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爪掻き綴れ


昨日の記事で 刺繍の糸は糸を割って刺す人が自分で作る、という
お話を書いていて、爪掻き綴れも糸を作るところからだったなーと
思い出しましたので 思い出した時に書いておきます。
画像は じざいやで実演をしてもらった時のものです。

綴れと聞くと 高価な爪掻綴れを思い浮かべる方が多いと思いますが
綴れとは本来、織上がりの生地に
経糸(たていと)が見えない織りの組織のことで
織る時に 緯糸(よこいと)を反幅より長く使って織り込み
(具体的に言いますと 緯糸の杼を通すときに
  斜めに飛ばして緯糸の長さを多くします)
筬で打ち込んだ時に余った緯糸が経糸の間で
折りたたまれるように経糸を覆い隠します。
その断面図がジグザグのつづれ折りの山道のようなので
つづれ織り、と呼ばれたものです。
ですから 爪掻綴れでなくても 無地の帯地でも綴れが存在します。

綴れで柄を織る時には
まず 柄の図案を経糸の下に置いて
その図の色彩の色ごとに 色の数だけ縫取杼という
小さな杼を用意します。
普通の織物のように 反物の耳から耳へと
緯糸を通すのではなく 
例えば 白地に赤い花の柄でしたら
白糸の杼で赤い花の柄の始る部分まで通し
柄の始まりの分部から赤い花をはめ込むように
赤い糸の縫取杼で織り込みます。
花の部分が終われば まだ白糸で織ります。
柄によっては 一列の緯糸上に何色もの色が使われ
そのたびに縫取杼を持ち替えて織り進む、細かい作業です。
この細かい作業で こまかい柄を織るのに
爪先に刻みを入れて爪でかき寄せるので
爪掻綴れの名があります。

綴れ2

爪掻き綴れの職人さんの爪先。このように刻みを入れて
糸を描きよせます。
帯を織り始めたら 機から降りても爪の保護のため手袋をし
お皿洗いなどもしないそうです。

絣のように先に糸を染め分けて柄を織り出すのではなく
糸ごとに違う糸で織られるために
色と色の境目に接点がありません。
この部分に糸が渡らないための隙間ができ
それを「羽釣(はつり)」と呼びます。
きちんと織られた爪掻き綴れを見分けるポイントの1つでもあります。
(丁寧な仕事で後から羽釣をかがっているものもあります)


爪掻綴れのぼかしの部分は
職人さん一人一人が自分の感性で色を作り
また曲線の曲げ具合なども 職人さんに任せられるので
同じ柄でも 職人さんによって微妙な差がでるのも
手作りならではです。

もうひとつ、掬いつづれ、と呼ばれるものがあります。
これは 柄の部分をすくい分けて織る、ということで
そう呼ばれています。
組織として経糸を覆うことはなく 経糸が見えます。
すくい織り、と呼ぶ技法ですが
見た目が 柄を嵌め込んだ爪掻綴れに似ているので
すくいで織った綴れ、ということで
すくい綴れと呼ばれています。
爪先ではなく 小さな、櫛のような筬を使って織られます。

画像2

これが すくいの綴れ。
爪掻き綴れも すくい綴れも 紋紙を使わないので
1点づつから織ることができ
細かい表現が可能なので
じざいやでオリジナルの帯を作るときに良く使います。

近年は中国で量産で織られたものが多く
(綴れ風の機械織りも多数あります)
綴れは 硬くて 滑って 締め難い、という声が多いのは悲しいです。
本当の手織りの綴れは 使い初めは多少硬いですが
フィット感があり 締め心地の良いものです。
爪掻き綴れの職人さんも激減しました。
なくならないで欲しい技の1つです。

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