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ネオ中華帝国の脅威

「誰もが恐怖と絶望のなかで日々の心配しているため、我々は今日下す決断の結果、明日がどうなるかについて考えることをやめてしまった。」
エドワード・スノーデン Vice インタビュー

このパンデミックの向こう側に起こり得る一つのシナリオを、よりマクロな観点から詳細に書き出してみようと思う。

再国有化

この度のパンデミックという試練を通して多くの人が実感してるのは、我々が住む社会の様々なレベルでレジリエンス(回復力・困難に対する弾性)が欠如していることではないだろうか。先進国はコスト効率を高め、利益を最大化するために、重要な製造業をオフショア化してきた。 Defraによると、英国の食料自給率は50%に減少し、日本は38%という危機的なレベルまで年々落ちてきている。 重要な医薬品、食糧、その他の必須供給を確保するための脱グローバリゼーションが早期に実施されそうだが、さらなるパンデミックのリスクを考えると、他のセクターもオンショア化する可能性が高い。「国産」への移行は初期に雇用数を増やすかもしれないが、より高いコストは消費者に転嫁され、ハイパーインフレ―ションに向かいつつある経済においてそれがどのような影響をもたらすのか非常に心配である。

西から東への権力のシフト

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長期的に見ると、このパンデミックがもたらす最大の結末は、米国の迷走・衰退であろうと僕は思う。弱肉強食の医療システムのために、ウィルスによる最大の打撃を受ける状況に置かれていただけでなく、この地雷原の様なパンデミックの世界を、傲慢で無知なジジイからボケはじめのジイさんにバトンタッチしようとしてる。米国の借金は近々30兆ドルという巨額に達しようとしているし、様々な指数が深刻な経済危機が近付いていることを示している。現在、世界のほぼすべての中央銀行が、通貨供給を信じられないスピードで増やしているが、近いうちに亀裂が生じる可能性がどんどん高くなってきている。

少し前のガーディアン紙の記事によると、MI5とMI6は「ウイルスの後に中国がより自国の主張を強く打ち出してくる」と想定しているという。 しかし、「主張」とは具体的に何を意味するのか。 米国が衰退するにつれ、彼らはどのように世界的に優位な立場を得ていくのだろう? 中国の戦略を理解するためには、過去数十年にわたって彼らがどのようにグローバルな立場を固めてきたかを見る必要がある。すると、次のグローバルな超大国になろうとする彼らの長期的なビジョンがかなりハッキリと見えてくる。

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多くの人は知らないようだが、中国は、北京からヨーロッパに至る21世紀現在のシルクロードを900億ドルを投入して構築してきた。 西側の国々がブレグジットとトランプのオペラを巡ってグルグルと同じところを回りながらつまずいている間に、彼らは新しく得た経済力を以降数十年にわたって自国の支配をますます強化するのに役立つインフラストラクチャに投資してきたのだ。

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しかしインフラだけではない。 中国はアフリカ諸国に投資して国連における政治力を獲得するだけでなく、中国の台頭を支える安価な労働力をアフリカで育成してきた。 信じられないほどの先見性だが、短期的な投資収益率を無視した長期的な投資戦略を可能にしているのは、中国が表向きは慈善的な独裁政権だからだ。

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上記グラフで明らかなように、過去20年ほど中国も金を貯蓄してきているが、公表されている数字はかなり過少報告されていると考えていいと思う。「元」を次期国際準備通貨(世界通貨として現在のドルが占めているポジション)にする戦略内に何かしらの金本位制(金(gold)を通貨価値の基準とし、自国の通貨と金を一定比率で交換することを国が保証するという制度)が絡んでくる可能性が高い。ドルや円など、責務ベースのフィアット通貨の虚偽とバカげた不条理を理解すると非常に明白なことである。各国政府が無限に貨幣を印刷することを可能にしたために、おそらく世界がこれまで経験したことのない最大の経済危機を引き起こすことになりそうだ。つまり、ある段階で暴走し始めるであろうインフレは各々の貯金の価値を激減させる。ふたたび各国政府が発行する貨幣が価値あるものとして信頼を回復するには、本質的に供給が限定されている金、銀、クリプト貨幣などとリンクする必要があるのだ。

これまでのところ、中国は主に経済的手段を通じて世界というチェス盤の上を非常に戦略的に進んできた。 ユヴァル・ノア・ハラリが指摘する興味深い点の1つは、21世紀の平和と貿易の費用便益計算は戦争と侵略をはるかに上回っているとのこと。 中国がシリコンバレーの支配権を得るためにカリフォルニアのビーチに突然上陸した場合、エンジニア、プログラマーや企業家はニュージーランドまたはヨーロッパへの最初の飛行に乗ってるだろう。 しかし、中国がより強力になるにつれ、これまでの平和的スタンスを維持するだろうか?

バイオテクノロジーとAI

この時点で、現在生物学および技術革命の始まりにあたる時代にあることも指摘する必要がある。 今やバクテリアをハイジャックすることでDNAを正確に編集し、生命体をより精密に操作できるようになった。 中国がすでにいくつかの高セキュリティー政府研究所で人間の胚を対象として実験を行なっていることを想像するのは難しくない。 ハイパーインテリジェントなプログラマーとスーパーソルジャー、および裕福層と支配階級の長寿は、我らが考えるほど遠い未来の話ではないかもしれない。

AIの機械学習能力は指数関数的に増加しているが、近いうちに独裁政権の野望を具現化するのに適した、強力なセントラルインテリジェンスが世に出回る可能性が高い。(これは、AIが独自のプログラミングを編集出来ないようにするなど、成長を制御するいくつかの安全網を保持していると想定しての話しだが、しかし、高度AIが自分のアップグレードをプログラムし、ネット上のどこかに分散された形で隠ぺいするのを妨げるのだろうか?)

人間の知性をはるかに超えながらも、鎖に留められたAIシンギュラリティ(技術的特異点)を中国が手に入れた場合を想像してみよう。 戦争と侵略の戦術的作戦で得られる圧倒的な優位制は、抵抗の無益性を明白にし、「戦争」という概念の終止符に向けて激烈な移行を意味するかもしれない。彼らはAIを利用して、ロボット兵と警察のマインドアーキテクチャをプログラムするだろうか? 強力なファイアウォールと高度なAIが実行する世界レベルの監視と分析から得られる情報をどう利用するのだろう?想像を超えるデータ処理能力は、膨大なデータフローを精度とスコープの向上へと導き、ソビエト連邦など過去の中央政権が廃れた原因を克服する武器となりえるのではなかろうか?

これがロボティクスの最先端である。中国は間違いなく武器化を目的として全力をかけて追いつき追い抜くつもりだろう。


現在の中国の実態

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中国の政治構造は独裁政権であり、中国共産党による単一の統治機関が70年以上にわたってその指揮を執ってきた。 2018年3月、習近平書記長は大統領職の2期制限を撤廃し、彼が一生の間権力を維持できる仕組みになる。この事は要するに一夜のうちに独裁政権となったことを意味する。 ここで我々が考えなくてはならないのは、「習近平は今後も主に外交的手段のみで世界と付き合うのか?」である。彼がそうしたとしても、彼の後継者たちが最高権力を放棄し、憲法を復活させるのを想像するのは難しい。つまり、革命が将来の政治構造を変える唯一の方法となるかも知れないが、 AIの中央知能とロボット軍を備え、遺伝的に強化された支配階級を打倒する能力が我々にあるのだろうか?

「真実は偉大だが、現実的な観点から見ると、真実についての沈黙はさらに偉大である」Aldous Huxley, Brave New World

中国における人権の実情はひどいもので、嫌がらせ、逮捕、拘留だけでなく「消える」人間など幅広く発生している。 報道の自由における世界的なランキングは、180か国中177位であり、北朝鮮よりわずか2位上という程度である。 彼らはあらゆる形態のマスコミ、及びニュースやジャーナリズムを監視し、検閲しているだけでなく、 YouTube、Facebook、Googleへのアクセスはブロックされ、民主主義、人権、宗教、平和的抗議に関する情報はファイアウォールでアクセス不能。 (更新:香港での現在の進歩)。 彼らは、顔認識と電話追跡の使用を増加させ、個々の市民に関するデータポイントをかなりの勢いで増やしているが、今後公衆衛生の名の下元に、心拍数と動脈を駆け巡るコルテゾールを測定できる高度な生体認証アルゴリズムを開発したらどうなるのだろうか?

「党は自己のために権力を求める。 我々は他人のためになることには興味はない。 我々は権力、純粋なる権力のみに関心がある。権力を放棄するつもりで権力を掌握する者はいない。 権力は目的であり、手段ではないからだ。 革命を守るために独裁政権を確立することはない。 独裁政権を確立するために革命を起こすのだ。 迫害の目的は迫害である。 拷問の目的は拷問である。権力の目的は権力である。 ようやく私を理解し始めたようだな。」George Orwell, 1984

我々に残された手段は?

これらの要因を総合的に見たとき、オーウェルの1984に描かれる全体主義的ディストピアに似たイメージが浮かび上がってくる。 しかし、そのような悲惨な未来を回避するために今出来ることは何なのだろう? 僕が見る限り、世界のパワーバランスを維持することが唯一の方法である様に思う。ユーロ圏の崩壊を食い止め、各国が団結できるかどうか。米国の継続的な縮小が進む中、被害を最低限に抑えられるかどうかなどが、中国の権威主義的な野心を食い止めるための鍵となるだろう。

これが僕らにとって何を意味するかというと、レジリエンス(回復力・困難に対する弾性)を急速に高める必要があるということだ。 私たちが今できる最も簡単でありながら最も強力なことは、庭で食べ物を栽培し、それを隣人と共有することだと思う。 食料安全保障と地域社会の結束があれば、このパンデミック後の世界に向けてより強く、より弾力的に進むことができる。 しかし食糧不足に陥った場合、西側諸国の崩壊は想像以上に急速で、破壊的であるだけでなく、おそらく意味のある期間内に回復することは不可能だろう。

また、中国との地政学的なパワーバランスを維持するためには、長期主義促進、すなわち完全な政治システム改革を実行する必要があることも明らかである。 4年から5年の民主主義は、チャーチルが言うように、他のすべての形態を除いて、最悪の形態の政府である。 再選のためにどれだけの時間、資金、先見性、そして長期的な投資が無駄に使われ続けるのか? そんな余裕が我々に残されているのだろうか? 自由、責任、ヒューマニズムを特徴とする長期的なガバナンスにおいて、AIはどのような役割を果たすことができるだろうか?次回のブログでこの課題について書いてみようと思う。

多くの質問が答えのないまま残るが、最後にこの考えさせられる引用で終えようと思う。

「教育は未来へのパスポートである。明日の世界は今日準備するものたちのものだからだ。」
Malcom X

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