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【第三回】関本郁夫・茶の間の闇 緊急インタビュー 自伝「映画監督放浪記」に寄せて

第一回 第二回 

取材・文/やまだおうむ

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たゆたう川舟の逢引き──「黒髪は恨みに燃えた」

関本 「影の軍団」シリーズ(1980~1985)は、俺の青春でした。東撮(東映東京撮影所)が日本テレビから受注した初のアクション・ドラマ「大激闘80 マッドポリス」(1980)の第1話、第2話がアクションしかないシナリオで、撮り終えて満身創痍になった。俺は自ら降板を申し出て、東映プロデューサーの奈村協に、「影の軍団」に参加させてくれないかと頼み込んだんです。 

――シリーズ第一作「服部半蔵 影の軍団」(1980)は、千葉真一のJACと、関西演劇界で頭角を現していた三林京子、CAL制作の時代劇ドラマ常連の西郷輝彦という布陣で、放送当時、子供心にも不思議な組み合わせだなと思いました。アクティヴな女性の代表と看做されていた長谷直美のくノ一への起用も奇妙な感じがしました。 

関本 レギュラー陣のキャスティングは確かに異色だったね。西郷は花登筺(はなと・こばこ)のドラマ「どてらい男(やつ)」(1973~77)で当時人気だったから、興味はあった。テレビは全く観ていなかったから、長谷のことはほとんど知りませんでした。千葉の恋人を演じた三林さんについても、全く存じ上げなかった。 

――「影の軍団」シリーズは、当初から、主演の千葉真一のこだわりもあって、アクションや仕掛けが通常のテレビ時代劇に比べ凝っていたため、撮影日数も多くかかり、現場では不満を口にする役者やスタッフも少なくなかったといいますが・・・・・・。 

関本 色々な噂が耳に入って来てはいたけど、すがるような気持ちだった。

――そして、最初にお撮りになったのが、第10話「黒髪は恨みに燃えた」。

関本 これは、鮮明に憶えてますよ。舟の中での千葉と三林のラヴシーンを撮った。

――夜の川にたゆたう屋形船の中で、敵同士でありながら心を通わせる二人が、決戦前の夜に逢引きする。二人の微妙な心情が短いシーンの中で情感豊かに描かれており、魅せられました。

関本 あの時、俺は芝居に飢えてたんだよなぁ。「大激闘80 マッドポリス」には、全く芝居がなかったし、JACのアクションも、体操競技みたいで俺には退屈だったから、現場でもビール飲んでないとやってらんなかった。普通はそんなことしないんだけどね。

――誤解を恐れずに言えば、「大激闘80 マッドポリス」は関本監督の重要作の一つだと思うのですが、それはさておき、舟の場面は、編集の効果もあって、ちょっと幻想的な場面になっていましたね。ある刑事ドラマの監督は、テレビの場合、一切編集にタッチしないと言っていましたが、「影の軍団」はどうだったんですか。

関本 俺は、編集には全部立ち会っています。あの舟の場面は、脚本を書いた石川孝人が、凄く喜んでさ。いいシーンですねと言ってくれた。

――当時、若手の気鋭としてテレビ中心に活躍していた脚本家ですね。

関本 石川も、かなり力を入れて書いたから、あれだけ感激したんだと思う。

――「黒髪は恨みに燃えた」では、義太夫節が効果的に使われていますね。

関本 あれは、選曲の中本(敏生)さん。古典音楽を使いたい時は、その道のオーソリティの中本さんが曲をみつくろって、一緒に相談しながら選んでいました。

――テレビの連続時代劇では、古典音楽となると毎回どの場面も同じ曲でよしとするような番組も少なくなかった中、「影の軍団」シリーズは、ちゃんと場面場面で脚本に合った選曲がされているので、深みがありますね。

関本 古典音楽も含め、初期は一日掛けて選曲に付き合いましたね。主題歌やBGMは、俺も曲を選んでました。

――「服部半蔵 影の軍団」では、工藤栄一監督も独特な音楽の使い方をしていますが、関本監督の回は、主題曲が物語全体を呑み込んでいくような不思議な手触りがあったと思います。

関本 音楽は、必ずちょっと遅らせて入れるようにしてた。

――といいますと?

関本 当時テレビを観てて思ったのは、音楽を先行して入れすぎるということだったんだよ。

――前のシーンから、音楽を入れるということはしなかったということですか。

関本 しないんだ。そして、音楽を入れたら、物凄く長く使う。俺は男と女のシーンでは、曲をバーッと使った。

――一回入れたら、ずーっと、もう、長く、長く・・・・・・。

関本 そうそう。選曲者は曲を切りたがるんだけど、それが俺の選曲の特徴やったんやな。選曲者が会社から選んできた音楽は、もう全部変えた。高校の頃、音楽に魅了されて吹奏楽部に入ってトランペットを吹いていたことがあったから、音には自分なりにこだわりがあったんだ。これの前にやった「ザ・スーパーガール」(1979~1980)の時も、在り物の曲を使っていたんじゃ(馬飼野康二による主題曲を口ずさむ)「スーパー・ガール、スーパー・ガール・・・・・・♪」っていうのばっかりになったちゃうから、都はるみの「津軽海峡冬景色」や内藤やす子の「ないないづくし」を流したりした。「影の軍団」では、選曲で俺が毎回全部変えるもんだから、途中からはプロデューサーが音楽録りにまる一日取ってくれるようになったんだよ。

――ちなみに、当時のテレビ映画ではアフレコで俳優の音声を録っていた番組もあったと聞きますが、「影の軍団」シリーズはどうだったのでしょうか。

関本 俺は全部シンクロ(同時録音)で録った。ただ、「影の軍団」は、千葉のこだわりで現場が混乱することも少なくなかったから、回によっては部分的にアフレコをせざるをえなかった監督もいたかもしれない。

シリーズ第一作「服部半蔵 影の軍団」の台本(関本郁夫所蔵)には、毎回写真のような巻頭言が掲げられている。

忍者とフォークソング――「花嫁と暗殺の鬼」

――話を元に戻しますが、「黒髪は恨みに燃えた」の後半は、一転して菅貫太郎や石橋蓮司との河原での死闘が移動撮影も交え撮られており、殺戮の生々しい質感が凄いですね。

関本 あれは、木津川で撮った。下流のほうの、流れ橋の近くでしたね。

――70年代の時代劇映画によく出てくる橋ですね。

関本 流れ橋という名は、台風が来るたびに流されて、そのたび新しくまた掛けられるところからきてるんですけどね。千葉と三林の別れの場面は、大覚寺で撮りました。湖の傍らに千葉を立たせ、延々とキャメラを廻しましたね。

――次の第11話「花嫁と暗殺の鬼」は、一転して山の話になります。山に新妻と暮らす友人のところへ、千葉演じる半蔵が危険を報せに行き、彼の帰った後、二人は襲われる。妻は江戸まで逃げるのですが、夫のほうは捕まり、親友である半蔵たちの拠点を吐いてしまい、「ゆるせ」という言葉だけ書いて、伝書鳩で彼の元に飛ばすという物語でした。

関本 有明祥子が奥さんの役をやったやつだね。有明が山で立ったまま辱めを受ける。

――夫もアヘン中毒にさせられ、禁断症状の中、親友である半蔵を裏切るという・・・・・・。

関本 そうそう。この回では、長谷直美が、明日朝別に現場があるから、最終便に乗せてくれと言うんだよ。当時彼女は売れっ子だったからね。ところが、千葉が自分の台詞が出なくてどんどん撮影が延びていった。長谷も、台詞がなかなか憶えられないやつで、トチってトチって終わらない。結局ギリギリに乗せることが出来てよかったけど、あの時はほんとに往生しすぎて笑ってしまったよ。

――この回の視聴率はかなり良かったとか。

関本 プロデューサーの翁長孝雄 (おなが・たかお)さんに褒められた。それで翁長さんが監督・関本郁夫を気に入ってもうて、それからずーっと「影の軍団」をメインで任されるようになるんや。

――この先品では、先程伺った関本監督独自の選曲法が全面的に展開されており、中盤の伝書鳩の場面では、岡林信康の主題歌「Gの祈り」が強い印象を残します。ああした芝居のうねりと一曲まるごとが溶け合うようにドラマを高めてゆく歌の使い方は、シリーズでも「服部半蔵 影の軍団」特有のもので、「影の軍団Ⅱ」(1981~1982)以降では見られなくなります。

関本 最初は特に、俺も選曲にのめりこんでた。テレビ時代劇を撮ること自体初めての体験だったからさ。

関本郁夫監督の書架。手掛けた台本や映像の他、生粋の映画狂らしく、映画人の聞き書き本や研究書、シナリオ全集が所狭しと並ぶ。


Special Thanks/伊藤彰彦(第四回に続く)
次回は2月10日の掲載予定です

《無断転載厳禁》

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©東映
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<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。