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ただ、正しいことをしたかったんだ

大好きな映画「シング」の続編、「SING/シング: ネクストステージ」が公開されたので、劇場まで足を運んでみた。

最初に「シング」が公開された時、劇場で観て衝撃を受け、DVDを購入して何度もリピートしたくらい大好きな映画の続編。
大体シリーズものは1で頭角を表し、2で期待を下回るイメージがあったので、大好きな作品の続編を観ることは自分にとって賭けであった。

しかし映画館を出た後の私は決して後悔していなかった。
想像を超えるほど面白く、そして心を掴まれた。「シング」の良さや、らしさを取り入れながら、キャスト、舞台、話の規模、観客に与えるもの、全てがパワーアップしていたのだ。


※ここからはネタバレも含まれます※


まず、シングといえば何かと話題になるのが豪華キャスト陣。
1で登場した内村光良さんやMISIAさん、長澤まさみさん、坂本真綾さんといった豪華な面々に加えて2にはB'z稲葉さん、アイナ・ジ・エンドさん、SixTONESジェシーさん、akaneさんなど更に豪華なアーティスト達が揃っている。

私は俳優や声優の良さをそのまま感じたいタイプなので、洋画の吹き替え版が苦手なのだが、シングだけは唯一吹き替え版をみたくなる。
登場キャラクターの持ち味に加えてアーティストの持ち味が加わり、更に圧倒的歌唱力・表現力のステージを魅せてくれるので、約2時間心を揺さぶられっぱなしだ。

動物の世界を描いているので、登場キャラクターは全て動物だが、各キャラクターの人生にストーリーがある。

例えばゴリラのジョニーは、歌唱力はあるもののダンスが苦手だ。大規模なショーに参加することになり、ダンスを強制させられる。
ゾウのミーナは初恋を経験するが、好きな人を前にするとうまく会話ができず、目も見れない始末。
ライオンのクレイは奥さんの死が受け止めきれず、塞ぎ込んだままだ。

実は表現者とは臆病者なのかもしれない。面と向かって言えない気持ちや誰にも理解されない思いを会話以外の表現を使って届けている、同じ立場の人に。

各キャラクターがもがき苦しみ、自分に問いかけ、歌を通して自分なりの答えを見つける。熟しに熟した気持ちが外界に放たれるとき、歌い手にも聴き手にも想像できなかった景色が広がっている。歌の持つ力は偉大だ。

あらゆるストーリーが壮大な演出と歌で締められる時、「そうそう、これこそがシングだ」と劇場に足を運ぶ理由を思い出す。
今回はSFの世界観のショーだったので、まるで1つのアトラクションに乗ったかのような没入感と迫力も楽しめた。


また、この映画は単なるエンターテイメントでは終わらない。
観終わった人はそこから自分の物語が続いていくのだ。
野心家でひたむきな主人公のコアラ・ムーンが歌い手だけではなく観客の人生をも強い引力で導いてくれる。

ムーンの困難の乗り換え方はいつも無茶苦茶だ。道徳やセオリー、マナーなんてまる無視で、とにかく目指すゴールに向かって熱い気持ちで突き進むのみだ。
これだけ聞くと周りに迷惑をかけまくるパワハラ上司にも聞こえかねないが、何故かみんながその背中を信じてついていく。

「ただ、正しいことをしたかったんだ」
これは劇中で印象に残ったムーンのセリフ(ニュアンス)だが、ここにムーンが愛される理由が詰まっていると思った。

世間が思う正しいことと、自分が思う正しいことは必ずしも一致するとは限らない。ムーンは常に自分の心に問いかけ、自分が正しいと思うことを行動に移す。この純度の高い素直さと情熱にみんなの心が動くのだ。

観客は、少なくとも私は、観ているうちにムーンの夢に自分の夢を重ねてしまう。
ムーンの根拠のない自信や周りを巻き込んでいく破天荒さを疑似体験すると、自己万能感が湧いてくるから不思議だ。

既に観た人も、これから観る人も、観終わった後の自己万能感が消えないうちに、自分だけの続編を作るべきだ。

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