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【対談】殻を破って自在化をメジャーに<前編>

株式会社ジザイエのFounder 兼 Chairmanである稲見昌彦(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)が提唱する、自在化技術の社会実装および自在化社会の構築に向けて日々活動しています。

本日は、自在化社会の構築に向けて活動しているジザイエのFounder 兼 Chairmanの稲見昌彦と、ジザイエ代表の中川との対談インタビューをご紹介します!自在化をメジャーにするまでの過程や戦略、さらにお互いのリスペクトする部分などについて記事で紹介しています。

ぜひ最後までご覧ください✨


殻を破って自在化をメジャーに

--ERATO稲見自在化身体プロジェクトにおいて、研究成果を社会に伝えるアウトリーチ活動をお二人がどのように進めたのかを教えてください。

稲見教授(以下、稲見):
国の予算を使うERATOのプロジェクトは、いわば「国からシリーズAの投資を受けたようなもの」という大きな責任を持つ必要があると思っています。だから研究を頑張るだけでなく、社会にもちゃんと価値を伝えなくちゃいけない。
 その方法として私がロールモデルとしたのが、1998年から2003年にかけて実施された北野ERATO(北野共生システムプロジェクト)です。
北野ERATOは、ロボット関連のベンチャー企業をいくつも輩出した。そういう成果の出し方が、今後どんどん重要になってくるんだろうなと思いました。そこで、ジザイエの上級専門役員でもあり、当時北野ERATOに技術参事として参画していた石黒 周さんに相談したら、中川さんを紹介してもらいました。中川さんがプロジェクトに加わってから、「どこかのタイミングで会社を立ち上げましょう」とずっと相談していて、それがジザイエの設立につながった形です。

中川CEO(以下、中川):
最初はベンチャーの立ち上げや企業との共同研究も含めて、産学連携や社会実装を手掛けるイメージでしたね。僕自身は、プロジェクト発の技術をシーズとして研究者自身が立ち上げるスタートアップという発想に心が躍って参画しました。色々な方と話す中で、研究者の道を歩みつつもスタートアップをやりたいと考えていた何人かの研究者の方と知的財産権の獲得から実際に起業するまでお手伝いしました。

 一方で、プロジェクト発足時から「世の中とコミュニケーションしたい」という稲見先生の意向はあったんですが、マンパワーが不足し、なかなか手が回りませんでした。コロナ禍の影響で後ろ倒しになった部分もあります。
 研究成果がたくさん出てきた最終年度に、専門のチームを立ち上げてアウトリーチを加速させました。このチームには、今までアカデミックな研究のアウトリーチをやってこられた方とは違うバックグラウンドの方々に加わってもらいました。大学の先生方がイメージされるアウトリーチとは全然違うベクトルで活動したので、すごく刺激的で意欲を掻き立てる内容になったと思います。
 アイデア自体は、プロジェクト4年目に稲見先生と侃侃諤諤で議論して、僕はそれを実行できる体制を作ってきました。稲見先生の人脈も利用してチームを組成し、最終年度にやりきった感じです。

--アウトリーチ活動の中で特に思い入れがあるものについて、その戦略や反応をお聞かせください。

稲見:
例えば日本科学未来館での展示ですね。私は日本科学未来館がいわばホームグラウンドで、2001年の設立当時にボランティアをしていたくらいですが、今回の展示では「6本目の指」を研究した電気通信大学教授の宮脇陽一先生とフランス国立科学研究センターのゴウリシャンカー・ガネッシュさんがめちゃくちゃ喜んでいたのがすごくよかった。コロナ禍で全然展示ができなかった学生さんにとってもよかったですね。

私が研究を続ける大きなモチベーションの一つは、自分たちの研究成果を実際に体験している人を目の前で見ること。いつも、最初は驚いて、それから笑顔になるんです。そのリアクションがエネルギー源なんですよ。宮脇先生もガネッシュさんも、これまで展示の機会があまりなかったんですが、来場者がワーッと喜んでるリアクションを見て笑顔になった。その二人を見て、自分としても本当によかったと思いました。

 あとはやっぱり自在化コレクションですね。準備がすごく大変で、当日までうまくいくかどうかわからなくて、心拍数が130を超えてしまったほどですが、ソーシャルメディアの反応などを見ると大好評でした。これまでは実行できなかったし、これからも難しいかもしれないほどの挑戦だったと思います。

 実はこれまでのERATOの研究報告では、大規模プロジェクトらしい何かが欠けてる気がしていたんです。個別成果の報告はもちろん大切ですが、あれだけまとまった予算と、まとまったグループならではの総決算の報告手段がないってずっと思っていた。自在化コレクションで、そこを一つ突破できた気がします。まだまだ課題はたくさんあるとはいえ、あの時できたものとしてはベストだったんじゃないかな。

 公演の後にも、さらに広がりがありました。特に(デザイナーで東京大学教授の)山中俊治先生の研究室との協力で制作した「自在肢」ですね。Twitterに投稿したビデオが170万回以上も見られました。自在化コレクションでグループとして成功して、自在肢でソロデビューもした感じです。
 これらは私の力だけではできなかったし、研究者だけが集まってもできなかった。無謀なチャレンジをして、ようやく社会と触れ合えた感じがしました。今まで社会と対話はできても共感まで至らなかったのが、ようやくそこまで到達した。後から振り返った時に、自在化がようやく文化になった、その入り口だったと言えるんじゃじゃないかな。


--中川さんの思い入れがあるプロジェクトは?

中川:
さっきお話しした研究者自身が起業する会社もジザイエも、東大の稲見研でやっていた研究の種(シーズ)を継承していく形で起業しました。このような事例を一つだけでなく二つ三つと事例が作れたのは良かったなと思います。一方で、博士課程や助教の方、研究員の方がたくさんいらっしゃったので、もっといっぱい作りたかったという思いも強いです。
 稲見研発のスタートアップのエコシステムを作ることは、僕の一生をかけたミッションの一つです。この大きな目標に対して、まず自分自身で起業するアプローチをとりました。スタートアップを作るには箱だけじゃなくて人も必要だし、仕組みで解決できるところと俗人的なところのバランスをうまく取るなど色々難しい点がありますが、それだけ学びも大きかった。
 僕は以前、リクルートで新規事業を作っていたんですが、大企業では既にある程度温まった(確立した)技術を基にします。
一方で、自在化のように斬新な技術の事業化は、大企業では難しい。先端的な技術は、世の中の理解をちゃんと獲得しながら進めていく必要もありますし。企業も市場もまだ温まっていないんですね。そこをスタートアップという解決策で突破しようという狙いです。
 アウトリーチ活動では、自在化コレクションや映画といった、かつてない方法によって、世の中の色々な層にアプローチできたと思います。社会の理解を深めて市場を温めていくために、非常に有効なソリューションだと思いました。それに、こうしたアウトリーチの手法を実際に民間企業でビジネスをされている方たちに見せると結構評判が良いんですよね。その結果「世の中の反応もいいんですね」となって、企業側も受け入れやすくなる。このように最先端かつ斬新な技術であればあるほど、世の中に受け入れられるのに時間がかかるので、そこをどう橋渡しするかというのを意識して取り組みました。

稲見:
スタートアップが一つだけだと特別な例に見えますが、二つ以上あると伝統になるんですね。二つできたから、今後うちの研究室には起業に興味がある人がどんどん集まってくるんじゃないかなと。私もそうだったんですが、博士課程も一人だと行きたがらない。一人だとできる気がしないけど、同期にもう一人いて、二人だったら協力して生きていけるかなと思って踏み切れたんです。
 東京大学としても、起業を促す方針があります。今、日本で一番スタートアップが多い大学は東京大学ですから。
 ジザイエがしていることは、国から資金を受けたフェーズが終わった後に、社会の中で資金を集めて自在化身体プロジェクトを続ける仕掛けでもある。大学が学問の自由を守るためには、部分的にでも経済的な自立を目指すことと、それによる自在性の獲得も大切なんです。


自在化社会を本当に作るには

--プロジェクトの5年間を振り返って、自在化身体技術のアウトリーチや社会実装に関してどんな課題が出てきましたか。

稲見:
今までのアウトリーチは、市民講座のような形で最先端の研究を分かりやすく噛み砕いて説明する、「上から目線啓蒙主義」みたいな感じでした。それが悪いとは言いませんが、アウトリーチの本質は手を携えることなんですよ。自分から一方的に手を出すだけではなく、双方向で手をつなぐんです。

 社会と手を携えるには、色々な講演会で話すだけでは限界がある。講演会に来ていただける方は、既にツイッターでつながっているとか、最初から科学技術に興味がある人ばかりです。そういう人は日本の中で、実はマイノリティなんですよ。私はそれを小学生の時に痛いほど学びました。私がいくら科学技術の話をしても、みんなにスルーされてしまうんですよね。
 でも今の科学技術って、社会の中でスルーされる存在になってしまっていると思うんですよ。これだけ科学技術立国といいながら興味を持つ人が少ないのは、「自分には関係ない」と思っているから。この壁を破るには、やはり共感してもらうしかない。そのためには、これまでのサイエンスコミュニケーションのチャンネルとは別のチャンネルで伝えていくのが大切です。それが自在肢であり、自在化コレクションであり、子供の科学でも紹介頂いた6本目の指やジザイ・フェイスです。もちろん起業も。

中川:
僕が意識してきたのは、稲見先生がプロジェクト当初から仰っている「シリコンバレーの基準だとシリーズAの期待値なので、それに応える責任がある」っていう世の中への責任感ですよね。でも、その本当の意味はスタートアップ経験がないと多分理解しづらい。要は、今後のラウンドを踏まえていくってことなんです。シリーズB、C、Dの投資をやって、上場してリターンがありますよって話です。そこまで考えると、稲見先生が言っていた「上から目線のアウトリーチ」では無理なんですよ。
 期間中にやったことを発表して終わりのプロジェクトがありがちな中で、自在化プロジェクトはそれだけを目的にしてきたわけではない。そこが明確に違うんだと思う。だから僕は、ERATOが終わった後もプロジェクトを続けていくためのアウトリーチとか、この領域が発展していくための社会実装を常に意識していたんです。そうじゃないとやる価値がないと思っていたし、今もそう思っています。だからこそ、常にチャレンジングだったし、誰もやってない方法を開拓しなきゃならなかったから、すごく難しかったですけどね。

--一緒に仕事をする中で、お互いにリスペクトしているところはどこでしょうか。

稲見:
中川さんは研究と研究者に対してリスペクトがあるのがいいですね。私自身も過去に起業の準備をして失敗したり、修士の時には友達と一緒に会社を作ったりもしましたが、そういう時に、ちゃんと技術の中身を理解して、価値をわかってくれる人はなかなかいないんですね。人を見る人はたくさんいて、それもすごく大切なんですけどね。中川さんは両方わかってるので安心できた。

中川:
ありがとうございます。
稲見先生は、他の研究者とは全然違う存在ですね。まず知識の量。言葉にすると陳腐ですが、知識の量と興味の範囲は、僕が今まで付き合ってきた人の中で一番すごい。
 例えば何かを伝える場合に、普通は自分の分野の言葉で話しがちなのに、稲見先生は基本的に聞いてる人たちに理解しやすい言葉を選んで表現できるんです。ご自身の研究領域でもトップなのに、そうじゃない人たちにも理解できる言葉で話せる人には、あまり出会ったことがないですね。ものすごく難しいことなのに、それを毎回されているのが本当にすごい。
 しかもビジネスへの理解もものすごくある。ご自身の経験もあるし、ビジネスとして重要なところもちゃんと分かるのがすごいなって毎回思います。

稲見:
自分がやりたいけどできなかったことを、お互いに持っていたのかもしれないですね。私も10年ほど前に研究費の獲得が連敗していた頃には大学なんて辞めて、「そんなところに頼らずに生きていくんだ」みたいに思ったこともあったけど、できなかった。私は大学を選んだんです。もしかすると中川さんも技術や研究に興味があったかもしれないですが、ビジネスを選んだ。それで、お互いに補完する感じになったのかもしれません。

中川:
研究者が自分のテーマで起業する話をしましたが、僕は東大精密工学科の淺間・山下研で修士まで出て、自分自身がそうしたかったんですよね。今でも「そのまま博士へ行っていたら」って考えることもあります。結局その時、リクルートを選んだのは、研究のことを理解しつつもサステナブルなビジネスにしていく方向性を選んだわけです。その意味で、稲見先生は僕にないものをたくさん持っておられるベストパートナーです。

稲見:
だから法人なんですよ。法人は社会性を持つ動物である人類の発明であり、なおかつ自在化身体の言葉でいうと「合体」なんです。



対談の後篇は、次のnote記事で公開いたします。
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