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「偶数エンドを後攻で迎えたい」は本当か

前回の記事では、カーリングにおけるブランクエンド(以下、ブランク)が勝率にどのような影響を与えるかを女子の勝率テーブルを参考にみてみました。

結果をまとめると、後攻側は、
・1点を取るよりもブランクとする方が常に勝率が高くなる。
・1点をあえて取らせて後攻を維持する戦略は、1点を取る、または、ブランクとするより勝率を下げる。
ということがわかります。詳細は以下の記事をご覧ください。


本記事では、カーリングでよく言われている「偶数エンドを後攻で迎えたい」は本当に効果があるのかについてみてみます。

図1は、前の記事でも参照した同点時からの勝率変化を示した図です。ただ、今回は奇数エンド/偶数エンドをわかりやすくするために、横軸は10エンドゲームの何エンド目の開始時かに変更しています。例えば、図の赤丸は、第4エンド開始時に同点で後攻を迎えたことを表しており、その期待勝率が 58.8%であることを意味します。

図1 同点後攻時におけるブランクエンドの効果

そもそもカーリングでは、あるエンドをブランクにして次のエンドを再び後攻にするという戦略がとれるのは、一般に後攻側のチームのみなので、以下ではすべて後攻側からみて考えてみます。

まず、偶数エンドの第4エンドをブランクとして,次の奇数第5エンドも後攻とする場合についてみてみましょう。

先ほども示したように、図1の赤丸は、第4エンド開始時の期待勝率が58.8%であることを示しています。ここで、偶数エンドである第4エンドをブランクとすれば、次の奇数エンドの第5エンドも後攻で迎えることができます。

赤丸から出ている上の矢印は、第4エンドをブランクとした場合に、第5エンド開始時では勝率が58.0%になることを示しています。また、下の矢印は、第4エンドで1点を取った(取らされた)場合に、第5エンド開始時では勝率が57.5%になることを示しています。

つまり、偶数の第4エンドをブランクとし、次の奇数第5エンドを後攻とする場合と、偶数の第4エンドで1点を取り(取らされ)、次の奇数第5エンドを先攻で迎える場合とでは、期待勝率がほとんど変わらないことがわかります。

次に、奇数エンドの第5エンドをブランクとして、次の偶数第6エンドも後攻とする場合をみてみましょう。

図2は、図1と赤丸の位置が異なります。ここでは、第5エンド開始時に同点の後攻の勝率が58.0%であることがわかります。第5エンドをもしブランクとすると、偶数第6エンドも後攻で迎えることができます。

図2 第6エンドを後攻で迎えるブランクの効果

赤丸から出ている上の矢印は、奇数第5エンドをブランクとした場合に、偶数第6エンド開始時では勝率が61.2%になることを示しています。また、下の矢印は、奇数第5エンドで1点取った(取らされた)場合に、先攻となる偶数第6エンド開始時では勝率が53.2%に大きく落ちることを示しています。

このことから、奇数エンドをブランクとすることは、奇数エンドで1点を取る(取らされた)ことに比べ非常に効果的といえます。

図3の赤丸から出る二つの矢印は、奇数第5、第7、第9エンドをブランクとした場合と、1点を取った(取らされた)場合の、つづく偶数第6、第8、第10エンドの勝率の差を表しています。差が非常に大きいことがわかります。

図3 偶数エンド(第6、第8、第10エンド)を後攻で迎えるブランクの効果

念のため、偶数第4、第6、第8エンドをブランクとした場合と、1点を取った(取らされた)場合の奇数第5、第7、第9エンドの期待勝率の変化もみてみましょう(図4を参照)。図3と図4を比較すると、その差は歴然で、奇数エンドをブランクとして偶数エンドを後攻で迎える戦略は非常に効果的であることがわかります。ただし、2点以上取ることが最も期待勝率が高くなることは明らかです(図のオレンジ)。

図4 奇数エンド(第5、第7、第9エンド)を後攻で迎えるブランクの効果

特に、奇数第9エンドをブランクとした場合の、つづく偶数第10エンドの期待勝率74.9%と、奇数第9エンドで1点を取った(取らされた)場合の、つづく偶数第10エンドの期待勝率57.7%では、その差は17.2ポイントと、かなり大きな差であることがわかります。

一方、第3エンドから第4エンドへの勝率変化(図3を参照)についてはその傾向が少し弱いので、試合の後半になるにつれて偶数エンドを後攻で迎える効果は大きくなりそうです。

ただし、第2エンド開始時のときもその効果は大きい(61.5%と54.7%)ので、第1エンド後攻スタートのチームがクリアな展開でブランクとすることはアイスの状況を掴むだけなく、期待勝率の意味でもかなり効果がありそうです。逆に、第1エンド先攻のチームが、第1エンドから積極的に攻めていく戦略も十分成り立つかもしれません。

これまでは、同点の状況でみてみましたが、1点リードしている後攻の場面ではどうでしょうか。

図5 1点リード後攻時におけるブランクの効果

図5に1点リード後攻の場面における期待勝率変化を示しました。この図からわかるように、リードしているときは第7エンド開始時まではあまりブランクと1点を取ることの差がありません(第4エンドは少し差がある)。一方、第8エンド目以降は奇数か偶数かに限らずにブランクが大きな効果となることがわかります。つまり、1点リードで後攻を迎えた場合は、常にブランクを見据えたクリアな展開が理想となりそうです。

では、1点負けている状況ではどうでしょうか。

図6 1点負け後攻時におけるブランクの効果

図6は1点負けで後攻のときの勝率変化を示しています。後半の第6エンド開始時からブランクの効果は絶大です。つまり、負けている場合は、2点取れそうもない局面となった場合に、ブランクを狙えるような柔軟な戦略が重要となりそうです。特に、偶数エンドを後攻で迎えるためのブランクはかなり大きな差なので注意が必要です。

以上をまとめると、選手たちがもっている「偶数エンドを後攻で迎えたい」という感覚は、同点の場合には特に後半で非常に当てはまることがわかりました。一方、リードしている場合の終盤では、奇数偶数エンドに関係なくブランクの効果が大きくなります。さらに、負けている場合は、ゲームの後半(第5エンドくらい)からブランクの効果が大きくなり、偶数エンドを後攻で迎えるためのブランクの効果は絶大です。つまり、逆にいうと1点を取ってしまうことが非常に良くないことを意味します。

このように、勝率テーブルの情報を使うことでブランクの効果や偶数エンドを後攻で迎えることの重要性がわかりました。カーリングというゲームの特性と戦略の奥深さを少しでも感じていただけたらうれしいです。