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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】東京都杉並区の『商船三井・上井草社宅』

 廃墟マニアや建築構造物マニア、ゴスロリファッションマニア、写真愛好家などから親しまれていた「商船三井・上井草社宅」(東京都杉並区)が取り壊されていたことが分かった。

 この建築物は、 1970年代に建てられたものと見られ、2018年まで住居として使われていた。閉鎖されてからは、敷地内に入ることはできなかったが、独特の外観がフォトジェニックなことから注目を浴びていた。

 何と言ってもその特徴は、住宅公団などで良く採用さていた階段室型の住棟になっていることや階段室部分にある門型コンクリートが縦にスラッと伸びていることだろう。

 連立している縦線と横線の構成も美しく、その造形美には、「ハッ!」とさせられたものだ。ちょっと高いところから望むと、敷地内の中央部分にある公園に黄色い滑り台が残されていることも確認できた。

 「あの建物って、ものすごいデストピア感を感じましたよね。最近まで都心部に残されていたなんて驚きです。構造的に考えると、階段室型の進化形でしょうね。階段室を開放的にしてあるけれど、雨を多少凌げるように、“上だけ遺しているような感じ”と言ったらいいのかも知れません。様式的には、メタボリズムの影響を受けているのかも知れないですね。拡張可能なユニット感やぶっきらぼうなカクカク感は、代官山のヒルサイドテラスとかに共通するのかも知れません。デザイナーも何も分からないですけど、その造形美には、心を奪われてしまいましたね。ゴスロリ系の写真撮影に向いていたのも理解できます」(東京都内在住の建築構造物マニアの男性)

 歴史ある名門企業の社宅にしては、ユニークな構造をしていた上井草社宅。閑静な住宅地に残されていた”廃墟”として知られていたが、いつの間にか姿を消していた。筆者は、2回ほど撮影に行くことができたことから、ちょっとした記録を残すことができた。

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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