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【じんたろホカホカ壁新聞】京大霊長類研5億円不正は何が問題なのか

どういう事件なのか

 京都大学の調査結果によると、2018年12月に霊長類研究所の横領疑惑に関する情報提供を受けるなどし、2019年6月から学内に調査委員会を設置して調査を開始した。2011年度から2019年8月末までに結ばれたチンパンジーを飼育するケージの整備に関わる契約100件などを調べたところ、過大な支出や架空取引、入札妨害など計34件、総額約5億円の不正使用を認定した。
 元所長の松沢哲郎特別教授ら4人が公的研究費など約5億円を不正支出したとする調査結果を公表した。今後、松沢氏らの処分について検討するという。他に関与したのは同研究所の友永雅己教授と同大野生動物研究センターの平田聡教授、森村成樹特定准教授の3人。
 松沢氏らは、ケージ整備を通じて多額の赤字が発生した取引業者から補填(ほてん)を求められていたといい、不正支出分は全額、取引先業者に支払われ、私的流用はなかったという。

○研究費不正支出は5億円 京大霊長類研 調査委が認定
2020.6.26 17:19産経WEST
https://www.sankei.com/west/news/200626/wst2006260027-n1.html

 もう少し詳しく見ると、こういうことである。
発表によると、内訳は過大な支出が12件(1,498万円)▽架空取引が14件(4,880万円)▽目的外使用が1件(47万円)▽入札妨害が7件(4億4,242万円)。いずれも同研究所と同センターのチンパンジー用ケージの整備に関係していた。

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 過大な支出は、仕様書との乖離(かいり)により損害が生じた契約9件と、損失補塡(ほてん)のため不当に金額を上乗せした契約3件。
 架空取引は、納品実態がないのに代金を支払った契約1件、別の契約で発注済みなのに再発注し二重に代金を支払った契約11件、正式な手続きを経ずに納品が完了していた物品に対し翌年度以降に架空の発注手続きをして代金を支払った契約2件。
 目的外使用は、補助金で購入した2点の物品のうち1点を別の用途で使用し、1点は全く使用せず保管していた契約1件。入札妨害は仕様策定に関与した取引先業者が入札に参加した契約7件だった。
 それぞれ関与した件数は松沢氏が14件、友永氏が26件、平田氏は1件、森村氏は3件だった。

どうして不正は起きたのか

 不正が起きた原因は、霊長類研との取引業者に発生した赤字を補てんするために行ったとみられている。調査に対して、教授らは「窮状を訴える取引業者を何とかしてあげたかった」と話しているとか。
 しかし、大学側は、行為自体を問題視しており、研究分野の特殊性から特定の業者に依存し、順法意識の欠如や会計制度の軽視があったとしていて、今後、4人の懲戒処分を行う方針とのこと。

○京大霊長類研不正 調査結果公表
06月26日 18時01分NHKwebニュース
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20200626/2000031459.html

 文部科学省は大学の研究をめぐる再三の不正に対して、大学としての関与特に事務組織の関与を求めている。
これは研究の専門性のために、研究者と特定の業者との間で癒着が生じやすくなることに対する対策のひとつだ。
 しかし、今回の場合、松沢哲郎氏の業績は抜きん出ており、その影響力によって長きにわたる不正が見逃されたことが背景にある。
 会見で、京大の湊理事は「運営に関する責任は事務方。事務方と研究者のトップが同等の権限を持つことを徹底させないといけない」と強調している。
 京大には特別教授が4人しかいない。本庶佑氏(ノーベル医学生理学賞受賞)、森重文氏(フィールズ賞受賞者)、北川進氏(iCeMS:細胞統合システム拠点長)。ノーベル賞やフィールズ賞(数学のノーベル賞と言われている)の受賞者や京大の研究拠点のトップ。事務組織がその権威の前で対等に発言できるのかは疑問である。

なぜ発覚したのか

 この事件が発覚したのは、京都新聞によると東京都内の業者による告発らしい。
 「会見内容は身内をかばう姿勢に見える。大学側はうそをつかず、事実を明らかにしてほしい」とその業者は述べているとか。
 京大側は「業者の要望に押し切られる形で教員が仕様の変更に応じた」と説明したのに対して、告発した業者は「お互いの了解の上で手続きはまとまりつつあった。しかし、その後に教員たちが態度を変え、信頼関係が破綻した」と語っている。
 真相が今ひとつわからないのだが、途中で支払いを拒否された業者が告発したようにも思える。この業者はこれまでの業務の対価を得られないことに憤っているのか、それとも研究者の見積の甘さを業者のせいにされているのが不満なのか。そのあたりがまだわからない。

山際学長の関与は

 京都大霊長類研究所は1967年6月に愛知県犬山市に設置された。歴代の所長には、日本霊長類研究の「第一世代」である河合雅雄氏や、アフリカのチンパンジー研究のパイオニアの杉山幸丸氏らが名を連ねている。松沢哲郎氏も2006~12年に所長だった。現在も世界から科学者が集い、活発な研究が行われている。
 松沢特別教授は天才といわれたチンパンジー・アイの研究で知られる日本の霊長類学の第1人者である。

○京都大の霊長類研究所とは 歴代所長にそうそうたる研究者
2020年6月26日京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/290876

 会見で「松沢氏は(同研究所の助手を務めたことのある)山際寿一総長と密接な関係にある。この点が調査に与えた影響は?」との質問もあったらしい。大学側は「一緒に勤務したこともあるが、それ以上でもそれ以下でもない。密接な関係にあったとは考えていない」と強く否定した。

○京大霊長類研不正支出問題 調査結果公表 不正は5億円超える
2020年6月26日KBS京都
https://www.kbs-kyoto.co.jp/contents/news/2020/06/n20200626_098278.htm


法的問題、内部処分はどうなるのか?

 今回の件では、チンパンジー研究の第一人者である松沢哲郎特別教授と友永雅己教授ら教員計4人が関与しており、今後、懲戒処分を検討すると大学側も会見で述べている。
 京大側によると、4人の中には不正を否定している人もいるという。私的流用は確認できなかった。京大側は刑事告訴するかどうかについて「関係機関と調整しないといけない」と述べるにとどめた。 

○霊長類研で不正支出5億円 松沢教授ら4人、処分検討 京大
6/26(金) 15:07配信JIJI.COM
https://news.yahoo.co.jp/articles/384a4bc35a9c25fad55360e2c564d1b0d96a927a

 京都大学・湊長博副学長「大学とのこれまでのチンパンジー用ケージに関連する取引において、(業者は)多額の赤字を抱えていると主張していて、教授に対してその赤字の補てんを執拗に要望していた。教員は研究を継続的に行うという目的のために、架空取引等で業者に対して必要以上の配慮を示す、それが研究費の不正使用に至った背景があった」
 京都大学は、再発防止策として、発注内容を具体的に記入するよう周知したうえで、経理の専門職員を配置し、チェック機能を強化するとしている。

○京大霊長類研究所 研究費5億円不正使用 業者の赤字補てんに架空発注を繰り返す
6/26(金) 19:10配信YTV
https://news.yahoo.co.jp/articles/0e8cef5e0f2afd39d0fa79d68c05f8a0d1de207f


【京都大学 湊長博副学長】
「業者が経営は困難、会社としては成り立たないと万が一なったときには、我々の研究に支障が出るという意識が強かった」

【霊長類研究所 湯本貴和所長】
「4名の教授らの中には不正の内容について”そうではない”という人もいる。(それぞれの言い分は)公表できない」

 京都大学は今後、刑事告訴・告発を含めて検討するということだが、不正の内容について事実を認めていない教授もいるので、まだまだこの事件の真相解明は続くと思う。
 場合によっては刑事告訴しないと明らかにならないと判断するかもしれない。

○京都大学で5億円超の研究費”不正支出” チンパンジー研究で有名教授ら
6/26(金) 19:01配信関テレ
https://news.yahoo.co.jp/articles/ef7b07b18176d6a8c6960c53dcdd588f96e7e57a

【じんたろの深層視点】

 京都大学の研究費不正は後を絶たない。
 過去5年をみても、京都大学の研究費不正は毎年くらい起きている。 

 2017年度には経済学研究所、防災研究所、薬学研究科の3カ所で報告されている。
 そのなかでも薬学研究所の預け金による不正支出が9,400万円にも及んでいた。京都大学はこの研究室の元教授を刑事告訴し、後に懲戒免職にした。
 本事案の発生要因として、主に以下のような要因があげている。
① 当時の競争的資金等の制度面や運用面において課題があったことが背景にあったとしても、預け金は不正経理であることが明確に通知されていた中で、預け金を必要悪だと主張するなど、当該教授に研究者としての倫理観、規範遵守意識の欠如があったこと。
② 当該教授と特定の取引業者との間に癒着関係があったこと。
③ 当時、比較的低額な納入物品の検査は、教員自身が行うことができたこと。

 取引業者との癒着はここでも指摘されていた。京都大学で不正が集中するのは管理体制もしくは組織文化に重大な欠陥があるのだと思える。ノーベル賞研究者を多く輩出している大学であること、その背景となっている自由な学風と厳格な管理体制とのトレードオフがあるのかもしれない。かつて京大病院で医療過誤による死亡事故が発生した際に、安全管理の部署を設置したことがある。その際にも分野の権威の教授に担当部門のトップが対等に、いやその権限のもとに事実に迫ることができるかという問題があった。
 今回の霊長類研究所の件も金額が大きいため、松井氏らの刑事告訴は避けられないのではないだろうか。そのときこそ、山極寿一総長の判断が試されるのだろう。研究不正について厳しく迫ることは、研究者の研究倫理を守ることであり、守らないのは研究者として自殺行為であることを自覚すべきだろう。自由の気風、京都大学。研究不正と決別することは、その学問の自由、大学の自治を守ることでもある。山極総長はそう自覚して、研究者と事務局の行動として示すべきだろう。

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