ノーティックルールで何が変わったか 〜データ分析からみる変化〜
2022-2023 シーズン(以下、2023シーズン)からノーティックルールがほとんどの試合で導入されるようになりました。この結果、後攻側がセンターガードのストーンをティックしてセンターからずらし、よりクリアな展開でゲームを進めることがルール上できなくなりました。
このノーティックルールが適用されたことで、ゲーム全体でより多くの点数が入るようになる、先攻側はよりスチールが多くなる、後攻側がブランクエンドにもっていくことが難しくなる、など様々な予測がなされています。これらの予測は果たして事実でしょうか。
2023シーズンも多くの試合が行われるようになってきたので、これまでのデータからノーティックルールの適用前後でどのような変化があったのかについてみてみます。
今回は世界の女子トップチームの試合から得点経過を分析してみます。ノーティックルール適用後のデータとして、2023シーズンの女子トップチームの試合(約500試合)を対象とします。また、ルール適用前のデータとしては、2019-2020シーズン(以下、2020シーズン)から2021-2022シーズン(以下、2022シーズン)までの3シーズン分のデータ(約1300試合)を使います。
ルールの適用前後の変化をみるために、対象チームはルール適用前後で同じチームのデータのみを用いることにします。
まずは、ゲーム全体での平均得失点(10エンドゲームに換算したときの平均得失点)に関するものを比較します。
ルール適用前 ルール適用後
平均得点 8.17 8.73
平均失点 6.06 6.16
このデータを見ると、やはりゲーム全体での得点が増えていることがわかります。平均失点もわずかに上がっていますがほぼ変わらないといってよいでしょう。
では、後攻側のパフォーマンス指標についてはどうでしょうか。パフォーマンス指標については以下の記事を参考にしてください。
ルール適用前 ルール適用後
Hammer Efficiency (HE) 0.407 0.442
Seal Defense (SD) 0.191 0.196
明らかに、ルール適用後のHEが上がっていることがわかります。つまり、後攻側が複数点を取る確率が増えています。ノーティックルールにより後攻側が不利になるのでは?という感覚とは異なる結果かもしれません。一方、被スチール率(SD)はそんなに変化がありません。
では、先攻側の指標はどうでしょうか。
ルール適用前 ルール適用後
Force Efficiency (FE) 0.598 0.569
Seal Efficiency (SE) 0.288 0.317
相手に1点取らせること(FE)が若干難しくなっている反面、スチール率(SE)は上がっていることがわかります。
では、3点以上のビッグエンドの増減はどうでしょうか。Big-END Efficiency (BE) は後攻で3点以上取った率、Big-END Defense (BD) は、先攻で3点以上取られた率を表します。
ルール適用前 ルール適用後
Big-END Efficiency (BE) 0.124 0.154
Big-END Defense (BD) 0.086 0.112
これをみると、後攻では2点以上取る率(HE)が増えているのに加えて、3点以上のビッグエンドとなる率も増えています。また、先攻時にビッグエンドを取られていることもわかります。
まとめると、ノーティックルールの適用によって、後攻側はより多くの得点をする機会が増えた一方、先攻側のスチール率も増えるという、よりスリリングなゲームの展開に変化していることがわかります。
ノーティックルール適用前後での具体的な後攻時の得失点分布の変化をみてみます。
後攻では、2点、3点を取る率が増えていること(図1)、先攻では、スチールが増える反面、3点以上取られる率も増えていることがわかります(図2)。
また、ブランクエンドの率は若干減っているのがわかり、やはりノーティックルールが適用されたことで後攻側がブランクエンドとすることは少し難しくなっているようです。
以上をまとめると、ノーティックルールが適用されたことで以下のような傾向があることがわかりました。
・後攻での複数得点の機会が増えることでゲーム全体としての得点が増えており、3点以上のビッグエンドも増えている。
・先攻ではスチールの機会が増える一方で、ビッグエンドを取られる機会も増えている。
ノーティックルールに対する各チームの対策はまだ試行錯誤の段階かもしれません。今後さらに、ノーティックルールの適用によってカーリングがどのように変化していくかを追っていきたいと思います。