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心のキレイな人のコラム

前田将多氏の『広告業界という無法地帯へ』を読んだ。

爽やかでリアルなひと夏のカウボーイ修行『カウボーイ・サマー』を書いた氏の、最初の著書とのこと。この本を先に読んでいたら『カウボーイ・サマー』の印象は変わったかもしれない。

表紙の肩書きには「元電通コピーライター」、帯には「『電通』の理不尽エピソード満載」と書いてある。どれだけ挑発的なのかと、「社会に噛みついて、もの申す!」タイプの本かと思いきや、そういうものではなかった。

一時、ブラック企業の代名詞のように報道されていた電通だが、本当にブラックなのはクライアントの理不尽な要求だったり、会社組織の構造が要因であったりなど、経験談とともに書かれていることは至極まっとうである。会社組織で働く者にとっては、似たような経験も多々感じられるだろう。

そして、歯に絹着せぬ物言いのようにみえて、少しずついい人がにじみ出てくる。厳しいことを言っているのだが、その眼差しは常に優しい。自分のココロに正直であろうとする、素敵なおじさんの姿がここにある。

「ショータさんは電通でやっていくには、心がキレイすぎますよ」
仕方ないじゃねぇか、オレを育てた親に言ってくれ。

冗談めかして書いているが、著者の本質がここに表れている気がする。

これは心のキレイな人のコラム集だ。

そう思った瞬間、この本は壮大な自己紹介のように思えてきた。だって、読み終える頃には著者の運営するレザーショップが気になってしまうのだ。こんな真っ直ぐで正直なひとのお店には、絶対良いものしか置いていないに違いない。


終章の二つのコラム、「不寛容という見えない敵に」「かっこよかった男たち」にはグッとくる。これが大人だ。かっこいい大人だ。花岡さん(仮名)も、田中さんも大好きだ。


この本は、すべての働く人へのエールでもある。

優しく力強い言葉で、背中を押してくれる。人として生きよう。

このええ加減なコラムニストに、「心のあり方」とか言わせんな。

先輩、と呼びたくなる。私の方がたぶん年上だけど。


前田氏はカントリーがお好みらしいが、読み終えた私はナット・アダレイの「ワーク・ソング」が聴きたくなった。


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