の外れの二階い建ての一軒家。元は二世帯住宅として建てられたというその家には、小柄な矢部よりもさらに小さな「大家さん」がいた。

 初めて出会う「ごきげんよう」と挨拶するおばあさん「大家さん」との微妙な距離での奇妙な生活に、矢部は困惑する。仕事から帰って部屋の電気をつけた瞬間に「おかえりなさい」と電話がかかってきたり、雨が降ったら洗濯物が取り込んでたたまれていたりするのだ。

 しかし「大家さん」との生活を続けていくうちに、それは「特別」から「日常」へと変化していく。それは決して、亡くなったお兄様の月命日にうなぎをご馳走になっているからではないだろう。

 ところで皆さんは「百聞は一見に如かず」ということわざをご存知だろうか。

 売れない芸人であった矢部が「大家さん」と出会い、絵画的、芸術的にみれば決して上手いわけではないにしろ、作風・内容に絶妙にマッチした絵柄で漫画を描いたのである。描けるだけの技術と才能はあった。そう、矢部太郎は「持っていた」のである。そして「大家さん」と出会った。

 矢部さんは毎年「大家さん」と過ごすために、相方の入江さんと大喧嘩をしながらも大晦日には仕事を入れないそうである。今年も、そして来年も、出来るだけ長くそうであればいいと思う。 

大家さんと僕 矢部 太郎 https://www.amazon.co.jp/dp/4103512113/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_GqgaAbVRJC7J7

 


 

 

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