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公立学校における部活動の運営管理業務の外部化に関する研究  ~休日の部活動運営管理を外部化し受益者負担型に移行した私立学校の事例検証を通して~


1 背景と目的 

 令和2年9月1日、スポーツ庁から「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」が示された。いくつもの抜本的な改革案のなかで、「部活動は必ずしも教師が担う必要のない業務であることを踏まえ、休日に教科指導を行わないことと同様に、休日に教師が部活動に携わる必要のない環境を構築すべき」とし、「休日において部活動を地域の活動として実施できる環境を整えることが重要」と示されたことは、教師の負担軽減の視点において、今後の大きな進展を期待させる。
一方で、地域部活動への移行には課題も山積する。その一つが人材確保の問題である。長年に渡る教師の献身的な働きによって肥大化した学校部活動を急激に地域に移行しようとするのは、地域人材の確保の面で弊害が生じることは想像に容易い。また、学校教育の一環として、好ましい人間関係の構築や学習意欲の向上、自己肯定感、連帯感の涵養など、生徒の多様な学びの場としての教育的意義を鑑み、学校や教師側が学校部活動に積極的に携わり続けたいとする考え方も広く存在する。つまり、地域部活動への移行は段階的に進めざるを得ない状況であり、すぐに学校から部活動を切り離すことは現実的でないと考えられる。
これらも踏まえ、「地域部活動において休日の指導を希望する教師は、教師としての立場で従事するのではなく、兼職兼業の許可を得た上で、地域部活動の運営主体の下で従事する」ことが明示されており、文科省は、兼職兼業の許可の仕組みを適切に運用できるよう、兼職兼業の考え方や労働時間の管理、割増賃金の支払い等の整理を教育委員会に求めている。
そこで、部活動の運営管理の外部化や教師の兼職兼業による指導など、2018年から先進的に部活動改革を推し進めている、東海地方にある私立学校における部活動改革の概要を明らかにし、公立学校の部活動改革の推進に向けた一つの参考資料としたいと考え、本調査を行った。

2 調査方法 

(1)対象:T学園(中高一貫校)及び株式会社T研究所 
(2)方法:T学園の校長、事務長へのインタビューによる調査 

3 調査内容 

(1)T学園における部活動改革の変遷
2015年4月 (株)T研究所の設立 学習サポート、教育研究事業
2017年3月 労働基準監督署の監査が入り労務環境改善の改革が始まる
休日部活動は業務外とすることを決定
(ただし勤務時間内部活動は業務)
休日部活動の運営管理を(株)T研究所に業務委託を決定
2018年4月 休日の部活動について教師の兼職兼業による外部化を開始

(2)T学園の概要
① 生徒数(令和元年)
T高校   1年334名 2年356名 3年341名 合計1031名
T中学校  1年252名 2年261名 3年257名 合計770名
② 教員数(中高合算)
校長1名 副校長1名 事務長1名 教頭3名
事務職9名 教諭92名 講師18名
③ 部活動数
【中学校】
男子部:7
野球、サッカー、ハンドボール、バスケットボール、バレーボール、ソフトテニス、卓球
女子部:3
バスケットボール、バレーボール、ソフトテニス
男女部:12
陸上競技、水泳、柔道、剣道、美術、合唱、自然科学、
英会話、かるた、ブラスバンド、先進技術研究゙
【高等学校】
男子部:7
硬式野球、サッカー、ハンドボール、バスケットボール、バレーボール、ソフトテニス、卓球
女子部:3
バスケットボール、バレーボール、ソフトテニス
男女部:23
陸上競技、水泳、柔道、剣道、美術、合唱、将棋、自然科学、英会話、
競技かるた、ブラスバンド、囲碁、演劇、先進技術研究、ギター、天体観測、
料理研究、茶道、写真、文芸、数理研究、経済ビジネス、クイズ同好会
④ 教師の就業形態
ア 勤務時間
・ 通常:始業8時20分、終業17時30分、昼休憩1時間
 1日の合計8時間10分勤務
・ 短縮:始業8時20分、終業16時00分
 ※ テスト期間中は1時間30分の短縮勤務
 ※ 13時30分以降は勤務場所を問わない勤務(在宅勤務等)
イ 勤務日
・ 月~金曜及び隔週で土曜勤務
ウ 年次有給休暇
・ 年間20日を付与。その他、年間5回の定期考査において、各考査期間中の1日を時季指定年休とする。(年間5日分付与)
⑤ 平日における部活動(A活動)
・ 中学1年及び高校1年の生徒は、いずれかの部に全員が加入する。
 ただし、入部後の休部や退部については自由に希望できる。
・ 管理職以外の教師は、業務としていずれかの部の顧問を担当する。
・ 勤務時間内の部活動のみとする。
 (各学級の終礼後~17時30分まで)
・ 毎週金曜の業後は会議等をいれない曜日とし、部活動の時間として確保する。原則、主・副に関わらず、顧問全員が業務として部活動指導にあたる。
・ 文化系部活動は金曜のみ活動する部が多数。運動系部活動は週2~4回の活動が多い。

<A活動の活動時間> ※ 勤務時間内で行う教師の業務としての部活動
月 16:30~17:30 1時間
火 15:30~17:30 2時間
水 16:30~17:30 1時間
木 職員の会議や生徒会活動等
金 15:30~17:30 2時間
※ 年間を通して17:15片付け、17:30最終下校。

(3)株式会社T研究所(以下T研)の概要
① 業務内容
・ T学園の生徒に対する学習指導(受験対策、検定試験対策等)
・ 教育手法研究、教育のICT化研究、研究会の開催
・ 休日の部活動の運営管理や財務管理業務
② 休日における部活動(B活動)
・ 休日の部活動指導を希望する生徒の保護者よりT研登録費(年間6000円)を回収する。
※ 従来は月800円のPTA会費を徴収、うち600円を部活動に利用。部活動間の不平等を解消するため、部活動への利用を取り止め、会費を250円に引き下げた。
・ T研登録費の納入は1年を3期に分けて設定し、1~2期間(2000円~4000円)のみ登録することも可とする。
・ 休日の部活動の上限時間を3時間とする。
・ 顧問への指導料を時給1000円と設定する。
・ 各部が休日に行う部活動の上限を年間60回とする。
・ 公式な大会への参加以外は、土日どちらか1回の活動とする。
・ 年度当初に各部の顧問が、休日に行う部活動日(大会参加日を含む)の年間計画を立て、年間の指導料の試算をT研に報告する。なお、指導料については部員数で頭割りをして算出する。
・ 年度当初に各部の顧問が、協会登録や大会参加等にかかる年間費用の試算をT研に報告する。なお、チーム登録費等、チームとしてかかる費用については部員数で頭割りをして算出する。
・ 年度当初にT研より各部に所属する生徒の保護者に対し、T研登録費及び指導料・大会参加費等を請求し、徴収作業を行う。
・ 年度末に各部の顧問は、年間の指導料や大会参加等の費用を算出してT研に報告する。
・ T研は報告書の作成及び残金についての返金事務手続きを行う。

<陸上競技部と野球部における一人あたりの徴収額>
【陸上競技部】 44名 
T研登録費 4000円(1・2期分)冬場の活動は行わない
年間活動費 8000円
・ 指導料、顧問交通費、協会登録費、記録会参加費等 
【野球部】 22名
T研登録費 6000円(1~3期分)上限60回の活動
年間活動費 24000円
・ 指導料(2人顧問分)、顧問交通費、球場使用料、道具購入費等

4 考察

 本調査で明らかになったT学園の部活動改革の大きな特徴として、以下の3点に注目したい。

① 休日部活動(B活動)の運営管理、財務管理の外部化
② 休日部活動の指導自体は外部に出さず、
  教師の兼職兼業で担っていること
③ 変形労働時間制の採用により、平日部活動(A活動)を教師の業務として勤務時間内で行っていること

 ①の仕組みについては、休日の部活動は完全に受益者負担による活動となっており外部化が成立していること、顧問と保護者の直接的な金銭面でのやりとりがなくトラブルが回避できること、財務管理全般の教師の事務作業が縮減できること、などの点において今日的な部活動改革の方向性と照らし合わせて考えると、有効に機能していることがうかがえる。

公立学校に生かすことを考えた場合、T研の役割を総合型地域スポーツクラブが担うことも一つの提案として考えられる。自治体によっては10校以上の学校を抱える市町村もあり、管理業務が膨大になることが課題としては残るものの、地域人材の確保が困難な状況であり当面は教師の兼職兼業に頼る必要のある自治体としては、休日の地域部活動への移行のモデルとして汎用性が高いと考えらえる。また、この仕組みが制度として成熟をしたら、地域人材の確保ができた際には、教師の兼職兼業から地域人材の活用へと円滑に移行することが可能となる。

②について、T学園として外部指導者を採用している部活動はバスケットボール部、剣道部、ブラスバンド部、茶道部の4部活動にとどまっており、教師の兼職兼業に頼らざるを得ない状況であるといえる。先にも述べたように、公立学校においても、地域人材の安定的な確保は長期的な計画で進める必要性があるため、T学園と同様に、外部指導者による指導と教師の兼職兼業による指導のハイブリット型で安定的に指導者を確保することが、当面の現実的な方策と言えよう。

③については、平日の部活動を教師の勤務時間内で行うための手立てとして有効に機能していると言える。私立学校であるがゆえに、勤務時間の弾力的な運用が可能であったと考えられるものの、公立学校においては、制度改正に至るまでの道のりは険しいことが予想される。北海道において1年単位の変形労働時間制を採用することが話題となっているが、現職の教師やマスコミが批判の声を上げている状況も見られる。通常勤務17時30分までという設定には抵抗感を抱く公立学校の教師も相当数に上ることが考えられる。

 現行制度の範囲内で方法を探るとすると、平日における教師の部活動指導も兼職兼業の扱いとし、勤務時間を過ぎた時間帯の指導については外部指導者として指導にあたることができるような仕組みが考えられるであろう。

5 まとめ

 本研究では、休日の地域部活動への移行を推し進める上で、部活動の運営や財務管理業務の外部化が有効であり、公立学校への汎用性があることも示唆された。

 課題としては、教師の働き方改革の視点で、持続可能な部活動の在り方の一つのモデルとして取り上げて検証したが、T学園は県内屈指の進学校で、生徒や保護者は学習に重きを置く傾向があり、公立学校と比較すると、地域部活動への移行に批判的な考えをもった生徒や保護者はそれほど多くないことが予想されるため、公立学校への活用を検証する際には、生徒や保護者の意見を聞くことも必要になってくることが挙げられる。私立進学校と公立学校の生徒や保護者がもつ、休日の部活動運営の外部化に関する意識の差については、今後も追調査が必要であると考えている。

 今後、地域人材が安定的に確保でき、休日のみならず平日の活動においても外部指導者による指導が可能になった場合には、徐々に学校から部活動が切り離されていくことも十分に考えられる。しかし、教師の働き方改革を踏まえた部活動改革の推進は、教師の立場や視点に限定して議論を進めてはならないと考えている。児童・生徒、保護者、地域を置き去りにすることなく、それぞれの立場に立った見方や考え方を大切にしながら、声を聞き、検証を重ね、持続可能な部活動の在り方を模索していきたい。

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