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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】東村山市運動公園の『解体されたD51』

 昭和50年まで日本全国で走っていたD51型蒸気機関車が解体されてしまった。D51は、デゴイチという愛称で呼ばれ、蒸気機関車の中で最もポピュラーな形式だ。この愛称は、鉄道ファンならずとも良く知られている。

 解体されてしまったのは、東村山市恩多町の運動公園に保存されていた「D51684」。昭和17年3月に製造されて、関西や東北、北海道で走ってきた。

かつて公園に展示されていたD51(画像はYouTubeより)
かなりのボロボロ具合(画像はYouTubeより)

 現役を引退してからは、こちらの公園に保存されていたが、40年以上の年月が流れ、老朽化したことによって解体・撤去されることになった。最後に塗装されたのは、平成8年のこと。長年風雨に晒されていたことから錆も浮き出していたので、行政が管理していたものとしては、誠にお粗末な限りだ。

黒い幕に覆われ解体作業が進む
作業員が工具で車体を解体していく様子がわかった

 これまでにも、ボロボロになってしまった蒸気機関車が修繕された例はある。「厚狭の奇跡」と言われた「D51300」(山陽小野田市殿町児童公園保存)は、「このデゴイチを何とか復活させたい」という思いをいだいていた村野哲郎さん(殿町公園のデゴイチ応援隊 代表)の呼びかけで、全国から集まった鉄道愛好家やボランティアの手によって修復・整備されている。

 また、室蘭市内に保存されていた「D51560」は、室蘭市青少年科学館から道内最古の木造駅舎である「旧室蘭駅舎」のそばに移設されている。この科学館は、今後、環境科学館という名前に名称を変更された上で建て替えられる(新築される)ことが決まっていた。同車両については、様々なアイデアが出されており、解体される可能性も少なからずあった。

 北海道は、最後の最後まで蒸気機関車が走っていた大地だ。それだけ蒸気機関車に対する想いは深い。室蘭市内では、蒸気機関車の移設に当たってまちづくり協議会によるワークショップが行われ、その席で市民のアイデアも集められた。そこでは、出た意見なども移設計画に反映されている。市民と市役所が一体となってD51の保存に取り組んでいる。

 さらに「高原のポニー」として知られるC56形式の「C56149」も見事に修復・整備されて、清里町営「たかね荘」前から清里駅前に移転されて保存されている。

 旧国鉄の蒸気機関車が最後まで残されていたのは、北海道にあった追分機関区だ。入換作業用の9600形式が最後まで使われていた。全廃されたのは、昭和51年3月2日のことになる(実際には、3月25日まで稼働)。現在、全国に保存されているのは、旧国鉄から貸し出されたものが、そのほとんどを占めている。保存されている蒸気機関車は、鉄道文化遺産/近代化産業遺産と言うことができる。子どもたちのためにも、1両でも多く残しておきたい。

無惨にもバラバラに解体されてしまったD51。もっとよい保存方法はなかったものか

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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