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虚実 「桜井」 祐平は開斗を押し離した。 「セクハラだぞ」 「俺、本気ですよ」 「わかった。だが、今夜は帰って寝ろ」 「祐平」 「編集長だ」 * 午前5時前。 ホテルの自室で目覚めた祐平はベッドを出て窓の外を眺めた。 彼の目に蒼白い都会が酷く生彩を欠いて映った。 …祐平。好きです… 脳裏を過る、開斗の声。 …あの時にどこか似ている… 彼は、そう感じて少し途方に暮れる。 * 編集会議の後、開斗は会議室を出ようとする祐平を呼び止め
疑心 朝。 開斗は玄関で祐平の背中を抱いた。 「こらっ」 「会社じゃ出来ないし」 「遅れるぞ」 「上司もね」 二人、笑う。 「今夜、社長と飲むの?」 「うん。先に寝てて良いよ」 「飲み過ぎないように」 「わかってる」 二人はキスをした。 * 「やれやれ。ここですか」 「この店じゃ、不服か?」 「いいえ。でも、お誘いが社長ですからねぇ」 「お前と小洒落た店になんか行けるか」 「その手の店よりホッとできますよ」 「ここで酒癖の悪い部下に何度絡まれ
理由 1990年3月7日、水曜日。曇天。 神保町、時刻観書店。 仕事で必要な本を探しあぐねた桜井祐平は、近くの若い男性店員に声を掛けた。 「はい。何か?」 「この本、あります?」 祐平、メモ書きを彼に渡した。 「少々お待ち下さい」 彼はすぐ戻ってきた。 「こちらですか?」 「そう」 「良かったです」 「でも、どこに?」 「本探しの達人ですから」 「探すのを手伝ってもらおうかな」 「喜んで」 名札に清水寛人とあった。 「シミズヒロトさん?」 苦笑し、彼は