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第2版出ます。もう【極論で語る】シリーズで、最薄とは言わせない(第3回)

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

いよいよ…です。待ちに待ったと申しますか、河合真先生の極論で語る神経内科 第2版が年明けの1月15日にリリースされます。

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初版は2014年刊行ですから7年ぶりの再生。再生という言葉を用いたのは『循環器内科編 第2版』の改訂のときもそうでしたが、【極論で語る】シリーズならではの大胆なフルモデルチェンジだからです。今回は新たに「頭痛」「末梢神経障害」「めまい」とコモンな疾患の章を書き起こしていただきました。目次構成も一変。

さて、刊行を記念して著者の河合真先生にインタビューしました。前回(第2回目)は【河合節】の河合節たる由縁の源泉を垣間見るお話でした。そして今回で最終回となります。

洗脳(!?)が導いた改訂の扉

編集部 今回神経内科編の改訂を打診されたとき、モチベーション的にはいかがでしたか? 編集部から拝見しますと、先生はご自身の中に「いいたいこと」「知ってほしいこと」「伝えたいこと」というお気持ちがまず強くあって、現実世界がそうなっていない場合、その乖離とのギャップに怒りを燃焼させ、その炎(ほむら)の内圧で一気に筆が進むといった印象を受けます。初版の執筆である程度、お述べになりたいことは達成できたのかな…とも思うのですが。
河合 モチベーションですか。香坂先生が2014年に極論で語る循環器内科 第2版を改訂されたあと、編集部の程田さんがムンテラみたいに、ずっと「改訂…」「改訂…」と言われておりましたので。
編集部 そんなこと言っておりましたか…、私。
河合 ずっと言っておられました。折に触れて「医学書の寿命は5年ですから」とか「医療情報はどんどんアップデートされるので改訂しませんと」とか、すっかり洗脳状態でした(笑)。
編集部 悪気はなかったのですが、本当にすみません。
河合 「本の寿命は5年かあ、神経内科も刊行から6年経っているし、そろそろかな」と思っていたので、編集部から改訂と打診されて「はい、そうですね」という感じでした。

改訂の扉を開いたもう1つの原動力

編集部 改訂作業は、じつは結構難しいじゃないですか。単なるアップデートだけですと読者的にも新規性がないですし、テーマ的にも神経内科で扱う疾患は奥が深いと申しますか、「どの疾患を扱い」「どの疾患を追加する」とか。先生はどのような点を心がけましたか。
河合 初版が出たときに、本を読まれた方がSNSでたくさん感想を呟かれたのですよ。もちろん好評の読後感もありましたが、とにかくいろいろな方が読まれて、いろいろなフィードバックが舞い込んできて、中には耳の痛い指摘もありで。ツイッターって、心にグサッとくることがたまにありますけれども、一番グサッときたのが「極論シリーズの中で一番薄い」っていわれたのが一番ムカついて。クッソー!と思って、改訂では新規に3章追加したのです。これは事実。
編集部 今回は、そこがモチベーションでしたか。
河合 やっぱり怒りがないと書けません。
編集部 第2版は200ページを超えました。正確には208ページです。
河合 ありがとうございます! だから、

もう一番薄いとはいわせない!

というのがまず1つ。それからある言語聴覚士の方から指摘があって、じつは僕は恥ずかしながら「言語聴覚士」という日本語の正式呼称を知らなかったのです。アメリカではspeech and swallowとかspeech therapistという呼称なのです。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の章を読んだその方から「言語聴覚士というちゃんとした名前があります」といわれてしまって。
編集部 初版では「言語療法士」でしたので、「正誤表」で訂正案内させていただきました。
河合 そうしたフィードバックの蓄積をずっと丁寧に貯めていたので、「改訂したら、ここは直すぞ」という箇所がたくさんありました。今の時代は皆さんSNSをやられますから双方向なんですよね。昔なら本を出してもおそらくそれっきり。今はそうしたフィードバックがあるから、耳には痛いのですが、何が足りないのかが把握できるというのはありがたいですね。
編集部 ご迷惑をおかけしないように、今回は編集部総出で校閲しました。
河合 でもまた来るのだろうなあ。そしたらまた改訂3版に叩き込まねばなりません。

そんな馬鹿な…という存在でした

編集部 河合先生は、本シリーズで3回目の執筆です。今回も監修の香坂俊先生と作業をご一緒されましたが、先生からご覧になられた香坂先生像など、よろしければお聞かせください。
河合 今回もすごい校正をしてくれました。
編集部 昔、ニューヨークとヒューストンの病院でご一緒されていたのですよね。
河合 そうです。NYのセントルークス・ルーズベルト病院で働いているときから、「こんなにできる日本人の医者がいるんだな」というのが印象で、かなり衝撃的でしたね。今だからこそいえますが、僕らが研修医の頃は、初期研修必修化の前の時代ですから、大学を卒業したらそのまま大学医局に入って、医局のやり方をマスターして、その学閥の中で育っていくわけです。僕の場合は京大でしたからお恥ずかしい話、当時は「自分の大学が一番」と思っていたわけです。しかしうすうすではありますが「もしかしたらうちの大学のやり方はよそに行ったら通用しないかもしれない」とは内心思っていて、それで実際、アメリカに行って標準医療に曝されたときに、もうめちゃくちゃ自分ができないのですよ。でも、めちゃくちゃできた人がいたのです。
編集部 それが香坂先生ですか。
河合 同じ国から来たのに、そんな馬鹿な…みたいな話でしたね。それで、やっぱり自分が受けてきたトレーニングには足りないところがあったのかな…とか、いずれにしても優秀性と出身大学は何の関連もないことを思い知らされましたね。香坂先生もいたし、岩田健太郎先生もいたし、八重樫牧人先生もいたし、みなさん恐ろしく優秀でした。
編集部 日本の医療界をリードする綺羅星のごとくの先生方ですが、その時期にNYでたまたま偶然居合わせたわけですか? 
河合 今考えると、たまたまですが、発信したい人、本を書きたい人がその時期にNYに集中したとはいえますね。田中竜馬先生も京大の同級生ですけど、ニューヨークに来たのは彼が一年先で、それで香坂先生と田中先生は同じ学年になりました。
編集部 それは初耳です。
河合 みんな同じアパートに住んで、ずっと『サンデー』の回し読みをしてたんです。
編集部 『ジャンプ』じゃなくて『サンデー』ですか。
河合 『サンデー』です。あと『マガジン』も。たしか香坂先生がニューヨークのKINOKUNIYA で『サンデー』を取り寄せて、それをみんなでむさぼるように読んでました。
編集部 今では、一緒に本づくりをされているのですから不思議なご縁ですね。
河合 当時、アパートの部屋にみんなで集まって、フォーマルではないのですが症例研究のような勉強会をしていたのですが、どの方も異常なほどできるのですよ。だからこの苦しい米国臨床留学が終わったら、やがてこの人たちは必ず本を書かれて、いつの日か、NYの時代を懐かしむときが来るのだろうなあとは漠然と思っていましたね。
編集部 先生にとって、当時のお仲間の先生方はどういう存在ですか。
河合 ライバルと思っていたらしんどいので、いつからかライバルとは意識して「思わないように」しています。何しろ彼らときたら、次から次へと意欲的な出版を行い、あるいは論文を発表したりしますが、そのいちいちに対して、自分と比べて落ち込んでいると身が持ちません。むしろ彼らがもっている独特のアイデアとか、かっこいいじゃないですか。そういうところでは負けたくないとは思いますけどね(あ、それはライバルか)。アイドル(時々ライバル)かもしれません(笑)。

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NY時代の河合先生。病院隣接のアパート。スクラブからスクラブに着替えて、常にスクラブでいたという

多くを語らなくてもわかってくれる龍華先生

編集部 改訂版でも、龍華朱音先生にイラストを描いていただきました。著者・まえがきにも「龍華先生との作業はいつも楽しい」というお言葉を寄せられていましたね。
河合 そうですね。本シリーズは香坂先生と大木康弘先生と龍華先生が話していて、そこからスタートしたという記事を読みました。そのシリーズにお声かけいただいたのがまずありがたいです。他の本でもいろいろなイラストレーターと仕事をすることがありますが、臨床上のイメージが伝わらない…伝えるのに苦労する…ことがあります。でも龍華先生だと「こういうイラストを描いてくれたらうれしいな」と思っていると、ほぼその通りのイラストが上がってくるのです。やっぱり龍華先生はお医者さんですから、その辺のイメージを伝えやすいし、一を知って、十を描いてくれるのでありがたいです。共通の医学知識があるから多くを語らなくてもわかってくれる。そこに、極論のテイストが加味されますから、絵を見ると「なるほど、こうなるんだ!」という感じです。それと、仕事を重ねるごとに龍華先生の絵は上手になっていますよね。
編集部 そう思います。アナトミー的な絵もものすごく精緻で、解剖的な要諦をきちんと押さえていらっしゃって、かつシンプルで味わいがある。
河合 そうそう、味がおありになる。初版のときから絵もうまいし、味もあるし、でも最近の絵をみると、さらに「うまいなあ」と感心しきりです。
編集部 そのコメントを聞かれたら龍華先生もお喜びになられると思います。
河合 今回もすごく楽しい作業でした。ただのイラストじゃなくて、話の筋に沿ってこういうイラスト描いてくれたらうれしいなあというイメージがちゃんと上がってくるので、きっと伝わるんですよね。お医者さんがイラスト描いてくれるというだけでもすごい話ですからね。それって、極論の一番のポイントかもしれません。

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6章「末梢神経障害」(龍華先生のイラスト)

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6章「末梢神経障害」(龍華先生のイラスト)

そのフィードバックが次の版の糧に

編集部 最後になりますが、読者の方にメッセージをお願いします。
河合 今回もがんばって書いたので、ぜひ読んでください。そして、皆さんのご感想をお寄せください。そのフィードバックが次の版への糧になります。ツィッターでご指摘いただいて、しばらく無言になったときは、その言葉がグサリと刺さっている状態(涙)と思っていただいて、しばらくお待ちください。
編集部 インタラクティブな読み方をしていただきたいと。
河合 そうですね。いい時代になったと思いますよ。いろんなことがタブーではなくなり、ざっくばらんに許容されますし。例えば、初版が出たときも「神経内科は面白い」といってしまうと、患者さんに対して失礼かもしれないとひそかに気にしたりしたわけです。一般内科だって、面白くプレゼンすると不謹慎じゃないかと以前はいわれましたからね。でもそうではなくて、正しい知識を他の医療従事者の皆さんに吸収してもらうには、硬い話し方より柔らかいほうが受け入れてもらいやすいし、頭に入りやすい。結果、患者さんの利益にも寄与すると思います。人間の脳はポジティブな感情で臨んだほうが学習効果も上がります。神経内科の臨床も辛い想いを抱きながら勉強する必要はないのではないか。最近はこうした考え方に賛同してもらえる方が大多数になってきたように思います。そして、そのような学び方のはしりとなったのが極論で語る神経内科ではないかと自負しています。そして、僕が伝えたいことは

やっぱり神経内科は面白い

ということに尽きるのです。難しい分野ではあるけれども、その面白みを引き続き伝えていきたいと思います。そして5年後の第3版の改訂に向けて早くも覚悟していますよ。それと今度の改訂の打ち合わせは(コロナが収束したら)また日本のホテルでカレーを食べながらしたいですね。
編集部 その日が訪れることを心待ちにしています。本日はありがとうございました。

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(終わり)

ご清聴(読)ありがとうございました。

2020.12.25.

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