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草木染が沁みる季節になりました。

長い夏に少しだけ、秋の気配が感じられるようになりました。
秋の草や木の実は草木染の原料になるものが多いです。
草木染が心を捕らえて放さないのはどうしてでしょう。
堅牢度や発色、彩度などでは 科学染料に及ばないものが多いのですが
丁寧に しっかり染められたものは
何百年、何千年と経った今でも その美しい色を伝えています。
 

草木染とは 草木の生命を色としてこの世に残すことです。
ですから草木に生命力のある時期が一番美しい色を出してくれます。
花や葉は太陽をいっぱいに浴びて
土からたっぷりの養分を吸い上げる春から夏に染めるものが多いのは
花を咲かせ葉を肥らせるために力を蓄えているから。
樹皮や木の実は秋から冬に採取するものが多く、
冬を越すために樹液を貯え 次の世代のために実を結んでいるからです。

花の色を身にまといたい、という願いは
古代からのものではないでしょうか。
花を揉みつぶして紙や布に付ければ
一瞬はその美しい色を染付けますが
日の光や水に合えばただのシミになってしまいます。
元が美しいほどにそれは無残なものです。
花のいのちは短いとはよく言ったものです。
花そのもので染めると堅牢度が低く発色も弱いものが多いので
発酵させて紅餅を作って染める紅花以外では
槐(えんじゅ)という豆科の木の蕾で
濃く澄んだ黄色を染める程度です。

それに対して葉や樹皮は日光や水に対して
堅牢度の高い染料となりますが
色としては渋みの強いものが多くなります。
ほとんどの木は茶系や灰色に染まりまが
中では薔薇科の木(梅、桜、杏など)は赤みのある色を出しますし
黄檗(きはだ)はその名の通り黄色を、蘇芳は赤紫を
ロックウッドでは紫を出します。

樹ではなく草ですと緑かかった灰色になるものが多く
蓬や葛、花粉症の大敵背高泡立草も灰緑に染まります。
八丈刈安は青みのある深い黄色です。
亡くなった霜垣さんは蕗で灰緑を タラで若緑を染めていましたが
身近にありながら蕗やタラで染めてる人を他に知りません。
どちらも堅牢度の高い美しい色です。
 
栗や胡桃などの硬い木の実は赤味の茶を出すものが多いですが
柔らかな実を付ける臭木は美しい水色を出します。

紫根、茜(赤根)はその名の通り
根っこに色の成分がありますが
沢山の色が取れるほど太い根になるには何年も掛かります。
そして 葉や実と違い 根は一度採ってしまうと
その植物自体は再生できませんので 採りすぎは厳禁です。
植物の命そのままを貰う色なのです。

成長の遅いものほど染料の成分を多く含んでいると言われ
同じ植物でも栽培されたものより自生しているものが、
肥沃な土地のものより痩せた土地のものが
染料としての質が高いとされています。
自然破壊の進む昨今、
草木染の材料を手に入れることも難しくなっています。

草木染め、大事に大事に伝えて行きたいものです。
草木染の染料は自然の中に含まれた複数の成分が絡み合って
計算できない美しさがあります。
一見 単純に見える色でも 多くの色を内在させ
コーディネイトの色使いにも多様性を生みます。

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