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【じんたろホカホカ壁新聞】大阪の高校授業料無償化の差額費用は誰が負担すべきか?

大阪府で高校の授業料が完全無償化されるとかで騒がしい。
府知事が私立学校と揉めていたけど、合意したとか。
でも、京都府の私立学校がそれに異論を唱えているとか。
どういう問題で、何を解決すべきなのかを考えてみます。


授業料の無償化とは

高校授業料無償化とは何でしょうか?
まず、2010年に民主党政権下で、国会で決まった公立高校の授業料が実質無償化されました。
同じ年に大阪府の橋下府知事が一定所得以下の世帯に対して私立高校でも無償化しました。
この動きが全国に徐々に拡がりました。
2020年には、授業料の負担を減らすために支給されていた国の「就学支援金」を拡充し、年収590万円未満の世帯を対象に、私立高校授業料の全国平均額(年約40万円)まで、支給額の上限を引き上げました。これにより私立高校の授業料が全国平均以下の場合は無償となりました。
しかし、私立高校無償化に反対する国民の意見もありました。理由を要約すると以下の5点です。

① 政府の財源問題
② 高校は義務教育ではない
③ 子供がいる家庭だけを優遇するのは不公平
④ 経済的に大変なら、公立高校に行く選択肢はある
⑤ 大学の教育費負担を含む抜本的な教育のグランドデザインの問題がある

しかし、徐々に国民や各政党のコンセンサスも「私立高校の無償化」で意見が集約されていきました。
京都府では大阪府と似た無償化制度を2015年から実施し、東京都も2017年から実施していました。

でも、私立学校を進学先に選ぶ理由はいろいろあります。

① 個別高校の教育理念やプログラムなど特色・独自性を評価
② 私立大学の付属校になっており、エスカレーター式に大学に行けるから
③ 自分の学力に見合った公立高校が近くに無いから
④ 公立高校に落ちたから

その他にもあるかもしれません。
そのなかでも独自性が失われるのではないかという懸念は当初からありました。

でも、どうして、大阪や京都や東京が全国に先駆けて私立高校の無償化をしたのでしょうか?
それは、設置高校の公私比率が関係しています。

全国平均では公立高校(全日制)は65.6%です。
でもこれは都道府県によって差があって、近畿地方の滋賀県だと81.6%、京都府では48.9%、大阪府では57.6%、奈良県66.0%です。
東京ではなんと37.3%です。
つまり、私立高校が大阪府では43%、東京都では63%が私立学校なのです。
ポピュリストの橋下知事がこれに目を付けないはずはない。小池知事も同じです。
だから、国民にとって必要なのは公立だけが学費が安いという不平等の解消ということなんでしょう。

授業料無償化の仕組み

2020年度より、全国で年収目安が590万円未満の家庭では、私立高校に通う高校生への国の就学支援金の上限が39万6,000円に引き上げられました。つまり、授業料が39万6,000円以下の場合には「実質無償」となります。

※「590万円未満」は目安です。家族の人数や年齢、保護者が共働きかどうかなどで金額が変わり、590万円を上回る場合でも適用されることがあります。

どういう世帯が対象になるかどうかとかけっこう難しい。
暇な人はこのビデオでも見てください。

さらに各都道府県では無償化に違いがあります。
京都府では府独自の上乗せで910万円未満世帯まで補助京都府では、世帯(保護者、生徒ともに)の住所が京都府内であり、京都府認可の私立高校に在籍している場合、府独自の「あんしん修学支援制度」による補助金が上乗せされています。

※詳しくはこちら。

ただし、無償化と言っても、入学金や制服代、教科書代、PTA会費、修学旅行のための積立金、部活動費などは対象外です。

大阪府の私立高校の授業料完全無償化とは何か?

では、どうして大阪府では吉村知事と私立学校の経営者団体が揉めていたのでしょうか?

吉村知事が提示した案は最初こんなのでした。

大阪府が来年度から実施する、高校授業料完全無償化の素案を巡り、府と私立高校側との間に溝が生じている。年間授業料が60万円を超える分を学校が負担する仕組みになっており、所得制限がなくなることで、私学側には対象者の増加で負担がさらに膨らむ懸念がある。府は現時点で歩み寄りを見せておらず、波乱要因を抱えての議論となりそうだ。

大阪府では現在、国と府の補助金をあわせた上限額を60万円と定め、それを超える授業料については年収800万円未満の世帯を対象に、私立学校側が負担する「キャップ制」という制度が敷かれています。
今後、所得制限が撤廃されると、これまで保護者が負担してきた分も合わせて、すべて学校側が負担することになります。
清風南海の場合、年間授業料は1人64万円で国と府の補助金の上限60万円から4万円分超えています。新制度ではこれまで負担してきた分に加え、さらに約2200万円が上乗せされることになり、負担額は3倍となるのだとか。  

それで私学団体が吉村知事と交渉していました。

しかし、大阪府としても新制度は、2024年度に高3、25年度に高2と高3、26年度に全学年で実施すると、国の就学支援金に府独自の補助金を上乗せする形で、完全実施により年間382億円以上の予算がかかります。

保護者の代表が大阪府に陳情書を届けるとか私立学校側もあれこれ抵抗を試みました。
その結果、こうなりました。

府の無償化制度は、公費の補助対象に「上限」を設け、超過分は学校側が負担する仕組みだ。府は5月、上限を年間1人あたり60万円に据え置いたまま、所得制限を撤廃する素案を公表。完全無償化を実施すれば対象となる生徒数が増えるため、学校の負担増になるとして私学側が反発していた。
これに対し、府は補助の上限を同60万円から63万円に引き上げ、人件費などに充てる私立学校向けの助成金を1人あたり2万円程度増額する修正案を提示。対象者の拡大や補助上限の引き上げなどにともない、追加で250億円ほどの公的財源が必要となる見込みだ。

私立学校側は、大阪府の予算から250億円を勝ち取って、大阪府の私学団体は、ちょっと負担がましになって、やれやれということでしょう。

吉村洋文知事と意見交換した同連合会の辻本賢会長は「英断に感謝している」と府の対応を評価した。現行制度には府内の全日制私立高校97校中96校が参加している。吉村知事は「新制度にも96校が参加の意思を示してくれているということで、ありがたい」と応じた。

差額は誰が負担すべきか?

しかし、このことは新たな火種を生んでています。

もともと各都道府県ではこの制度が異なります。
2年前、大阪府の近府県の京都府と奈良県ではこんな感じでした。

そのため、大阪府が導入を目指す私立高授業料の完全無償化に対し、京都府や滋賀県内の私立高から懸念や反発の声が上がっているのです。
とくに京都府は自治体の就学支援に恵まれているため、大阪府のこの制度に参加すれば、新たな負担が増えるのです。
京都府の私立高校は大阪府からの進学が多く、現在大阪府から3600人以上の生徒を受け入れています。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1084821


授業料のキャップが大阪府の修正案では63万円になりましたが、65万円の京都府のキャップの間には2万円のギャップがあります。
そもそもこの制度は京都府と乗り入れもないので、その特典もなく、すべて大阪府の制度に従うことになります。

龍谷大学付属平安高校には大阪府内から全校生徒の約13%に当たる約180人が通い、多い年では20%を超えているという。同校は、授業料62万円に教育充実費などを加えると86万円になる。新制度では一人当たり20万円超の学校負担が生じることになり、教員削減などを余儀なくされ、教育の質の低下を招く恐れがある。

「京都新聞」2023年8月10日

かといって、大阪府のこの制度に参加しなければ、一切の補助金がないという選択肢です。いずれにしても「いばらの道」なのです。
2010年に大阪府が先行して私立学校の無償化に踏み切ったときには、京都に進学する約15%の生徒が減ったと言われています。


では、この差額分は誰が負担すべきなのでしょうか?
教育費は公立と私立ではこんなに違います。

だから補助金が投入されるのもわかる。では、今回の大阪府が負担したあとの差額は誰かが負担しないといけない。

そもそも、就学人口が減っているのに公立と私立の高校の生徒数や比率はどうなっているのでしょうか?

2000年(平成12年)には大阪府の生徒数は、公立高校が70.2%で、私立高校は29.8%でした。
それが2020年には公立高校が63.9%、私立高校が36.1%になっています。
つまり、私立の比率が6%も増えているのです。
これは京都府でも似たような状況なのです。

実は、就学人口が減っている分は公立で学校数と生徒数を調整しているというのが多くの都道府県なのです。

だから吉村知事の発想もわからないわけではありません。
公立高校のようにリストラしていない分、私立学校が負担すべき、という考えなのでしょう。とくに高い学費を設定する場合は、その分は私立学校の責任だろう、という理屈なんだと思います。
ただ、吉村知事は賢いのでそんなことを露骨には言いません。こんな風に言っています。

全国でも先駆けとなる取り組みだが、吉村知事は「OECD(経済協力開発機構)でよく比較されるが、世界と比べたら圧倒的に遅れている。各国は、教育や人への投資にかなり力を入れていて、最後には国に帰ってくるのをみんな分かっている」と説明し、「教育投資額が少ないというのは明らか」と日本の遅れを指摘した。
続けて、「子育てにはひとりにつき3000~4000万円必要で、その大半が教育費。教育に力をかけることは本人自身の能力を高めるのはもちろん、社会に出ることでプラスになる。そこに力を入れていくべき」と示した。

さて、この差額は誰が負担すべきなのでしょうか?

最初の私立学校の高校の無償化も大阪府だけが他府県に先んじて実施しました。
それは大阪府民のためでした。
今回もそうなのでしょう。
そのうち国の制度が後追いで付いてくるという見込みなのでしょう。

京都府の制度は全国でも自治体の負担水準が高く、授業料上限の65万円は授業料の平均額であり、これは全国でもトップクラスの補助額になります。年間の府の予算額は約30億円となり、私立高校に通う府内高校生の約7割に当たる約1万6千人が補助を受けています。ただし、京都府外の高校に通う生徒は兵庫県以外は対象外です。同じ制度にするために大阪府に「相互支援」を呼びかけていますが、大阪府には断られています。その理由は、大阪府から京都府に通う生徒は約3300人なのに対して、京都府から大阪府に通う生徒は約800人で大阪府の負担が約4倍になるからです。

「京都新聞」2023年8月10日

これまでは京都府が大阪府に相互支援を呼びかけていましたが、今回は京都府もこの大阪の呼びかけを「大阪府の制度案にかかわらず、府外に通う生徒へ授業料補助を独自に始めるいい機会」と受けとめる考えの幹部もいるようです。一方、「『府外の高校にどんどん通ってください』という誤ったメッセージになりかねない」と懸念する声もあるとか。

制度に乗ると、学費値上げをしようにもキャップ制があるために、その分は結局、自校の負担となるので値上げもできません。

全国で統一の制度が実現するまで、大阪府と大阪府の生徒が通う周辺府県の私立学校は教育に関する費用や人件費などを削って対応するか、高所得者から寄付を募るかという収入と支出の方策をとるしかないでしょう。

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