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まとめ:国家賠償法と損失補填の判例

1条

  • 裁判官がした争訟の裁判の違法性(最判昭57・3・12)/違法性なし
     特注ミシンの製造販売業者Xと縫製業者Aとの争訟で、裁判官が個別的牽連性がないものに牽連性を認める商法上の規定を適用しなかったせいで、(製造業者Xが)裁判で敗訴したことに対する違法性。
     当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がないと違法とは言えんわ。(=裁判官のした争訟の裁判(司法権)も違法になることはある)。

  • パトカーによる追跡行為の違法性(最判昭61.2.27)/違法性なし。
     国家賠償法条の違法性を生じるためには、追跡が職務目的を遂行する上で不必要であるか、逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要する。
     パトカー追跡行為の違法性も場合によっては認められる。

  • 在宅投票制度廃止事件(最判昭60.11.21/1985年)/違法性なし
     在宅投票制度の悪用が続出し、1952年に同制度を廃止。その後、投票できなかったXが精神的損害を受けたとして提起した。
     立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合は違法性が認められる。(=立法権も場合によっては国家賠償法の対象になる)

  • 国会議員が国会で行った質疑等(最判平9.9.9)
     国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、当然に国の損害賠償責任が生ずるものではない。
     国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るよう場合は国の損害賠償責任が生じる。(=国会議員の国会での発言も国家賠償法の対象になり得る。)

  • 税務署長の行った所得税の更正(最判平5.3.11)/違法性なし
     職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限りって違法性を帯びる。
    (※今回の場合は、税務職員から不正を指摘されても調査にも協力しないから、署長が職務上尽くすべき注意義務を尽くしての結果だから、違法性は到底認められない。)

  • 検察官の公訴提起行為(最判平元.6.29)/違法性なし
     公訴の提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば違法性はない。
     要約:ちゃんと捜査して、十分な嫌疑があれば無罪であっても違法性はない。

  • 検察官の不起訴処分(最判平2.2.20)/違法性なし
     公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるもので、被害者の法律上保護された利益ではない。

  • 郵便貯金の目減り訴訟(最判昭57.7.15)/違法性なし
     国家の政策は、内外の情勢のもとで変化するし、郵便貯金を減らさないことだけが、国家政策ちゃうわ!って感じの判旨。

  • 宅建業者に対する権限不行使(最判平元.11.24)/違法性なし
     さっさと、知事が免許を取り消さへんから被害(740万円相当で建売住宅を買ったけれど、所有権を取得できなかった)を被ったんじゃ!
     不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、当該取引関係者に対する関係で違法の評価を受けるものではない。

  • クロロキン網膜症訴訟(最判平7.6.23)/違法性なし
     不作為当時の医学的・薬学的知見の下で当該医薬品の有用性が否定されるまでに至っていない場合には、被害を受けた者との関係において違法となるものではない。(当時の医学的、薬学的見地の下では一応の合理性を有す。)

  • 指導要綱に基づく開発負担金(最判平5.2.18)/違法性あり
     マンション建設で、教育負担金を納付しないと水道を供給しないなんて、それは行政指導の範囲を超えて、違法な公権力の行使にあたるわ。
    ※マンションが増えたら、学校を増やさんとあかんと言う行政の気持ちもわからんではないけれど。

  • 国公立学校の教師の注意義務(最判昭62.2.6)/違法性あり
     危険を伴う技術指導をする場合には、自己の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務がある。(本判例は、プールへの飛び込み指導)

  • 筑豊[ちくほう]じん肺訴訟(最判平16.4.27)/違法性あり
     鉱山保安法の規定による、発生防止策の権限を行使しなかったことは、法の趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠くものである。

  • 水俣病の拡大と規制権限の不行使(最判平16.10.15)/違法性あり
     水質規制に関する当時の法律に基づき指定水域の指定等の規制権限を国が行使しなかったことは、法の趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠く。

  • 加害公務員の特定(最判昭57.4.1)/違法性あり
     税務職員の健康診断で、肺結核の可能性が見つかったにも関わらず放置されていた。伝達を怠った原因が判明しなかった=誰に過失があるかわからないが、損害賠償責任を負う。

  • 児童養護施設事件(最判平19.1.25)/違法性あり。
     社会福祉法人が設置運営する児童養護施設において、入所児童の施設職員による養育監護行為は、国家賠償法1条1項の国権力の行使に該当する。
     都道府県から委託を受けたんだから、公務員の職務行為と同等と理解される。
    ※国家賠償責任を負う場合は、公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わない。したがって、被用者が民事上の損害賠償責任を負わない以上、使用者も使用者責任を負わない。

  • 法の解釈を誤った通達に従う取り扱い(最判平19.11.1)
     海外移住すると、原爆特別措置法に基づく健康管理手当等の受給権が失権すると定めた通知について。
     国が法の解釈を誤って作成・発出した通達に従った取扱いを継続したことは国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に該当する。
     通達の発令・改廃行為も国家賠償法1条1項の公権力の行使に該当する。

  • 消防職員の過失と失火責任法(最判昭53.7.17)/(国家賠償法4条)失火責任法が適用される。
     失火責任法は民法に含まれると解するのが相当。
     ただし、「国家賠償法4条により失火責任法が適用され,当該公務員に重大な過失のあることを必要とするものといわなければならない。」(本裁判は差し戻し)
     これもパトカーの追跡(最判昭61.2.27)と同じで、場合によっては国家賠償法1条の請求ができるし、重過失がなければできない。と言うことで過失の有無及び軽重で違ってくる。

  • 予防接種と国家賠償責任(最判平3.4.19)/賠償を認める。
     「結果として、後遺症が発生したら禁忌者に該当していたと推定するのが相当。」
     特段の事情が認められない限り、過失の立証責任を国に転換して国家賠償を認めている例。

2条

  • 営造物の通常の用法に即しない行動(最判平5.3.30)/損害賠償責任は負わない。
     テニスの審判台に登って遊んでいて、さらに後部から降りようすることで、審判台が倒れて子供が死んだからと言って、公共団体を訴える精神が理解できん。
     「本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負う。(中略)幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、保護者の義務であり、(以下略)」と言う判旨は至極当然。

  • 防護柵に登って遊び、落下して怪我をした場合(最判昭53.7.4)/損害賠償責任は負わない。
     これもどうかと思う。防護柵は道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために設置されているものであり、向こうが側に落下する危険性のある場所で子供を遊ばせる遊具ではない。と、素人の私でもそう思うわ。

  • 大東水害訴訟(最判昭59.1.26)/損害賠償責任を負わない。
     時間的、財政的、技術的及び社会的制約が解消しておらず、通常予測される災害に対応する安全性を備えるに至っていない段階においては、同種同規模の河川の管理の一般水準に比べて、著しく安全性を欠いている等の特段の不合理性が明確に認められるような例外的事情がある場合にのみ損害賠償の責に任ぜられる(過渡的安全性)。
     財政的な理由が免責事由となり得る。

    • 多摩川水害訴訟(最判平2.12.13)
      その改修や整備がされた段階において想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性が要求される(段階的安全性)。

  • 高知落石事件(最判昭45.8.20)/損害賠償責任を負う。
     国道において、実際に落石・崩土が起きているところで「落石注意」等の標識で対応はしていた。そんな中、崩土による死亡事故が発生した。
     国家賠償責任については、過失の存在を必要としない。
     道路の瑕疵について、予算的に困難な状況を理由に責任を免れられない。

  • 大阪空港訴訟(最判昭56.12.16)/損害賠償責任を負う。
     瑕疵には、騒音などの物的欠陥意外の原因を理由とするものも含まれる。
     施設(大阪空港)の利用者ではないけれど、近隣住民も

    • 国道43号線事件(最判平7.7.7)/損害賠償責任を負う。
      騒音、排気ガス等により、聴覚障害、呼吸器疾患などの身体的被害を被った場合、公共性・公益性の必要性があっても、本件は社会生活上受忍すべき範囲内を超えている。

  • 87時間故障車放置事件(最判昭50.7.25)/損害賠償責任を負う。
     国道上に事故車を78時間も放置して、さらに事故を引き起こしたら、国道の管理の瑕疵といえる。

    • 赤色灯事件(最判昭50.7.25)/損害賠償責任を負わない。
      夜間にちゃんと設置されていたバリケードや工事標識版、赤色灯標柱が、直前の自動車によってなぎ倒された状態で、直後に来た自動車が事故ったとしたら、悪いのは直前の自動車・・・だよね?
      時間停止の超能力でもない限り、対応は無理だろ。

3条

  • 福島県求償金請求事件(最判平21.10.23)/求償権あり
     私立中学校教諭の体罰による国家賠償金の支払いを、私立中学校の教員の給与負担者である県が行い、その後において県は市に求償できる。
     こんな裁判があるってことは、市側が自分ところの管理下にある教員が起こした事件なのに「知らんがな!」って言って、県からの求償を突っぱねたってことか?

  • 補助金交付と国家賠償法3条の費用負担/補助金交付も該当する。
     地方公共団体の執行する国立公園事業の施設に対して国が補助金を交付している場合、国は、国家賠償法3条1項の規定する「公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者」に該当する。
     補助金の負担額が同程度で、実質的な事業の共同執行者であり、危険()防止をできる者が含まれる。。

損失補償

  • ガソリンタンク事件(最判昭58.2.18)/損失補償の対象とならない。
     国がガソリンタンクから10m以内のところに地下道を設置したために、消防法と危険物の規制に関する政令違反となって、貯蔵タンクの移設を余儀なくされ、道路法70条1項に基づく損失補償を求めた事件。(収用委員会では損失補償を認めたが、国が提訴した。)
     「道路法70条1項の補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした工作物の新築、増築、修繕若しくは移転又は切土若しくは盛土の工事に起因する損失に限られる。したがって、道路工事の施行の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が技術上の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ、これによって損失を被ったような場合は対象外である。」とのことだけど・・・。なんか納得いかん。

  • 都市計画決定による建築制限(最判平21.10.23)/損失補償の対象とならない。
     一般的に当然に受任すべきものとされる制限の範囲内。
     建築物の制限であって、制限を超えて建てると言うことが現実に発生しているわけでもないからかな?

  • 消火活動による損害(最判昭47.5.30)/損失補償の対象となる場合もある。
     火災が発生しようとし、もしくは発生し、または延焼のおそれがある消防対象物およびこれらのもののある土地以外の消防対象物および立地に対しなされたものであり、かつ、処分等が消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときになされたものであることを要す。
     つまり、火災に対処するのに必要があって被害を被ったなら補償の対象になるよ。ってことか。
     さらに、必要もないのに消防署職員が関係のないところを壊したりしたら、それはそれで国家賠償法1条で補償を求められると言う理解でいいのか?

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