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【感想】『蛇の言葉を話した男』を読んで、変化することについて考えました。

本記事は「note×河出書房新社」の合同企画「#読書の秋2021」の課題図書「蛇の言葉を話した男」の読書感想文です。過去に趣味で撮影した写真を交えて読書感想文を書いてみました。本企画の詳細は下記に記載されています。

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原書はエストニア人作家のアンドルス・キヴィラフク氏の作品である。世界地図に疎い私は、エストニアの国の場所を確認するところから始めた。私は、エストニアだけでなく北ヨーロッパのどの国も訪問したことがない。そんな私にとって、本書は私とエストニアとの最初の接点である。インターネットで検索して、エストニアの街並みや風景の写真を眺めてみた。日本にはない美しさがあった。まるでファンタジーの世界のようである。

本書の本編は355ページの上下二段組み構成で、厚みは約30mm、重さは約500gであった。分厚い部類の本であるが、表紙の蛇の絵が独特な雰囲気で、思わず手に取った。「森には、もう誰もいない」という冒頭の一文が、ダークファンタジーな匂いを漂わせている。

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「蛇の言葉で動物を従わせることで生きている狩猟生活の森の人々」と「キリスト教を信仰する農耕生活の村の人々」との対比が興味深かった。森での生活から脱して村での生活を選んだ多くの人々には、心の余裕が生まれることで徐々に文化が進展していくのかと思ったが、なかなかそうはいかないところに人間生活の難しさを感じた。森と村という二つの場所を軸に話は進み、登場人物は豊富だけど、主人公レーメットの心が休まる場所がないことに、何とも言えない孤独を感じた。レーメットは蛇インツと交流を持てたことが、せめてもの救いなのかもしれない。本書を通して、文化が失われていく過程を観察することができた。

村の人達の生活を見ていると、「集団が盲目的に信じている価値観には、属している人達は気づけない。」というような現代への教訓を得ることができた。私の日本での生活も、他の文化や価値観の人達から見たら、とても滑稽なのかもしれない。思想が一つの価値観に縛られてしまうと、外的要因が無ければ価値観を変えていくのは難しいのだろうと思った。もしかしたら、他の価値観に気づかないことが幸せなのかもしれないと思ったりもした。

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ウルガスやヨハネス司祭のように極端な思想に陥らずに、俯瞰的な視点を持つことの大切さを改めて感じた。現代では、インターネットを利用することで知識や情報を簡単に得られる時代になった。物事の判断材料は一見すると豊富である。本書のように、会話のみで情報を得られていた時代とは違うが、現代でも獲得した情報が実はバイアスがかかった結果の情報であるかもしれないという怖さはある。自分が属する価値観に染まりきっていない人の視点を意識して、冷静に、そして批判的に考える余裕をもつ必要がありそうだ。

また、本書では、ファンタジー要素を備えた登場キャラクターを想像するのも楽しい。サラマンドルの姿は一体どんな感じなのか、人間の女性に興味深々なクマや大きなシラミって、、、などなど。適度にコミカルな部分もあり、悲哀な雰囲気を和らげてくれる。

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本書を通して、エストニアの国について考えるきっかけになった。私が育ってきた環境と本書の価値観が異なるため、全てを理解したとは言い難い。しかし、本書を楽しめたのは訳者の方(関口涼子さん)の尽力が非常に大きいと感じた。本書の最後の「訳者のあとがき」を読むことで、私の中の物語が補完され、理解が及んでいない部分に気づくことができて助かった。「それぞれ自分の考えを持ち、自分の人生を生きている」という解説にとても納得した。

ところで、森の民は肉をよく食べる。本書を読んでいると、焼いた肉を食べたくなってしまった。シカの肉は残念ながら手に入らないが、今夜は牛か豚のステーキ肉を買って、焼いてみようと思う。

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#読書の秋2021 #蛇の言葉を話した男 #河出書房新社

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