男子宝石 #毎週ショートショートnote
目を覚ますと辺りには給食を知らせるブイヨンの香りが漂っており、授業が終わりかけていた。
放課後になると彼には決まって向かう場所がある。帰宅し制服を伯母に預けると、彼は走った。既に早朝からそこで仕事をしている父に遅いと叱られることが怖いからというのもあるが、それ以上にそこにある「希望」が彼を駆り立てた。
背を向けた父はスコップで礫塊を掬うと膝まで泥水に浸かった兄の持つ篩に放り込んだ。彼も慌て肩幅程の篩を手にし、兄の隣で構えた。父は無言で彼の篩にも礫塊を入れた。泥水の中で小刻みに篩をゆすって細かい砂を落とし、篩の中に残った礫を地面に空けた。礫を丁寧に平らげ探したが彼らが求めるものは見つからなかった。
何遍繰り返したかは分からないが、それは日が暮れかけた頃だった。彼の礫の中に何かが光った。胸が高鳴り父を呼んだ。兄もぴたりと手を止めて彼の目線の先を覗いたが、その時彼の首筋を一匹の蚊が刺していることには誰も気が付かなかった。
<了>
たらはかに(田原にか)様の下記企画に参加しています。
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