見出し画像

すべて忘れてしまっていた

燃え殻さんの文章は、なぜ心に残るのだろうか。

『すべて忘れてしまうから』の読後感である。

違うな、正確には、燃え殻さんの文章を読んで心地よかったことをずっと覚えているのはなぜなのか。内容は忘れてしまっているのに、だ。


酒井若菜さんの書評で、少し謎が解けた気がする。

燃え殻さんは、「人の話を聞かない」「嘘をつく」という。

燃え殻さんのエッセイは、ひとつひとつが短編小説っぽい。

小説とは基本的にフィクション、ウソだ。


これは、田中泰延さんも語っていた。

田中さん:小説は嘘だからね。
燃え殻:だから、それは心の中では本当なの。それは、事実よりも本当なんですよ。

小説はフィクションであるが、それを読んで心が動かされるのは、フィクションの形を取りながら真実を明らかに感じ取るからなのだろうと思う。

たぶん、事実をそのまま書いているのではなく、相当な妄想が入り交じっているのだろう。そして、その妄想が、たぶん心に響くのだ。響くということは、そうあってほしい気持ちを共有しているのだろう。

何言っているかわからなくなってきた。

とにかく、素晴らしい本だということを言いたいのだ。


もう2ヶ月以上前に読んだ。読んでいるあいだの心地よい感覚は覚えている。が、具体的な内容はすべて忘れてしまった。

エッセイだか小説だか分からないけど、こんなに心の琴線に触れてくる文章というのは不思議だなぁと思いながら、それでいてなぜか覚えていない。

『すべて忘れてしまうから』って、そういうことなの? 私だけ?


やさしい嘘は、心地よさだけを残して消えていくものなのかもしれない。

この記事が参加している募集

読書感想文