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こういう本に出会えるからたまらない

決して薄い本ではないが一気に読み通した。「#名刺代わりの小説10選」を更新しなくては。

『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万里著である。

題名からはどんな内容か全く想像つかなかったけれど、最初の数ページでその意味がすぐ分かるようになっている。

「オリガ・モリソヴナ」は重要な登場人物(日本でいう小中学校の先生)で、その人物が「反語」を多用している。いきなり、「オリガ」のどぎつい口調に面食らうのだが、話のテンポが良く、また学校のリアルで生き生きした描写に惹きこまれる。

フィクションではあるけど、スケールの大きな展開、リアルな情景、重層的な構成、物語にこめられた主張を含め、素晴らしかった。


書こうと思ったことが、池澤夏樹(巻末に著者との対談を収録)がすべて語っており(もちろん私のレベルを遙か超えた言葉で)、私はもうやることがないのだが、それでは紹介にならないのである。

池澤夏樹があらすじに触れた部分を引用する。

これは基本的に謎解き物語です。もう若くない女性が自分の子どものころを思い出して、プラハでの学校生活に隠されたある不思議をかつてのクラスメートと解いていく。(中略)しかもその秘密はソ連という実に奇妙な国の歴史と社会構造にそのままつながっている。

海外が主な舞台であるが、著者の実体験や、史実をベース(参考文献がすごい!)に構築されたフィクションであるため、違和感なく世界に入り込める。

不条理な社会に翻弄されながらたくましく生きた女性、なんて書くとあまりに陳腐でもどかしい。フィクションでないと書けない本当の人間性を強く感じた。

そして、いつのまにか自分と自分を取り巻く環境を、物語の中に投影している。


冷戦時代の「ソ連」を知っている50代以上の方は、そのまま物語に入っていけるだろう。そうでない方も、高校までの現代社会のおおまかな知識(ソビエト連邦樹立、スターリンによる粛清政治、ペレストロイカとソ連解体)があれば、楽しめるのではないかと思う。

とにかく素晴らしい小説です。(反語ではない)


、、、よく考えたら「#名刺代わりの小説10選」なんてやったことなかったな。

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