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スペイン風邪と新型コロナウイルス感染症におけるビタミンDと死亡率の関係


 ビタミンD欠乏は感染症に際しサイトカインストームの原因となり、重症化や死亡の原因になりやすいことがわかっている。
(それは2回目の感染に限らず1回目でも起こる。年末年始のインフルエンザ陰性の呼吸器感染症においても急激に悪化する肺炎を合併した例を複数経験した)
 人々のビタミンDの状態が1918年のスペイン風邪および2020年現在の新型コロナウイルス感染症にどのような影響を与えたか検討する。

 1918年のスペイン風邪について、その患者死亡率(患者の何割が亡くなったか)とその地域の7月のUVB日照量には有意な逆相関が見られることが報告されている。(参考1)

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 UVB日照量とは、ビタミンDをつくるために必要なβ紫外線の強さだ。

 1918年〜1919年のアメリカ合衆国において、UVB日照量の最も少ないコネチカット州のニューロンドンでのスペイン風邪の患者死亡率は、最もUVB日照量の多いテキサス州サンアントニオの4倍以上になっている。肺炎合併率も約2倍だ。
 UVB日照量はサンアントニオでニューロンドンの約2倍になっている。

 その他の都市でも、UVBが強い国ほど死亡率、肺炎合併率が低い傾向が見られた。

 日焼け止めクリームやサプリメントが普及した現代以上に、1918年当時は地域のUVB日照量は人々のビタミンD貯蓄量に決定的な影響を与えたと考えられる。

 中でも7月はUVBが強く、人々は夏に作り貯めたビタミンDを切り崩すように使いながら冬を越す。

 夏の紫外線量がスペイン風邪の死亡率に大きく影響したことは、ビタミンD貯蓄量が呼吸器感染症の患者死亡率に重要な影響を与えることを示唆する。

 次に、今年の新型コロナウイルスについて見てみよう。
 (参考2)によると、現在まで、国ごとの死亡率(人口100万人当たりの死亡率)が統計的に成立する検査を実施したのはまだ3カ国だそうである。

ドイツ  死者 1,400人(人口100万人に対し 17人) 高齢者ビタミンD男41.3 女45.1(参考3)

イタリア 死者15,000人(人口100万人に対し 254人) 高齢者ビタミンD男女平均37.9(参考4)

韓国   死者  177人(人口100万人に対し 3人) 高齢者ビタミンD男44.5女43(参考5)

 nが3つに過ぎないが、高齢者のビタミンD血中濃度が高いドイツ・韓国では死亡率が低く、ビタミンD血中濃度の低いイタリアでは死亡率が低い。
 中でも韓国は、50-64才と65才以上の高齢世代でビタミンD血中濃度が若年者を上回っている。(参考5Figure4)
(一般に紫外線を浴びることによりビタミンDを合成する能力は加齢と共に低下するはずだが、これは高齢者が外に出るためか、日焼け止めクリームを使わないためか、サプリメントを摂っているためかわからない。)

 高齢者で重症化しやすい新型コロナウイルス感染症で、韓国の高齢者の豊富なビタミンDは死亡率を低く保てている要因である可能性がある。

 一方、イタリアは元々高齢者の平均ビタミンDが低い。
 さらに昨年、
5月30日にイタリア半島南西に位置するシチリア島のエトナ火山(参考6
7月4日と20日にイタリア半島とシチリア島の間にあるストロンボリ島が噴火した。(参考7)

 噴火は成層圏にとどまった火山灰が雲をできやすくし、UVB日照量を大きく減らした可能性がある。(火山の冬)(参考8

 それは元々低かったイタリアの高齢者のビタミンDをさらに低下させることにつながったと推測される。

 イタリアではサプリメントの使用率は男性7.8%女性12.4%と低く、日照低下はビタミンD欠乏に直結しやすい。

 一方ドイツでは男性22.0%、女性26.9%がサプリメントを使用している。(参考4Table15)

 統計学的に成立する検査数には達していないが、他の国も見てみよう。(緯度・気候は最大都市)

ノルウェー 死者62人(人口100万人に対し 11人) 北緯59° 亜寒帯

オーストリア死者186人(人口100万人に対し 11人) 北緯48° 西岸海洋性気候・湿潤大陸気候

スイス    死者666人(人口100万人に対し 77人) 北緯46°西岸海洋性気候・湿潤大陸気候

イスラエル 死者45人(人口100万人に対し 5人) 北緯32° 地中海性気候

UAE     死者10人(人口100万人に対し 1人) 北緯25°砂漠気候

香港      死者4人(人口100万人に対し 0.5人) 北緯22° 温帯夏雨気候(サバナ気候-温暖湿潤気候移行部)

オーストラリア 死者34人(人口100万人に対し 1人) 南緯33° 温暖湿潤気候

 大まかに見て、日照の少ない高緯度の国で死亡率が高く、日照の多い低緯度の国では死亡率が低い傾向があることがわかる。

 ただし、ノルウェーはサプリメントが普及しており(女性61.7%)、また南半球のオーストラリアは夏が終わったところで現在のビタミンD血中濃度は高いと考えられる。
 ノルウェーやオーストラリアで死亡率が低いことは、緯度の影響が気温や湿度ではなくビタミンD貯蓄量の違いによることを示唆する。

 以上から、新型コロナウイルスにおいても、ビタミンD血中濃度及びUVB日照量が国の死亡率に大きな影響を与えていることが推察される。

 では日本はどうか?
 元々日本人は80%以上がビタミンD不足であることが指摘されている。(参考9

 昨年日本は記録的な長梅雨で、7月後半まで日照が少ない地域が多かった。
 8月に入ると今度は猛暑で屋外の活動が困難となった。
 結果、日照を浴びる量は少なくビタミンD貯蓄量が少ない人が多かったことが懸念される。
 貯蓄量が少なかった人のビタミンDは今、欠乏状態にある可能性が高い。

 そうした人では新型コロナウイルスが重症化しやすい恐れがある。
 特に医師やナースなどの医療従事者は夜勤や長時間労働によりビタミンD欠乏になりやすく、院内感染が起こりやすく重症化しやすい一因となっている可能性がある。
 サプリメントでのビタミンDの十分な補充により、重症化・死亡を回避できる人も多いと考えられ、摂取を強く推奨する。

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