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おじさんの戸惑い

心に残った本を振り返ると、現在の年齢に縁が深いことが結構多くて驚く。琴線に触れたということは、そういうものがわかる歳になったということか、平均的な年齢相応の精神に達しているということなのか。

昨年(2020年)心に残った本(既刊本)のまとめとして、「おじさんの戸惑い」としよう。


○門/夏目漱石

中年夫婦である。決して境遇が同じというわけではないんだけど、主人公の悩みや戸惑いがとても身近に、私のことのように思った。外見上はおじさんでも、ずっと戸惑って悩んでいるものなのだ。


○美人論 /井上章一

ここにいるおじさんは、しつこく理詰めで迫ってくる。これでもかと資料を突きつけ理詰めで論を積み上げる。批判さえも自論の検証に寄与するという恐ろしい構図。知的で刺激的で読んでいて楽しかった。同年代・田中泰延さんのオススメ本はやはりすごかった。


○春琴抄 /谷崎潤一郎

約30年ぶりに再読。年齢を重ねたからか、言葉から情景や感情が豊かに感じられるようになっていて驚いた。著者47歳、アラフィフでの作。感受性が近しい年代だから?そういうことなのか? この世界観たまらん。


○ポーツマスの旗 (新潮文庫)/吉村昭

出来事を並べたような書き方で、なんと雄弁に歴史を語るのか。久しぶりに心が震えた。昨年読んだ本のベスト。ポーツマス条約の締結に至る歴史小説であり、この時期がその後の日本の転換点でもあったことが読み取れる貴重な記録でもある。講和会議に全権大使として望んだ小村寿太郎、すさまじい集中力、胆力、判断力。当時50歳と知って驚愕。


○言葉ダイエット メール/橋口幸生

この本のおかげで、削ぎ落とす勇気、踏ん切りをつけられるようになってきた気がする。冗長な文章、いらない言葉遣い、、、グサグサ刺さって戸惑った。おじさんほど、冗長に語りすぎるもの。シンプルなおじさんに私はなろう、と思う。


自分以外のおじさんも、戸惑いながら生きている。そういうことを知って、ちょっと安心したのであった。いい本が読めたと思う。

以上、既刊本で強く印象に残った本について。



2020年の新刊本でよかった本は別の記事なり。