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赤と白とロイヤルブルー

柳さんと見た!

直近で見た作品が『プライドと偏見』でプラトニックな作品だったので今回はその甘さにでろんでろんに溶かされながら見ていた。
極甘な作品を見ると心に栄養がいきわたる気持ちになる。

原作の小説ありきではあると思うんだけど、イギリス王室の殿下と、アメリカ大統領の息子のラブロマンスって描いても不敬とかにならないんだ……と思っていた。Amazonプライムで映画化もされるくらいって寛大なんだな……結構衝撃だ。
現代日本じゃ皇室を舞台にしたロマンス作品!なんて考えられないよね。

甘かった。前半はこの上なく甘かった。
最初は険悪そうに見えた(のちにヘンリー王子はその時父が亡くなってから日が経っておらず、メンタルの調子が悪かっただけでアレックスのことを悪く思っていなかったことが判明する)時点でかなりロマンスが始まっていた。
最初の険悪さってロマンスの必要シーンじゃないですか。

それにしても冒頭のあの巨大なケーキが倒れてくるシーンは絵に迫力がある。
値段の強調や酔ったアレックスがケーキに触れる様子があったから倒れるだろうな〜とは思ってたけど、あそこまで見事に倒れてくるとあっぱれ!威勢がいいね!という気持ちになる。
あの場面で2人が事故でキスしているというツイートを見た(そのためエンディングの後にケーキまみれのアレックスがヘンリーに「みんなこれ気付いてる?」と言っている)んだけど、みなさんお気付きになりました?全然気付かなかった。

そこから、訪れた小児病院で発砲するのような音がしたのがきっかけで出られない部屋(物置 狭い)に入れられ、お互いの腹の中を語り、誤解を解いて仲を深めて年越しパーティに行ってキスしてお互いの気持ちに気づいて……までの流れがあまりにもスムーズで鮮やか。
出られない部屋のシーンではアレックスの顔に落ちるまつ毛の影があまりにも濃く長くて話の半分しか入ってこず、あとはまつ毛のことばかり考えていた。すごいまつ毛をしている。

ヘンリーは強引にキスした上にアレックスからの連絡をとことん無視しているのであっ!コラ!という感じだった。このターンは後半もう一回あります。
欲望に従った行動はするけど育ってきた環境のせいで自分に対する気持ちを直視するのがおそろしく、結果的に臆病になってしまう。
この時からアレックスはヘンリーに会う用件を作って自分から行動を起こすのですごい。行動力の男。

大統領選までの期間内に色々あるので2人にもだもだしている時間はないため、すごいスピードでキスするし、体の関係ができる。

セックスシーンでは手がアップで映し出されることが多かったけど、ヘンリーの爪は艶やかで爪の先まで手入れされているところが殿下だな……と思いながら見ていた。
こういうところからヘンリーってヘンリーだけのものじゃなくて、国のものであるという息苦しさが伝わってくる。おそらく自分の意思とかではなく爪の先まで美しい殿下。

アレックスは母を失望させないか、自分が母の足枷になっていないかという不安はあるものの、政治に対して意欲があって、国をもっと良くしたいという思いがあり、元労働者階級の家庭だったこともあって大統領の息子であることを後悔したことはない。
一方ヘンリーは生まれてこの方自分のことを知らない国民はほぼいないという息苦しい状況で生きているのでイギリス王室を廃止すべきだと思っていて、その上クィアで自身を肯定しにくい環境にあるため生きづらさもあり、もし王室に生まれていなかったら……ということに想いを馳せる日々を送っている。
こう見るとお互いの立場ってかなり対照的だ。

でもお互いがお互いのことを理解したいという想いはずっと一貫している。
好きな人を理解したいという強い思いがずっとある。

でもヘンリーは不安や恐怖が強い人なのでアレックスと共にすごす未来のことを信じきれず、優しさに手を伸ばして期待するのが怖くなってしまい、自分の中にこもってしまうことも多々ある。
そんなヘンリーに対して飛行機に乗って国を超えてアポ無しで城に行ってその殻をこじ開けに行くアレックス!
アレックスはなんでも話せる母や信頼できる人が近くにおり、悩みがあっても人に相談できるため常に外を向いている。
そのぶん内に向きがちのヘンリーの手を引っ張ることができるのかもなと思う。

特に好きなシーンはアレックスがヘンリーとの関係性を両親に話すシーン。
特に母親に話した瞬間電話でピザを呼ぶところが大好き。
こういう時に食べるのがお祝いやパーティでよく食べられるピザなのが良い。アレックスの話をちゃんと受け止めた上で重い話ではなくて話しやすい環境で話したいという気持ちの優しさよ。
コンドームとかの性教育の話もできるのが2人の関係性を表している。
なんでも話せる大統領の母、本当にかっこいいよ。

そしてアレックスの父もヘンリーを家(別荘?)に招待してくれるのが良い。そこでは殿下じゃなくて、恋人の実家でアレックスのパートナーとして振る舞えるヘンリー……
小さいステージでクイーンを歌うシーンが好きだ。殿下じゃないので屈託なく笑える。
最初見た時はイギリスのロックバンドだしな……いやめちゃくちゃ歌上手いな……と思いながら見ていたんだけど、見終わってからそういえばボーカルのフレディ・マーキュリーってゲイだな……あ、それもかかってるのか!?と気付いた。気付くのが遅い。

彼を傷つけたくないからという理由でアレックスと距離を取るヘンリー、あぁヘンリー……なんて不器用なんだ……と思ってしまう。
その不器用には多くの要因が絡み合っているので一言で不器用!と表現するのは軽率ではあるけれど。

ノーラに彼(ヘンリー)を手に入れるの!ロンドンに行くのよ!と言われてその勢いのまま夜にロンドンに行ってしまうアレックス、素晴らしい。行動力の鬼。
「真夜中に押しかけられて迷惑だ!」と言うヘンリー、アレックスもそんなのは百も承知で突撃したので痛くも痒くもない。大雨でぐっしょり濡れてさ……
「本当の僕を見てくれ!」というヘンリーはアレックスが王子様としての自分を見ているわけじゃないのは重々わかっている上で、周囲からの王子様としての重圧に耐えられずに言ったのかな。

「僕たちなりに愛し合う方法を探すことはできる」「そんなことできるわけがない」というやりとり、本当は愛し合う方法を何よりも一緒に探したいはずなのに、そんなことできるわけがないとヘンリーに思わせてしまった環境があることが苦しい。
ここでヘンリーのことを諦めずに説得し続けたアレックスも、アレックスの手をきちんととったヘンリーも、どちらもあまりにも眩しくて美術館でダンスをするシーンは目が眩む。自分が一番大事な場所に連れてくるヘンリー……それってでっかい愛だ。

その後ヘンリーの気持ちが決まるまで待つよと言いながら自分たちが一番大変なものを交換したのに、凄まじい悪意によってヘンリーとアレックスの関係が世界中に暴かれてしまうところは本当に心が痛む。
やっとヘンリーが希望溢れる未来を見る気持ちを固めようとしていたのに、自分たちの一番プライベートで見られたくないものが全部流出してしまった時の絶望感たるや。天地がひっくり返ったような衝撃だろうな。しかもアレックスの母は選挙直前。背中がスッと冷たくなるような気持ちで見ていた。

それに対するアレックスのスピーチが本当に素晴らしかった。
プライバシーやクィアの自己決定権や人権について自分の言葉で真っ直ぐに語った上で、「殿下を愛しています」と言った後にヘンリーのフルネームを言うのは、王子としてのヘンリーだけじゃなくてヘンリー本人のことを愛しているということを伝えることになるのでこの流れがあまりにも美しい。
その後秘書に「ヘンリーも見てたはずだ。アイツは不安な時のクセで眉間にシワを装寄せる。最高に可愛い。はぁ……会いたい……」とメロメロで伝えるアレックス、本当に立派な人だな。肝がすわっているし、こういう時に惚気られるくらい全てを覚悟している。
それにヘンリーの従者(秘書の彼氏)に電話してヘンリーに電話をかわってもらうくだりも大好き!
通信機器を使わなきゃいいので超音速でハニーのところに行くアレックスはやっぱりすごい。

国王であるヘンリーの祖父やヘンリーの兄から詰められるシーン、胸が苦しくなる。手の届く距離にアレックスがいてくれたからヘンリーは堂々と立ち向かうことができたんだろうな。
でも何より国民がヘンリーとアレックスのことをあたたかく迎えてくれたところ、目がブワッと熱くなる。王子としてふさわしくないとずっと悩んでいたヘンリーが国民に受け入れてもらえた瞬間。
そしてアレックスの母が選挙に勝って大統領再選するのも本当に嬉しい。

この物語の素晴らしいところって、いくらでも悲痛なストーリーにすることができたはずなのに世界は美しくて希望に満ちていると表現したところだと思う。
クィアの物語だからこそ、こうやって世界が2人の仲を応援して希望に満ちているところを描くのが重要なんだと信じている。
素敵なお話だった!ありがとう……

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