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15.ふたたび新婚旅行⁉︎へ

いよいよ体も次の治療の段階へときていた。頭では大変なことになっていると理解はしているが、頭が回らない。悲しいとか怖いとかいう感情が麻痺して、なんだか他人事のようで、真剣に考えられない。私の脳が私の意に反して現実逃避をしているのだろうか。

それでも現実が変わることはない。残される治療はあと2つ。

1.腫瘍の摘出手術
2.放射線治療

私の腫瘍は脊髄と絡み合っていたので、放射線を当てると脊髄も一緒に損傷してしまう。放射線を当てた時点で下肢の機能を手放さなければならない。

それに比べて摘出手術は、脊髄の損傷を少しでも抑えられれば、下肢の機能が残せる可能性が残っていた。

少しでも望みがあるのなら手術を受けようと思ったが、夫の勧めで他の希望も込めてセカンドオピニオンを受診することになった。そして北海道、大阪、栃木と3か所の病院を訪れた。

今思い返すといい旅になった。セカンドオピニオンが目的で旅のつもりではなかったが、セカンドオピニオンは現実を受け入れるための儀式的なものだったような気がする。

二人での旅行は新婚旅行以来。長時間の座位がキツくなって来ていたので、プチ贅沢でグリーン車を利用したり、ちょっと高めのホテルを利用したりと病気を忘れられるひとときだった。

北海道では札幌の病院だったので、レンタカーで小樽まで足を伸ばした。小樽ではガラス工房、小樽運河を周り、お寿司を食べた。

その時食べたウニは今でも忘れられない。銀座の高級な寿司店よりもはるかに美味しい。
               ※私調べ。
綺麗な黄色で臭みが全くなく甘くてこんなに美味しいウニは初めてだった。また目の前で生け簀から引き上げたばかりのイカをさばいてくれた。胴は刺身に、下足は炭火焼きに。海無し県で育った私には目にも美味しい。

大阪では吉本のお笑いを見に劇場を訪れ、初めてお笑いライブを楽しみ、道頓堀のグリコの看板にも会うことができた。

それからあべのハルカスも訪れた。大阪の街を一望したが、夫は高所恐怖症を発動し、窓から離れ、展望室の中心から空を眺めていた。何のために登って来たのやら…と横目で見ながら私はその高さを楽しんだ。

夜は鶴橋で焼肉も食べた。駅を降り路地に入って行くと、韓国語が飛び交い韓国食材がたくさん売られていた。ここは韓国⁉︎と錯覚しそうな街並みだった。夫婦揃って焼肉好きなので、入ってみたいお店がいっぱいで悩んだが、何となく選んだ店がこれまた美味しい‼︎ 店内は肉を焼く煙で靄がかかっていて、炭火で肉の油が焦げる香りが益々食欲をそそった。服に染みついた焼肉の匂いは、明日まで続いたが大満足だった。

こんな人生の楽しみを子育てと仕事に追われてできなかったことをちょっと悔やんだが、こんな機会でも味わえたことはいい思い出になった。

結局、どちらの病院でも診断は同じだった。心のどこかではもしかしたら何か良い治療法があるのではと期待をしていたが、答えは同じだった。下肢機能を残せる可能性があるのは、摘出手術しか方法がなかった。摘出手術は難しい手術だが、少しの望みを掛けて手術をすることに決めた。そして、脊髄を専門にしている病院へ転院することになった。


16話目へ続く…


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