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学校部活動の地域移行に向けた部活動改革の視点に関する研究 ~岐阜県多治見市の学校部活動と地域ジュニアクラブとの連携による取組の調査を通して~

 学校の働き方改革を踏まえた部活動改革が各地で徐に動き出している昨今において、いち早く学校部活動の在り方に目を向け、持続可能な学校部活動の仕組みづくりの実践を進めてきた岐阜県多治見市の取組(以下、多治見方式)が全国的に注目を集めている。

 日本部活動学会の初代会長で学習院大学文学部教育学科教授である長沼豊氏の著書「部活動の不思議を語り合おう」(ひつじ書房、2017年)には、部活動改革の6つのフェーズ(表1)が掲載されている。長沼氏は、部活動改革の6つのフェーズの最終段階にあたる「フェーズ6」について、「必修クラブ活動の復活+部活動の学校外への移行」と記載しており、「スポーツや文化を子どもたちの興味・関心に基づいて主体的に選択して活動する」という教育的価値のあるクラブ活動を教育課程内の学校教育として残しつつ、今ある課外活動としての学校部活動を外部に完全移行することを最終目標として示している。「フェーズ5」には、「勤務時間内の部活動+それ以外の活動の外部化(多治見方式)」と示されており、学校部活動を完全に外部化することを最終目標とした場合においては、多治見市の学校部活動の仕組みは、6段階のうちの5段階目に位置するほど評価の高い仕組みとして紹介されている。

 2017年11月に多治見市教育委員会は、スポーツ庁による運動部活動のガイドライン作成に向けた会議の場において、多治見方式についてのプレゼンテーション発表を行っている(スポーツ庁ホームページ>政策>運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議(第4回)議事要旨)。教師の負担軽減の視点においては一定の評価を得つつも、外部指導者の質の担保や保護者への負担が課題として指摘された。多治見市教育委員会がスポーツ庁主催による日本の学校部活動の在り方を検討する会議での発表に至ったことは、多治見方式が全国的に注目されていることを象徴しているといえる。

 スポーツ庁は学校部活動の地域移行について令和5年度には全国展開することを明示しており、全国の自治体にとって、学校部活動の在り方に関する検討は急務である状況下といえる。多治見方式の実態を明らかにすることが、学校部活動の地域移行に向けた一つの先行事例としての参考資料となり、本調査結果の考察を通して、自治体や学校が部活動改革を推進する上で必要な視点を示すことを目的とする。

<表1>

部活動改革の6つのフェーズ Ver2

フェーズ1 休養日の設定 + 活動時間の上限設定

フェーズ2 外部指導者(または部活動指導員)の確保

フェーズ3 顧問の選択制の導入 + 生徒の全員加入制の廃止

フェーズ4 外部クラブの組織化または企業支援の導入

フェーズ5 勤務時間内の部活動 + それ以外の活動の外部化(多治見方式)

フェーズ6 必修クラブ活動の復活 + 部活動の学校外への移行

 ※ 長沼豊研究室サイトより(https://naganuma55.jimdofree.com/

2 調査方法

(1)多治見市教育委員会教育推進課の教育指導監及び主幹への半構造化インタビュー

(2)多治見方式に関するメディア情報(朝日新聞社、NHK放送局、教育研究機関等)の集約
(3)多治見方式を導入した東濃地区の公立中学校に勤務経験のある教師への非構造化インタビュー

3 調査内容

(1)多治見市における部活動改革の変遷

2000年
部活動の在り方を検討する委員会の発足

※ 校長会、教頭会、部活動顧問会、保護者、生涯学習課、教育委員会、体育協会、体育指導委員会、文化振興事業団 以上の各組織の代表者委員会
岐阜県スポーツ振興審議会答申の発表を受け、多治見市としての部活動改革を開始

※ 学校部活動は月曜から金曜までの活動を基本とする(休日は行わない)

※ 放課後や休日はスポーツクラブに加入し、地域で活動できる体制を構築する

※ 家庭、学校、地域社会が一体となって少年のスポーツ活動を支える

2002年
多治見市立小泉中学校区にて「こいずみ総合クラブ(KSC)」の設立に向けた検討を開始

※ 制度規約、保険手続き、施設の利用などの具体的な運営方法について議論を重ねる

2003年
部活動顧問、地域のクラブ指導者、保護者が連携して少年のスポーツ活動を支える

「こいずみ総合クラブ」(現ジュニアクラブの原型)が発足

2004年~
学校部活動とジュニアクラブ活動の取組が、多治見市内の他中学校区にも徐々に広がる

近隣の東濃地区(土岐市、中津川市、恵那市、恵那市、瑞浪市)が徐々に多治見方式の導入を開始

2013年
多治見方式の発足10年を機に部活動・クラブ活動検討委員会を発足し取組の改善を検討

※ PTA 学校、文化スポーツ課、体育協会、教育委員会の代表者委員会

2014年
部活動・クラブ活動検討委員会が多治見市長及び教育長への提言を行使

① クラブ指導者・保護者・学校の意志疎通の促進

② 指導者バンクの設置と斡旋

③ クラブ規約の設置と見直し

2017年~
スポーツ庁による運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議にて多治見市の取組についてプレゼンテーション発表

全国各地の複数自治体からの視察依頼に対応

(2)多治見方式の概要

  ① 多治見市及び市内中学校の概要(2020.5.1現在)

《多治見市人口》
 11万1233人

《中学校数》
 8校(陶都中,多治見中,平和中,小泉中,南ヶ丘中,北陵中,南姫中,笠原中)

《中学生徒数》
 2708人

《中学校規模》
 最小142人 最大570人

  ② 多治見市内学校部活動の概要

《学校部活動数》
 112部活動(文化系部活動含む)

《部活動の位置づけ》
 学校教育の一環として部活動経営の充実を図り、学校の管理下で実施

《生徒加入率》
 100%(全員加入制を採用)

《指導者》
 管理職以外は全教師が顧問を担当

《活動日・活動時間》
 平日の業後から16時45分まで

 ※ 平日の朝や16時45分以降及び休日の学校部活動は行わない

《大会への参加》
 中学校体育連盟の大会のみ参加可

 市の中体連大会を休日に行った場合には市内一斉の振替休日を設ける

 ※ 協会等の大会は部活動として参加しない

 ※ 休日の学校部活動は行わないため他校との練習試合などはない

《保険関係》
 スポーツ振興センター

③ 多治見市内ジュニアクラブの概要

《ジュニアクラブ数》
 89クラブ(運動系部活動及びブラスバンド部の全てにクラブ併設)

《クラブの位置づけ》
学校管理外組織として保護者が設置(クラブ代表は全て保護者)

《生徒加入率》
およそ55%(1500人程度、運動系部活動及びブラスバンド部)

 ※ 一般クラブ加入生徒10%
(270人程度、ジュニアクラブとの重複あり)

 ※ 学校部活動のみ生徒35%(950人程度)

《指導者》
地域の外部指導者及び保護者(見守り活動)

 ※ 教師も外部指導者として指導可(要登録)

 ※ 市内全教師の3割程度が外部指導者として登録

 ※ 教師以外の地域の外部指導者は75人

 ※ 全てのクラブに複数名の指導者を配備

 ※ 2014年より指導者バンク制度導入。100人登録も活用歴は未だ無し

 ※ クラブ代表者は全て保護者。見守り活動は当番制
 ※ 指導者の報酬はなくボランティア

《活動場所》
学校施設及び市体育施設

 ※ 17時00分~19時00分は優先的に利用可(市の方針)

 ※ 使用料金の免除

《活動日・活動時間》
平日17時00分~19時00分(各クラブで設定)及び休日

 ※ 2017年より週5日以内、平日2時間以内、休日4時間以内、休日のうち月2回の休息日設定を規定

《大会への参加》
協会主催の大会、他クラブとの練習試合や他地区中学校との練習試合

《保険関係》
スポーツ安全保険(加入の義務化)

《受益者負担》
月額1000円程度

 ※ 遠征での指導者の交通費、協会登録費、大会参加費等

4 考察

 本調査で明らかになった上記の仕組みを踏まえ、多治見方式の特徴やメリット・デメリット(検討課題)などを、多治見市教育委員会の教育指導監や主幹、メディア情報、多治見方式下で勤務経験のある教師の言葉から考察する。

(1)特徴から考察する一視点

 2000年に学校部活動の在り方を議論する委員会を発足し、クラブ化に踏み切るに至った背景から、多治見方式の一つの特徴を捉えることができると考えた。教育指導監や主幹へのインタビューにより得た情報は以下の通りである。

・ 少子化による廃部の拡大
(2000年前後の3年間で市内61部活動が消滅)

・ 学校規模による部活動数の違い(選択肢の制限)

・ ニーズの多様化
(一般クラブ、習い事、趣味などの時間を確保したい生徒の増加)

・ 競技力向上志向の高まり
(生徒や保護者からの専門的な指導を望む声)

・ 冬季の活動時間確保や3年生引退後の活動機会確保を望む声の高まり

・ 教職員の異動による影響

・ 学校週5日制の導入により休日の過ごし方の検討
(生徒・保護者の立場と教師の立場の両面)

・ 国の「スポーツ振興基本計画」による総合型地域SCの在り方の検討

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