ケツの穴の小さい男の話2〜ケツの穴の広げ方〜
(お食事中の方、下ネタにひく方は閲覧をお控えください)
前回、すぐおキレになり出血してしまう私の肛門さまを例に、病のメッセージの受け止め方をお伝えした。👇
辛いものを控える、自転車のサドルをクッション有りにする、筋トレで腹圧をかけすぎない、堅いものはよく噛んで食べる…これらの生活習慣の改善は確かに肛門さまに優しいことは間違いない。
…しかし…ちょっと待て?
今後私はいつも肛門さまに気をつかって生きなくてはならないのか?
いつから私の肛門さまは、こんなにすぐキレるようになってしまったのだろう?
昔はどんなに大きな大きなお便りでも平気で出してくださる寛大なお方だったのに?
辛いものを食べても翌朝お便りを出す時に少し熱くなるくらいで、キレたりなさることはなかったのに?
気をつけて生活すれば出血しなくなったとはいえ、私はこのまま一生…ケツの穴の小さい男のままなのだろうか?
教えてくれたのは一人の患者さんだった。
私はいつも患者さんに教わっている。医者は先生などと呼ばれるが、教えてくれるのはたいてい患者さんの方だ。
その方は高齢の末期癌、便秘が辛くて救急外来を受診した。
麻薬系の鎮痛剤の副作用で、ひどい便秘になるのだ。
浣腸しても出せないので、ナースが摘便(てきべん)する。
摘便とは、文字通り、肛門から指を入れて便を摘出する処置である。
実は摘便は医療処置の中でも特に技とセンスが問われる手技で、上手な人は『ゴールドフィンガー』の称号を与えられたりする。
かく言う私も若い頃はよく自分で患者さんのお便りをほじくり出したものだ。(いつからかナースがやってくれるようになった)
便秘は軽く考えられがちだが、最終的には腸が破裂したり壊死したりして命を落とす致命的な重病である。
便秘によってすでに腸閉塞から腹膜炎を起こして腹水が溜まっている患者さんから大量のお便りをかき出したこともある。
多くの医者はその画像と検査データを見たらすぐ開腹手術を選択するだろう。しかしその若い女性は私のゴールドフィンガーでほじくって、開腹手術をせずに治癒した。(よかった〜)手術になれば、大きな創ができ、大量の腸を切り取られ、人工肛門になることもある。(若い女性をそんな目に合わせたくなかったのだ)
腹を切り腸を切ることをせずに命を救けられる摘便は、実はとてもすごい技術なのだ。(映画やドラマにはならないけど)
話を戻すと、その末期癌の患者さんはナースの摘便に対し、まだ肛門さまに指を入れられかけた時点から大声を上げて痛がった。
そして大声を上げながらナースに一通りお便りをかき出してもらった後、半ば放心状態で
「ああひどい目にあった」
と言った。
読者の皆さんは、人さまの肛門さまに指を入れたことがあるだろうか?(普通ないか)
正常な肛門さまには、手袋をつけてゼリーを塗った指はスルッと入る。爪が伸びていたり乱暴にされたりしなければ、全く痛くなどない。
それがまだ指が入る前から痛がるというのは、よほどこの患者さんの肛門さまはケツの穴が小さくなっているということだった。
あまりに痛がる患者さんを見ていて、ハッと気づいた。
もしかしてだけど、もしかしてだけど、私の肛門さまもマジで小さくなっちゃってるんじゃないの〜!?
帰宅して、風呂場で恐る恐る自分の肛門さまに直腸診してみる。自分のにするのは初めてだった。
自宅に麻酔薬入りゼリーはないから、せっけん水だ。
やはり、指がすんなり入らない!そして痛い!
これでハッキリした!
私は本当に、文字通り『ケツの穴の小さい男』になってしまっていたのだ!
思えば、肛門さまが出血するようになった少し前からお便りを出すのに力みが必要なことを感じていた。痛みを感じることも多々あった。(ナッツをバリバリ噛んで食べた時に限らず)
便秘の原因は以前👇『うんこの方程式』でご紹介したようなお便りの側の問題の場合だけでなく、出す体の側の問題であることもある。
たまたまかな〜、緊張してるのかな〜、くらいに軽く考えていたのだが、指を入れてみるともう否定のしようがなかった。
私のケツの穴は思っていた以上に小さくなっていたのだ。
このままではいけない。
痛いのを我慢して、少しずつ指を入れていく。
「力を抜いて〜。ハーッと息を吐いてくださ〜い」
緊張して肛門さまを閉めてしまう患者さんに言うセリフを自分に言う。
だんだん指が奥へ入った。指の根本まで入れ、届く範囲に腫瘍などの病変が触れないことを確認する。
そして指を360度何度か動かして、肛門さまをマッサージするように少しずつ押し広げると、じきに肛門さまは柔らかくなり、痛みも不思議なほどなくなったのだった。
肛門さまの大部分は肛門括約筋(こうもんかつやくきん)という筋肉である。
肛門括約筋とは、肛門を閉める筋肉。
肛門括約筋があるからこそ、私たちはしかるべき時にしかるべき場所でだけ大きなお便りを投函することができる。
しかるべからざる時にはお便りのみならずお香りも我慢することができるのも、ひとえにこの肛門さまのご括約のおかげである。
ケツの穴が小さくなっている状態とは、この肛門括約筋がキツくしまったままゆるまなくなってしまった状態のことだ。
つまりケツの穴が小さいのは、肛門さまが大活躍しすぎてしまっているのだ。
本当は自分は戦わず「助さん角さん、そのくらいでいいでしょう」と言うだけでいい役なのに、なぜか肛門さま自ら悪代官を杖でボコボコにしようとするイメージだ。か弱い肛門さまは、そんなことをしたら自分が傷んでしまうのだ。
閉めすぎているなら、自分で力を抜いてゆるめればいいんじゃ?
そう簡単にはいかない。
あなたは今、肛門さまを閉めている自覚があるだろうか?
勉強している時も、弁当を食べている時も、便所に入ってパンツを下ろして座る直前まで、意識して肛門さまを閉めているだろうか?
そんな意識をしている人はいないはずだ。それでも偉大なる肛門さまはよっぽどのことがなければ、TPOを間違えてお便りを出してしまわれることはない。(タイミングを間違えて余計なことを言ってしまう上の口よりよほど賢い)
肛門括約筋は、おおざっぱに言うと内側と外側の二重構造になっている。
実はこの内側の内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)は不随意筋(ふずいいきん)と言って、意識的にコントロールできない。支配しているのは自律神経だ。胃腸の動きや心臓の拍動が無意識に変化するのと一緒だ。
だから「あれ、さっき心臓動かすの忘れてた」ということがないように、「あれ、さっき肛門閉めるの忘れてた」ということも基本的にはないのだ。(下痢の時とか、例外はある)
内肛門括約筋は意識しなくても閉め忘れることはない代わりに、意識的にゆるめることもできない。
そして自律神経のリズムが狂ってしまうと、ゆるめることを忘れてしまうこともある。
基本的には直腸にお便りが溜まったのを自律神経が感知してゆるんでくれるはずなのだが、お便りが溜まりっぱなしだといつもいっぱいのメールボックスに1つ新しいメールが来ても気づかないことがあるように、開くのを忘れてしまうのだ。
(麻薬を使っている患者さんがとても痛がったのは、麻薬がリラックスする自律神経・副交感神経をブロックしてしまうからでもある)
外側の外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)は意識でコントロールできる随意筋(ずいいきん)で、意識的にしめることができる。主にお便りやそのお香りを我慢する時にだけ括約する。
ところが実はこれも、必ずしも自由にゆるめられるとは限らない。
みなさんは、手を意識的にグーパーできるだろうか?当たり前?
では、手で何かをできるだけ強く数分間握りしめた後はどうだろう?
かなり開くのがぎこちなくなるはずだ。
筋肉は、凝る。
収縮し続ければし続けるほど、凝る。
そして歳を取るほどゆるみにくく、凝りやすくなる。(子どもは基本的にやわらかい)
肩も、腰も、心臓も、そして肛門さまも。
ここで重要なことは、いったん凝り固まってしまった筋肉が自分でゆるむことはほぼ不可能と言うことだ。
自らゆるむことができるなら、凝っているとは言わない。
過剰に収縮して固まった筋肉がゆるむには、外から力を加えてほぐしてもらわなくてはならないのだ。
肩や腰や腕や脚の筋肉なら、マッサージやストレッチが有効だ。
本来、多くの筋肉は反対の動きをつくる拮抗筋があり、例えば腕を曲げる上腕二頭筋(力こぶ)が収縮する時、腕を伸ばす上腕三頭筋(おふりそで)は引き延ばされ、ゆるむようにできている。
効果的でリズミカルな体の使い方ができていれば、拮抗筋同士がお互いを伸ばすことで、マッサージやストレッチを受けなくとも、体はあまり凝らないはずだ。
ところが、肛門さまには閉める括約筋はあるが、広げる筋肉は存在しない。広げてくれるのは大きなお便りだけだが、凝り固まった肛門さまは傷ついてしまうことも多い。
イボ痔・キレ痔・痔瘻etc…様々な肛門さまの病は、肛門さまが凝り固まってしまったことによって起こる。(直腸癌などにもつながる)
前回ご紹介したような生活の改善で肛門さまにダメージを与えないことはもちろん重要なのだが、凝り固まった肛門さまをゆるめるためには、それだけでは足りないのである。
肛門さまのゆるめ方
①風呂に入る
肛門さまの内側の括約筋は、自律神経に支配されている。肛門さまをゆるめるには自律神経のうちリラックス側の副交感神経を優位にしなくてはならない。冷えていては体は強張る。肛門さまを含め、体を温めることが大切だ。
入浴はその最も効果的な方法である。シャワー浴ではその効果は弱い。毎日、肛門さまを含め、ゆっくり湯船につかることで自律神経にリズムをつくることができる。
②深呼吸する
いつも緊張していて、自律神経が交感神経優位にばかりかたよっていると、肛門さまは凝り固まりやすくなる。よく自律神経バランスと言われるが、自律神経は1点でバランスをとっているのではなく、リラックスと緊張の間を揺れ動いている。緊張しっぱなしでは凝り固まるし、リラックスしっぱなしでは動けない。そのリズムが大切だ。
自律神経のリズムを整えるために有効なのが、深呼吸だ。できるだけゆっくり、深く、気持ちよく呼吸する。
深呼吸とともにお腹が動くことで、腸も動き、ストレッチされる。
体の動きもつけて、ヨガなどを行うのもとてもいい。
そして深呼吸できないような過剰な緊張を長く強いられる生活環境を改めることも大切だ。(結婚相手は目の前でおならをできる人にしよう)
③肛門さまストレッチ
さて、これが今回の目玉である。
私がやったように、肛門さまを指でゆるめてさしあげる方法だ。最初は身も心も抵抗があるのはよ〜くわかる。しかし効果は絶大。すっきりさっぱり。便秘は万病のもと。肛門さまストレッチは便秘や痔だけでなく、大腸癌や憩室炎など多くの病を減らしてくれることが期待できる。
鼻うがい同様、精神的なハードルを超えてしまえば、やり方は簡単だ。
手順0. できればお便りを出して直腸を空にしておく
出ない時は仕方ないが、なるべくお便りを触りたくない場合は先にお便りを出して直腸を空にしておくと指があまり汚れない。
手順1. 爪を切る。
肛門さまを傷つけないために、これは最低限のマナーだ。外科医の基本ではあるが、一般の方にもお勧めしたい。一説には女性は男性が爪を切っているかどうかでその日デートしてもいいかどうか決めているという話もある。ネイルアートなどに凝っている人もおありと思うが、肛門さまのために指1本くらい短く切ってもかえってかわいいのではないだろうか。
手順2. 油脂やせっけん水を指と肛門さまに塗る。
抵抗がある人はゴム手袋をしてもよい(初めはした方がやりやすい。指がゴツい人・皮膚が硬い人は常にした方がよい)。固い手袋は肛門さまを傷つけかねない。
せっけん水や馬油などをまずよく洗った指に塗ってヌルヌルにし、肛門さまに塗って表面を軽くマッサージする。
(追記:せっけん水はしみるという人も。ワセリンが良いという人もいるが、個人的には粘性が強すぎて(気温にもよるが)好みではない。個人的にはやや入手しにくいが馬油が一番気持ちいい)
いきなり突っ込んだりしてはいけない。
手順3. 指を選んで少しずつ入れる。
どの指を入れるかの選択は重要だ。
後で述べるように広げすぎてもいけないからだ。
相撲取りのように太い指の人は小指からにした方がよい。逆に指が細い人は小指では細過ぎて非力すぎて役不足だ。
また素手で行う場合は特に、爪周りにささくれや傷のある指は避ける。菌が入って指が化膿する場合がある。手袋をしていても、手袋は破れることがあるので傷ついた指は避けた方が無難である。
イボのある指もやめておこう。肛門さまを傷つけるかもしれないし、イボには肛門癌の原因になるヒトパピローマウイルス(HPV:ドクチンはいらないよ)がいることがある。(どうしてもイボがある指を使いたいなら必ず手袋をしよう)
少しずつ入れていくと、肛門さまが凝り固まった人ほど痛みを感じる。凝ってない肛門さまなら痛くない。筋肉が凝り固まっているだけでなく、表面もイボ痔やキレ痔や痔にできた血栓ででっぱったり傷付いたりしていることもある。
そういった肛門さまの内面の傷を慰るようにやさしくやさしくそっとほぐすように入れていく。
手順4. 洗うように揉み解すように軽く指を回して肛門さまをゆるめる。
指が肛門さまを超えて直腸(指先が広い空間に出る)に入ったら、軽く指を回して肛門さまを少し押し広げる。医者の直腸診はできるだけ奥まで指を入れて直腸の病変を探るが、そこまでする必要はない。あくまで肛門さまをゆるめることが目的だ。
理想の肛門さまは、指1本(平均的な人の人差し指の太さ)がスムースに入る程度だ。
決して強く広げすぎてはいけない。ケツの穴の小さい男ではなくなっても、しまりのない男になってしまっては生活に支障をきたす。
「広げる」と書いたがあくまで軽くであって、基本的にはゆるめるだけのイメージである。
肛門さまストレッチは、肛門さまマッサージでもあり、肛門さま洗浄でもある。
上の口は1日に数回歯磨きするだろう。肛門さまも入浴時に時々は中まで洗ってあげよう。
手順5. 肛門様と手指をよく洗い流す
多少お便りが指につくこともつかないこともあるが、いずれにしてもよく洗い流し、肛門様についたせっけんや馬油もよく洗い流す。
肛門さまストレッチの注意点
・傷つけない!
乱暴に(外科医用語ではゲバルティッヒに)やって肛門さまを傷つけるのは言語道断である。大切な女性を扱うように、あくまでも優しく、ジェントルにする。
・広げすぎない!
広げすぎると肛門括約筋が断裂し、閉まらなくなることがある。あくまで指1本が楽に入ればいいのである。
・指以外の物を入れない!
世の中にはいろんな人がいて、たまに肛門さまにビール瓶やら何やらを入れて抜けなくなって救急車を呼ぶ人もいる。(緊急手術になることも)
肛門さまストレッチは慣れてくると気持ちいいが、あくまで肛門さまのケアであって、性的興奮が目的ではない。
以上、肛門さまをゆるめる3つの方法を実践することによって、私は心はともかく少なくとも体はケツの穴の小さい男を卒業することができた。
それからは大きな大きなお便りもスムーズに出るし、多少辛いものを食べてもレースに出ても、出血することはなくなった。
思えば、はじめは自転車をクッションなしの硬いサドルにしたことがきっかけだった。衝撃に耐えるために凝り固まってしまった我が肛門さまは、とても余裕のないデリケートな状態になってしまったのだ。それでことあるごとにおキレあそばされたのだろう。
あらゆる病が治癒するためには、病の原因となった生活習慣を改めることは必須である。
酒を飲みながらアルコール性肝障害が治ることはない。
ただし、生活習慣を改めるだけで、いったんできてしまった病が治癒してくれるとは限らない。時とともに治る場合もあるが、外からの力、あるいは誰かの助けが必要なことも多い。
肛門さまに限らず、全身の筋肉をほぐしてくれるマッサージ師やトレーナー、考え方を変えてくれる友人や師や書物、心を解きほぐしてくれる誰か。
前回、病を治すのではなく、自分が治るのだという話をした。しかし自分が治ることは、実は自分一人だけでは難しい。
人は自分を変えられるのか?人は自分で変われるのか?
凝り固まった肛門さまのように、凝り固まった人もまた、自分自身でゆるむことは難しい。
例えば自分の顔についたご飯粒を取れるか?取れるかもしれないが、ご飯粒がついていると気づくためには、鏡か、指摘してくれる誰かが必要だ。
あなたは治る。ただしそれには、誰かの助けが必要かもしれない。
肛門さまをほぐした指のように、あなたをゆるめてくれる誰かを探そう。あなたというケツの穴を広げてくれる誰かを。(※比喩です。実際にあなたの肛門さまに指を入れてもらう必要はありません)
そしてあなたも、できれば誰かをゆるめて広げてあげよう。(※比喩です。実際に誰かの肛門さまに指を入れる必要はありません)
今、世の中はとてもケツの穴が小さくなっている。お互いを監視し、息苦しいだけの決まり事が生きることそのものよりも優先された社会は、凝り固まった病んだ社会だ。ケツの穴の小さい社会だ。
そんな社会を一人で治すことはできない。社会が自ら治ってくれることもない。
お互いの助け合い・ゆるめ合いが、一人一人が治るために、ひいては社会のケツの穴を広げるために必要なのである。
(追記)偉そうに長々書きましたが、後にお尻については私は素人同然であったことを思い知るのでした👇ぜひこちらもお聴きください。
タイトルの写真は👇から
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?