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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】2016年台湾南部地震『台南市の倒壊マンション』に現れる霊

 2016年2月6日午前3時57分、台湾南部の高雄市美濃区を震央とする巨大地震が発生した。この地震で、台南市新化では、最大震度の7級を記録。また、雲林県草嶺で震度6級、嘉義市中心部でも震度5級の強い揺れを観測した。
 
 もっとも地震の被害が大きかった台南市では、16階建ての複合型高層マンションが倒壊。当時、建物の中には、2000人を超える住民などがいたが、逃げることはできなかった。がれきの中からは、「子どもがここにいるんです。助けてください」、「母がコンクリートの下敷きになっています。まだ、息をしています!!」など、救助を求める叫び声が響いた。もはや地域住民の力では、対応することが難しい状態になっていたのだ。台湾は、2月8日からの春節(旧・正月)前の週末に当たり、大型連休ムードに包まれていた。

 当時、この地震のニュースは、日本のメディアでも大きく取り上げられた。とりわけ大きく報道されたのは、複合型高層マンションの「維冠金龍大樓」で、この建物は、完全に倒壊してしまった。カメラは、毛布にくるんだ乳児を抱きかかえて、建物の中から出て来る消防隊員らの様子や救助された直後に泣き叫ぶ女性の姿などを次々と映し出していた。また、壁の中に業務用食用油の缶などが詰められている様子なども捉えていたので、その映像を見た人も多いことだろう。この映像からは、工事費を抑えるなどの手口が見てとれた。
 
 「維冠金龍大樓」を開発した業者に対するバッシングの嵐は、鳴り止むことはなかった。台湾検察は、開発業者のリン・ミングイ容疑者と設計士2人を業務上過失致死の疑いで逮捕。同マンションでの死者は、115名にのぼった。
 
 この地震から2週間後、「維冠金龍大樓」の瓦礫はキレイに撤去され、そこには更地ができていた。しかし、依然として撤去の進まない建物があった。それは、「維冠金龍大樓」からタクシーで20分くらい走ったところにあるAマンションだ。このマンションは、「維冠金龍大樓」に比べると被害も少なかったことから、あまり報道されることはなかった。しかし、建物の倒壊直後から奇妙な噂がまことしやかに囁かれていた。ある男性は、証言する。
 
 「私は、あのマンションのすぐ近くに住んでいます。地震が収まるかどうかという頃、ものすごい大きな音がしたので、どこかの建物が倒れたことが分かったんです。ちょっと落ち着いてから外に出てみると、マンションは完全に倒れていました。あちこちからうめき声が聞こえてきたので、近くにいた人たちと協力して、何人かを助け出しました。みんな血まみれになっていて、目がえぐれてしまった男性や耳や鼻がもげてしまった人たちもいましたよ…。地獄絵図を見ているようでした」
 
 この男性は、そのときのことをこと細かく話してくれた。忘れようと思っても忘れることができないからだろう。しばらく話をしていると、話題は、まったく違う方に向けられた。

「実はですね。あのマンションが倒れてから、この辺では、霊が目撃されるようになったんです。男性なのか女性なのかよく分からないのですが、暗くなると白い人影のようなものが現れるようになったのです。立ち止まるとこっちを見ていることもあります。そうそう、この霊は、(消えるときに)”あの祭壇”のある部屋に入って行くんですよ。作業員によって香が焚かれているからでしょうか。無理もないです。突然の地震で命を落としたのですから。この世に未練があるのでしょうね…」
 
 マンション解体現場の片隅には、プレハブ小屋が建てられていた。特別な許可を得て中に入ってみると、そこには小さな祭壇があった。この祭壇は、過日の地震によって命を落とした人たちを弔うものして設けられたものだ。この地震で亡くなった人たちのために哀悼の意を表したい。

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://twitter.com/toru_sakai