Q&A 風邪症状に対する救急漢方の使い方

Q これは、コロナだったのでしょうか?
 発症の数日前、中国人が多数いるショッピングモールにいた。
 12月24日次男発熱咳、3日で回復。
 12月26日長男発熱解熱繰り返すその後空咳がひどく8日して回復の兆し。初期に麻黄湯2回服用。後半2日間麦門冬湯服用。
 その間、父母(私)も咳に苦しんだ。
 ちなみに次男は2月にインフルエンザにかかり、ビタミンDと味噌汁、レモン水で完全復活。
 家族内感染はゼロでした。


A
 それが新型コロナかどうか、わかりませんけど、可能性は大いにあると思います。私もその頃似たような症状の患者さんを多く診ました。

 そしてインフルエンザが不自然に減りました。

ポッキリインフル

 私は新型コロナ第1波だったと考えています。


 ご質問から、漢方の使い方を取り上げたいと思います。
 漢方の使い方は人によって様々です。
 本場中国と日本のいわゆる和漢でも全然違います。

 だからどれが「正しい」ということではなく、こんなやり方もあるのか、くらいに思っていただければと思います。

 私は救急外来でよく漢方を使います。
 以前は様々試しましたが、今では常時置いてもらっているのは、葛根湯、真武湯、麦門冬湯、半夏厚朴湯です。
 私が漢方を使う一番の理由は、

「何かクスリを出さないと納得しない患者が多いから!」

 です。

 クスリの効果の30%はプラセボ効果と言われますから、出すことに意味があるなら出しましょう、ということです。

 不安を抱えたままが一番良くないので。
 同じ意味で、解熱鎮痛剤やタミフルさえ処方することもあります。
 患者の依存が強く、私自身に元気が無くて、説明で不安を取り除いてあげられない時です。(クスリ出して帰すのは楽なのよ)
「お守りとして出すけど、できれば飲まないでね」(←何じゃそりゃ)
 と言って仕方なく出します。 

 私は漢方であっても、使わなくてすめばそれに越したことはないと思います。
 特に、何ヶ月も使い続ける漢方はその他のクスリ同様、有害と考えます。栄養以外のあらゆる余剰物質は身体にとって負担です。
 元々漢方の原典は『傷寒論』で、いわゆる風邪への対処法なのです。

 麻黄湯について。私は使いません。
 麻黄湯の主成分エフェドリンは、カテコラミンの一種で、血圧や心拍数を上げたり、気管支を広げたりします。(スポーツ界ではドーピング薬に指定されています)
 身体が熱を出すのを助けてくれるので、体力のある人では風邪の治りを早めてくれますが、体力のない人では脱水の原因になります。
 脱水にしてしまっては、解熱鎮痛剤と同じようにグッタリさせたり痰の排出を邪魔して長引かせたりしてしまいます。心外かもしれませんが、長男さんが長引いた(感冒咳症候群)のは、麻黄湯のせいかもしれません。

葛根湯

 私は体力のある人の発熱初期には、主に葛根湯を用います。
 簡単に言うと、麻黄湯の副作用を和らげたものが葛根湯です。
 麻黄湯よりいわゆるキレは劣りますが、私はキレは求めません。
 「体力」とは何かというと、わかりやすいのは筋肉量です。
 筋肉は人体最大の水分塩分の貯蔵庫ですから、筋肉量が多い人は脱水になりにくいのです。

 子どもに用いる時は、特に注意が必要です。
 子どもはたいてい元気いっぱいで、よく言われる漢方の「証」としては「陽実」になることが多いですが、筋肉量が少なく脱水になりやすいからです。
 私はたいてい1日に1包だけを3回に分けて使うように処方し、

「お湯に溶かして、スプーンで一口ずつ与えて、もういらない、となったらそこでやめてください。はじめから苦くて飲めない、いらない、という場合は無理して飲ませないでください。どうしても必要なものではありません。飲まなくてもちゃんと治ります。はるかに大切で必要なのは水と塩、つまり味噌汁です」

 と説明します。
 点滴や検査などで時間がかかる場合は、外来で実際に飲んでもらったりします。
 水分を十分に摂れそうもない人に葛根湯は出しません。

 漢方薬はたいてい美味しくないものですが、不思議なもので、よく効く時は
「それほど不味くない」
「なんかいいかも」
 くらいに感じます。

 葛根湯は、ゾクゾクする熱の出始めに飲むと割といけますが、熱を出しきって汗をかく時期になると、不味くて飲みにくくなります。
 まずい時は、要らない時です。
 自分が飲む時も、子どもに飲ませる時も、よく感じながら、反応を見ながら使いましょう。
 無理に飲んだり飲ませたりするのは吐いたりして危険なだけです。


真武湯

 真武湯は逆に、お年寄りやぽっちゃりした女性など青っ白い貧弱な人(陰虚)の腹痛や下痢、心不全、血圧が高くて不安という人、風邪症状にも用います。

 胃腸の動きをよくしたり、むくみをとったりします。(利尿ではなく利水と言われる)
 より優しいのは五苓散ですが、救急で使うには真武湯が適していると感じます。
 葛根湯・麻黄湯の話と矛盾しますが、胃腸症状というのは早く改善することで脱水が避けられること、真武湯で脱水を起こすことはあまりないことから、真武湯を用いています。


麦門冬湯

 麦門冬湯は、空咳に用います。
 最近流行りの長引く咳(感冒咳症候群、コロナ?クスリのせい?)には最もふさわしいでしょう。
 咳の時、寝る前に飲むと眠りやすくなるでしょう。



半夏厚朴湯

 半夏厚朴湯は、不安感の強い人の胸が詰まる感じ、吐き気、のどの違和感や咳、声嗄れなどに使います。
 0時過ぎに救急外来にいきなり来て眠れないだ何だかんだと言ういわゆる不定愁訴の女性によく使います。
 一般にはホリゾ○やデパ○などのいわゆる安定剤が使われますが、便秘、筋力低下、副交感神経ブロックなどを起こし有害です。
 半夏厚朴湯は添付文書上明らかな副作用がほとんどない唯一と言っていいクスリです。(眠くなると言う人がいますが、夜中に使うには好都合です)

 喉の咳にも効くので、麦門冬湯同様咳で眠れない時にも有効です。


 以上、ざっとですがご紹介しました。
 これは私が知識と経験から自己流でやっていることに過ぎません。
 もっと良い方法があるかもしれませんし、間違っていることもあるかもしれません。
 ただ、これだけでかなりの救急外来の患者に対応でき、それなりに効果を感じています。
 WARS騒動を乗り切るためにも、効果的に使っていただければと思います。

 そしてやはり、2月のご家族のように、ビタミンDなど基本的な心と身体の状態を整えることが何より大切です。(病のメッセージはビタミンD不足でしょう)

 漢方でも他のクスリでも、一番の副作用は、クスリが病を治していると錯覚しやすいことです。クスリが治すんじゃない、病を治すんじゃない、病のメッセージを受け止めることで、あなたが治るんだ、というところが伝わると嬉しいです。

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