マガジンのカバー画像

藍宇江魚 短編集

17
藍宇江魚の短編集です。 ここには、noteで公開した10000字くらいまでの作品を収めました。 ジャンルはフリー。 小説、エッセイです。 ヨロシクお願い致します。 ちなみにヘッダ…
運営しているクリエイター

#短編小説

NEW Moon Party -新月夜会 英語版-

Tavern When I opened the door and met the owner's father, he greeted me with a slightly embarrassed look. "Welcome" "It seems crowded" "It's rare. It's crowded from this time today" "It's still before 6 o'clock in the evening" "T

カップルたちの『あ』『そ』『こ』

      もう直ぐ金婚式の二人の『あ』れ 「あれ。どこ?」 「あれ?」 「あれだよ」 「あれのこと?」 「あれ」 「あれね」 「あれじゃない」 「あれ、じゃないの?」 「あれだって。あれッ」 「あれって…」 「あれなんだけどなぁ」 「あれあれって…」 「あれですよ…」 「あ…、あれ?」 「あれっ」 「あれね。はいはい」       肉特売場付近での夫婦の『そ』れ 「それ安いなぁ…」 「それ要らない」 「それとか?」 「それも要らない」 「それッ」 「それ入れない」 「それ

What is it ?

 夜空を彩る花火を居間で眺める二人。  竜は、渉に言った。 「なぁ。俺たち。もう別れよう…」 「えっ。どうして?」 「俺。自分の子供が欲しくなった」  その夜のフィナーレを飾る大輪の花火が二人の前でパッと、一際派手に散った。           *  猛烈な台風の朝。  渉は、最近付き合い始めた彼氏の翔とベッドの中で話している。 「ゲイで子供欲しいかぁ…」 「そう言われるとね。別れる以外ないし」 「それで荒れてたんだ」 「うん。でも、どん底で翔に救われた」  二人、苦笑。 「

縁側から見える枇杷の生垣

 今年も、隣家との生垣で植えている枇杷にたくさんの実が生った。  征子がそれを収穫していた時、足元に落ちている枇杷の種に気づいた。  彼女はしゃがむと、その種を愛しむように指先で撫でた。           *  庭を散歩している征子の足元に、枇杷の種がポトリ降り落ちて転がった。  …建造め。また、うちの枇杷の実を…  垣根越しに隣の庭を覗くと、征子の幼馴染の建造が枇杷の実をムシャムシャ食べている。  彼を見るなり、征子は大声で怒鳴った。         「こらッ。う

さくらショッピング

 ガリッ、ガリガリ。  煎餅を噛砕く音。     *  名前:河合真理子  年齢:41歳  属性:専業主婦  家族:亭主、中学2と幼稚園の息子たち  娯楽:通販  恋:宅配の吉本くん     *  SNS:小泉明日香→河合真理子     *  名前:小泉明日香  年齢:53歳  属性:コンビニバイト主婦  家族:亭主、高2の娘、中2の息子  娯楽:SNS  恋:忘却     *  真理子、TVオン。     * 「さくらショッピング!」 (男性ナレーションの声) 「あの楊貴妃

都・死瞬 TOSISYUN

       1.もう、詰んだ  厳冬のある日の夜。パンデミックで仕事と住む家を失った若者が、駅前広場の片隅で商業ビルの壁面を飾る大型ビジョンに流れる映像を虚ろに見ていた。  若者の名前は、瞬と言った。  職は見つからず。  貯金も底を尽き。  住んでいたマンションも追い出されてマンガ喫茶を転々する日々。  だがそれも、緊急事態宣言によって終わりを迎え、今ではホームレス同然の生活を送る境遇となってしまった。 外出制限のため街を歩く人の姿は絶えて、多くの店のシャッターは閉まっ