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『家庭の事情』源氏鶏太

昭和も昭和、高度成長ど真ん中の大人気大衆小説家。源氏鶏太の名前は聞いたことがありましたが、実際に読んだのはこれが初めてでした。

私が中学生くらいまでは書店に結構並んでいた気がするのですが、ほとんど絶版になっていたようで、今回手にしたのはちくま文庫の復刻版です。

書かれたのは1961年、川上哲治がジャイアンツの監督に就任して初優勝、大鵬が横綱昇進した年ですから、「巨人、大鵬、卵焼き」の言葉が生まれる前夜といったところでしょうか。前年には「所得倍増計画」が出されています。さすがに生まれる前なので、その空気感は想像するしかありません。

物価など時代を感じるところは確かにありますが、とにかく読みやすくて、難しいことを考えずに楽しめました。ハラハラしたり、ホロリとしたり、胸を撫で下ろしたり。そして最後はみな幸せになる、有川浩並の読後感でした。

勧善懲悪、困ったときに助けが現れますが、「そんな都合よくいくわけない」と思ってはいけません、これはそういう寓話なんです。サザエさんとか水戸黄門のようなものだと思って読んでください。みんな仲よく、困っているときに助けが現れますが、そういうお決まりなんです。結婚が幸せというところも時代ですからね。


この小説の設定ですが、書かれた時代を考えると、恐ろしく先進的だったのではなかったかと思います。父親が退職金を五人の娘と折半する、そしてそのお金の使い方で娘たちがそれぞれ成長していくんですね。この辺りの構成がすごく面白かった。設定に時代が追いついたのかも。

もちろん、急に大金を手にしますので、見るからに危うい行動が出てきます。娯楽小説なので、本当の悪意に泣き寝入りしたり、不幸のまま終わりませんが。きちんと叱ってくれる人がいること、本人も何かしら違和感を感じること、そんな登場人物の心根にある素朴な善意が、読んでいて安心感を与えてくれている気がします。

そういえば、子供が大学に入るときに、今後かかる金額を先に渡して運用させるという話題を読んだことがあります。それなりの資産がないとそんなことはできませんが、そういう経験ができる人は羨ましい。実際に不幸な事態にあったとしても、そこで得られる経験は、かけがえのないものになるだろうと思います。


映画やテレビドラマにもなったようです。いま読んでも楽しいんだもの、書かれた当時はすごい人気だったんだろうなぁ。

そういえば、源氏鶏太の名は母から聞いたのが最初でした。今度帰ったら(帰れるようになったら)報告してみよう。


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