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【鈴木智彦】シリーズ昭和不良伝「真説・万年東一」愚連隊の神様と呼ばれた男【第2回】

没後37年を経てなお不良のカリスマとして強く支持される万年東一。愚連隊の元祖、あるいは神様とさえ呼ばれた男は、77年の人生で何を語り、何を残したのか。誰も描かなかった素顔に迫る。
(取材・文=鈴木智彦/協力=万年蘭)

※【第一回】はこちらから

戦前戦後の東京に暴力伝説の数々を残した「愚連隊の元祖」万年東一

与太とヤクザ

 愚連隊という言葉が一般化したのは戦後である。それまで青少年の不良団、もしくはその構成員は、与太とか、与太者の一種だった。与太はヤクザでもなく、さりとて堅気でもない半端者全般を指し、社会のクズという差別的認識を内包していた。表社会・裏社会双方から二重にドロップアウトした不適合者であり、どこまでもマイナスイメージが付きまとう。他人に誇れるものではなく、ひどく印象の悪い言葉だ。今の半グレと共通の位置でも、現代版に漂う如才ないイメージは皆無である。
 実際、与太の類型である半グレは、ヤクザに下される数々の社会的制裁、または組織構成員が果たさねばならぬ滅私奉公的な義務を回避するニュアンスがあって涼しげである。かつて同位置にあった暴走族も独自の世界観があったとはいえ、ヤクザ予備軍のイメージを強く持っていた。
 が、半グレはあえてヤクザになろうとしない。過去、何人かに取材したが、彼らはヤクザと関係を持ち、一定のリスペクトを持ってはいても、配下という意識はないようだった。取材では誰もがヤクザになるのは馬鹿らしいと断言した。
「銀行口座もクレジットカードも持てず、アパート・マンションも借りられない。体と時間もとられる。合理性がなくたっていいです。損をしてもいい。でもその代わりどんな精神的満足があるのかわからない。それにヤクザって喧嘩しないんですよ。じゃあなんのためにめんどくさい当番に入り、上納金を払うのかってことです」(半グレ団体構成員)
 シノギの上手な組員が偽装破門され、半グレのポジションを使って経済活動をするケースもある。堅気ならなんの問題もない活動が、ヤクザだと理由の如何に関わらず逮捕される。
 ヤクザの背負う社会的ハンディは年々増加している。最近では資金力のあった親分の死後、事務所などの資産を巡って遺族と組織が争う事例が目立ってきた。多くの場合、組事務所は亡くなった親分の名義で、法律上は血族が相続出来る。ヤクザとて擬似血縁関係で結ばれた親子だが、そんな主張は裁判で通らない。
「景気がよければ十分に資産もあるだろうし、遺族も文句は言わない。組事務所くらいは跡目に譲るだろう。だが、ヤクザであれば儲かった時代は終わった。どっちも金はかつかつだ。世知辛い世の中になったもんだ」(関東広域組幹部)
 遺族にだって言い分はある。
「亡くなってからも固定資産税などはずっとこっち(遺族側)が支払ってきたんです。言いたくはないが、修繕費、光熱費などもです。なのに不動産をよこせなんて虫がよすぎる。我々家族はヤクザごとに口出ししなかったし、しようとも思っていない。でも若い衆たちが何をしてきたかはずっと見てきた。私たちだって守銭奴じゃない。やるべきことをせず、棚からぼた餅のように事務所をもらうと言われても納得できない」(組織と話し合い中の遺族代表)
 暴力を背景に自身の言い分をごり押しするのがヤクザの存在価値だが、たとえ暴力団の身内とはいえ、もはやごり押しが通用しない。ヤクザの持つ威嚇力が弱まっているのは間違いない。こうした係争がヤクザ社会のトレンドになるとは、長く取材をしてきた私も予想していなかった。

三度の飯より喧嘩好き

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