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思い出す

2024年3月11日に発売となったばかり、詩人の大崎清夏さんのパーソナルな日記をおさめた一冊『私運転日記』、大崎清夏さん直筆のなめらかなサイン入りで入荷しています。

大崎清夏『私運転日記』(twililight)

「試運転でも詩運転でもなく、私運転」。私が私を私として運転しようとする日々が綴られています。日記ではあるのですが、文体、リズム、音感は、まさしく詩人・大崎清夏さんのそれであり、画家のnakabanさんが描かれた美しくたゆたう装画が予感させてくれるように、読み始めれば、大崎さんのパーソナルな世界へとどんどん引き込まれてしまいます。私が私を私として運転する、本当に"ひとり"として"ひとり"を生きることの、困難さと美しさよ。

こんな素敵な本を作られたのは、東京・三軒茶屋の書店・twililightの店主・熊谷充紘(くまがいみつひろ)さんです。

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きのうから一気に春らしくなりました。3月も後半。あたたかな空気が流れだすと、どうも、いろんなことを思い出してしまうからいけませんね。遥か昔、「夏の午後」という曲が街中でよく流れていた時代がありましたが、「春の午後」は静かに本を読んで過ごしたいものです。イラストレーター・箕輪麻紀子さんの最新作品集『Afternoon Reading』(DOOKS|2023年11月刊行)自由港書店に入荷しています。"本のある風景とその周辺"が描かれています。"Still life"は静物、静物画、の意。心休まる"Still life"に満ちた一冊です。

箕輪麻紀子『Afternoon Reading』(DOOKS)

巻末には、台湾のアーティスト・Chihoiさんによる英詩"For the Cat and Cat-at-Heart"も収められています。夜明け、そして、再び真夜中。箕輪麻紀子さんのイラストレーション世界の豊かな余韻を、言葉でさらに広げてくれます。声に出してゆっくり読みたい英詩です。

箕輪麻紀子『Afternoon Reading』(DOOKS)より

自由港書店では、箕輪麻紀子さんの作品集『Film』(ELVIS PRESS|2022年7月刊行)も取り扱わせていただいています。

箕輪麻紀子『Film』(ELVIS PRESS)

"パンデミック"の最中に制作された、という作品集です。気が付けばどこかへ消えてしまいましたが、一時期、時間が止まってしまったかのような時期がありました。STAY HOME。SOCIAL DISTANCE。本作は、そうした時期に制作されたもの。まるで古びたフィルムカメラで撮影されたような―――そしていつかどこかで見たことがあるような―――懐かしい風景が静かに描かれています。

箕輪麻紀子『Film』(ELVIS PRESS)より

自由港書店では、箕輪麻紀子さんの作品集『ESCAPE』(ELVIS PRESS|2018年10月刊行)も取り扱わせていただいています。"車のある風景"が描かれています。"車"は自由の象徴です。"車"さえあれば、いま、ここから、どこへでも、エスケープできるのですから。

箕輪麻紀子『ESCAPE』(ELVIS PRESS)

余談ですが、私個人はこの本(『ESCAPE』)に、2018年の暮れ、京都の恵文社一乗寺店さんで出会いました。なんてすてきな本なんだろう。東京から車でエスケープしてきた私は、そう感じたのでした。やがて京都から神戸に移り、私は車を手放しました。そして、"自由の港"という名前のついた書店を開き、現在は、書店と家がある半径1kmほどのエリアを、日々トボトボと歩きながら生活しているのでした。車がなかったら、ここまで辿り着けなかったでしょう。

箕輪麻紀子『ESCAPE』(ELVIS PRESS)より

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村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』(単行本|中央公論新社|2024年2月新刊/復刊)自由港書店に入荷しています。

村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』(単行本|中央公論新社|2024年2月復刊)

先週3月10日(日曜日)に開催されたマルシェ「BOKETTO」。おかげさまで無事に終了となりましたが、実は私、その日、朝寝坊をしてしまったのでした。2021年5月に店を開業してから、朝寝坊してしまったのは初めてのことでした。その2日前の金曜日、どうしても仕事で東京に行かねばならず、前日の木曜日夜の新幹線で東京入りして、数時間仮眠しただけで金曜日猛然と仕事をしたものの、それでも仕事がギリギリまで押してしまったために、その日、神戸に帰ることができなくなり、再び数時間仮眠しただけで翌朝の始発の新幹線(東京駅6時発・のぞみ1号・博多行き)で土曜午前に神戸に戻ってきて、土曜日は店を開き、店を閉じたあとにマルシェ出店の準備をしてーーー、家に着いたところで倒れて気が付いたら眠っていたのでした。そう、目覚ましをかける間もなく、眠ってしまったのでした。しかし、そこは須磨。朝になれば、鳥の声と子どもたちの声でたいへん賑やかなのです。おかげで、目覚ましがなくとも、朝日とともに目覚めることができたのです。しかし、本来であれば、日が昇る前に目覚めて準備を始めなければならないはずだったのです。

いつもマルシェを手伝ってくれている(文学を愛する)男子学生さんにも、朝早くから店前に来てもらっていました。そう、彼を、店の前で待たせてしまったのでした。1時間ほど遅れてしまったのですが、彼は、「お疲れなんでしょう、気にしないでくださいね」と言ってくれ、何事もなかったかのように黙々と手伝ってくれ、とにかく、マルシェには、無事に間に合ったのでした。

そんな彼が、「この本はどうしても自由港さんで買いたいんです」と言ってくれたのが、今年2月に中央公論新社さんから復刊された、単行本の『中国行きのスロウ・ボート』。1983年に刊行された村上春樹さん最初の短編小説集が、当時の装幀そのままに復刻されたのです。装幀・装画は安西水丸さん。この本での仕事が、村上春樹さんと安西水丸さんの初仕事だったのだそう。安西水丸さんの絵はすてき。日常というものは、永遠に続くかのように見えて、実に儚いものなのだと教えてくれます。

村上春樹さんは神戸高校(兵庫県立神戸高等学校)の卒業生です。時は流れる。スロウに行きましょう。

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