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DOMMUNE 追悼・松平頼暁の人と音楽 を無事開催したこと

DOMMUNEの松平頼暁追悼特集、どうにかお納めいたしました。

お話を頂いた際には、「前衛」という言葉があまりに一人歩きしているように感じられ、そうした「形骸化した前衛」(1960年代そのものの手法と音響とで音楽をつくる、一見過激だが時代に取り残されている人たち)とは、根本的に異なった位相にいるのが松平頼暁という作曲家なので、これを歴史上の「前衛」もご存じでないであろう多くの視聴者の方々にどう説明するかも難しいところで、参加や内容の決定に逡巡することが多々あり、情報の公開が直前になってしまった点は申し訳なく感じている次第です。

≪変奏曲≫(1957)の総音列技法アナリーゼをはじめ、ここ数年コンサートの制作に併せて作っていた幾つかのネタを投入し、「世界でいちばん松平頼暁の人と作品について詳しい人物」としての役割は、どうにか果たせたかな、と。

ピッチインターヴァル技法の適用例としての、≪24のエッセーズ≫個別分析などもあったのですが、時間の関係で割愛いたしました。≪24のエッセーズ≫個別分析については、そのうちどこかでまとめて披露できれば、と(この曲集については、使用されたセリーが明示されてるので、分析のテキストとして最適なのです。技法の適用例も多岐に亘っており、これを眺めていくだけでも、松平頼暁という作曲家のアイディアの多様さを理解できるのですが、些か、松平頼暁道黒帯向けなところがあるのは否めません)。

松平頼暁の作曲システムとは、究極12音技法の異端的な運用、発展系に他ならず、その異端という点を理解いただくために、王道であるシェーンベルクの≪ピアノ組曲≫作品25から解説をはじめる、ということになりました(12音技法は今年で百歳になります。≪5つのピアノ曲≫作品23の終曲でも良かったのですが、こちらでの音列の使用法はちょっと単純に過ぎる)。そのため、主催者側にはかなり無理をいって私の持ち時間を増やしてもらうなど、いろいろ対応いただきました。

これらを、音楽大学作曲科向けの講義とは異なった、一般向けプレゼンとして落とし込むのはなかなか骨でしたが、12音技法にしろ、総音列技法にしろ、こうした作曲の自由度を絞り込んでいく技法の使い手は例外なく、放っておいても曲が書ける化け物的筆力をもつ人たちであり(シェーンベルクにせよ、ベルクにせよ、ヴェーベルンにせよ、晩年のストラヴィンスキーにせよ、ブーレーズにせよ、シュトックハウゼンにせよ、入野義朗にせよ、松平頼則にせよ)、作曲は独学の生物学研究者という経歴ゆえにディレッタント(プロではない愛好家)と誤解されがちですが、松平頼暁もまた「書ける作曲家」に他ならず、氏が駆使したシステムは「暴走しかねない創造性」を制御するためのシステムであった、と、作曲家に対するイメージを刷新いただけたなら、これに勝る喜びはありません。

作曲自由度の少ない総音列技法の作曲では、システムが示唆する結果を、少ない自由度の極限を見通しつつ受け入れなくてはならない局面があり、これはいわば拾得物によって音楽を構成する偶然性の音楽へと繋がり、偶然性の中で使いはじめた引用が「ベルクのセリーの引用」という形で新しい旋法性へと繋がり、ここで使われた全音程セリーによって、ピッチインターヴァル技法が構築されている。

松平頼暁作品を形づくるシステムは、ドラスティックに変化してきたようにみえるけれど、しりとりのように、相互に連関している。その点もご理解いただけたなら、なお嬉しく思います。

1月9日から諸々ありましたが、これで一段落ついたかな、という感じ。ちょうど今日(2023年2月26日)が四十九日になりますから、頼暁さんもいよいよ仏様です。

私は、3か月後の5月26日、30日に、東京オペラシティ文化財団との共催にて、「コンポージアム関連公演」として、近藤譲室内楽作品による個展(26日)、近藤譲合唱作品による個展(30日)を企画制作します。頼暁さんに、これをお聴き頂けなかったのは痛恨なのですが、今日から気持ちを一新して、こちらへ取り組んでいこうと思ってます。御期待ください。この2公演の成功が、松平頼暁未初演の大曲、≪レクイエム≫と≪オペラ「The Provocators 挑発者たち」≫公演の実現にもつながっていくはずです。

末尾に、深夜のDJタイムでかけた音源を紹介しておきます。当初構想していたものとは、随分かわったものをかけました。

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2023/2/24 セットリスト #DOMMUNE

1
オスティナーティ(2016)
Ostinati(2016)
山田岳(e-gt)
OSTINATI/オスティナーティ(ALM ALCD-114)T7
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD114.html

2
閃光(1997)
Sparkle(1997)
多久潤一朗(fl)、亀井庸州、安田貴裕(vn)、篠田昌伸(pf)、中村和枝(toy-pf etc.)、石川征太郎(cond)
2022/2/18 『松平頼暁 90歳の肖像』(制作:TRANSIENT石塚潤一)実況録音

3
A person has let the "Kelly" out of the bottle(2014)
松井茂:詩
女声合唱団 暁(f-cho)、西川竜太(cond)
西川竜太が啓く現代合唱の世界(CAMERATA Tokyo CMCD-28326)T5
http://camerata.co.jp/music/detail.php?serial=CMCD-28326

4
エクササイズ(2005)
Exercise for 4 Hands(2005)
中村和枝、松平頼暁(pf)
松平頼暁 24のエッセーズ(ALM ALCD-86) T26
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD86.html

5
アークのためのコヘレンシー(1976)
Coherency for Ensemble ARK(1976)
多久潤一朗(fl)、菊地秀夫(cl)、篠﨑和子(hp)、神田佳子(perc)、篠田昌伸(e-pf)、石川征太郎(cond)
2022/2/18 『松平頼暁 90歳の肖像』(制作:TRANSIENT石塚潤一)実況録音

6
反射係数(1980)
Albedo(1980)
太田真紀(vo)、甲斐史子(va)、中村和枝(pre-pf)
松平頼曉声楽作品集(ALM ALCD-125) T11-T15
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD125.html

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