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【パレスチナ現地報告】入植者「丘の上の若者」の暴力  入植者が行うポグロム(集団的迫害)を利用し、パレスチナの土地を奪うイスラエル政府

 「丘の上の若者」とは、パレスチナの丘の上にテントを張って陣取る、違法入植のイスラエル人のことをいう。彼らはパレスチナ人を襲撃する。その暴力に耐えかね、この夏、カブーン集落の人々が土地を去った。ユダヤ人入植者(※注①)に襲撃・追放され、土地を追いやられた集落は今年5件目になる。イスラエル当局は、C地区(※注②)に住むパレスチナ人に建設許可を与えず、水道も電気も通させない。道も舗装させない。無許可でつくると破壊する。そこに入植者の暴力が加わる。
 パレスチナ人は生きるすべも気力も失い、土地を去る。「ユダヤ人保護」を名目に、軍、警察は入植者の暴力を見て見ぬふりをする。そのうえ、入植地建設に資金を出すのが、イスラエル政府の入植政策である。これに反対する平和活動家たちが、交代でベドウィンのテントに泊まり込んでいる。活動に、私も参加しているので、見聞きしたことを伝えたい。

(イスラエル在住 ガリコ美恵子)

被害者なのに逮捕

エイン・ラシャーシ集落

 6月24日朝、入植者集団が、エイン・ラシャーシ・ベドウィン集落を襲った。エイン・ラシャーシのベドウィンは、ジャハリーン族の末裔である。
 入植者は催涙ガスを吹きつけ、集落に住む90歳の老人を棒で殴った。老人は腕と背中を打撲し、頭部を縫う重傷を負った。
 さらに入植者たちによってソーラーパネルや窓ガラスは割られ、水タンク、仮設トイレは破壊され、テントに火がつけられた。
 これを止めようとした集落の若者3人は、イスラエル警察に逮捕され、1週間の身柄拘束の後、約38万円の罰金を条件に釈放された。釈放された若者はこう語る。「最初の2日は飯も与えられず、殴られた。僕たちは被害者なのに!」

ヨルダン渓谷のベドウィン遊牧民。以前は山頂まで放牧したが、入植者に襲われ、ケガすることが頻繁にあるため、今は行けない。そのため、餌が足りない。山頂の小さな点は、入植者が立てたテント。
エイン・ラシャーシ・ベドウィン集落の子供たち

カブーン集落

 入植者は「活動家を連れてきたら、もっと酷い目に遭わす」と集落民を脅していた。実際、昼も夜もない襲撃で気の落ち着く日はなかったという。
 8月初旬、「荷物をまとめて別地へ移動するので、来てくれ」と依頼があった。荷造りのときに襲われることを恐れてのことだ。私は、夜遅くまで見守りを続けていたが、残りは翌日にまわすことになり、テントで横になった。
 翌朝、集落の長老が「もうここに戻ることはない」と言って、トラックに積みきれない荷物を燃やした。彼の息子は、300頭の羊とヤギを連れ、徒歩で山を越えて行った。
 カブーン集落は、ラマッラー(エルサレムの北10㎞にあるヨルダン川西岸のパレスチナ人の都市)東部にあった。26人の子供を含む計86人=12家族はすでに去り、私が行った時は、最後の家族が荷造りをしていた。先祖はイスラエル建国以前、ネゲブ砂漠に暮らしていたが、イスラエル政府に追放され、ヨルダン渓谷とラマッラーの間にある山岳地帯に避難した。
 1996年、そこがイスラエル軍演習地区に指定され、カブーンに移動した。しかし今年2月、入植者が羊、ヤギ、牛を飼育する仮設施設を近くに建て、頻繁に襲撃してくるようになった。入植者は自分たちの家畜を集落まで連れてきて放牧し、ベドウィンの家畜を追いやる。
 ベドウィンは放牧場を失い、餌を買わねばならなくなった。餌代が払えず家畜を売った者も多い。襲撃の度に水タンクに穴を開けられ、ソーラーパネルや冷蔵庫も壊された。

バカア集落

バカア・ベドウィン集落で一晩を過ごした時、ある若者がこう言った。「3カ月前、入植者が近くにテントを張った。羊やヤギが盗まれないか心配している。僕は仕事を辞めて、家と家畜を守ることにした」
 確かに100㍍程先にテントがある。夜、ベドウィン小屋で横になると、強烈な光が私の顔を照らした。入植者テントからの光だ。光が足音と共に近づいてきた。仲間を起こすと、私の声が相手に聞こえたのか、足音は後退した。これが一晩中続き、一睡もできなかった。バカア集落も、この夏、土地を去った。

ラマッラー北部ウム・サファ村を襲撃する入植者 (右側の帽子をかぶった人物)

 殺人犯エリシャの証言

8月4日、ラマッラー郊外にあるブルカ村が襲撃され、ケガ人を助けようとした村の若者が射殺された。警察は、入植者2人を身柄拘束した。
 ケガを負った入植者の一人は、病院で治療を受けつつ警察の監視下におかれたが、無傷の入植者・エリシャは、数日間の拘束後、釈放された。裁判でのエリシャの証言は、殺人を認めるものであり、意図も明確だ。紹介する。
 「俺たち《丘の上の若者》は、兵役中にできないことをやりとげている。広大な土地をユダヤ人の手中におさめているのだから。ブルカ村でパレスチナ人を撃ったのは、仲間の身が危ないと感じたからだ」
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注①…入植者とは、パレスチナに住むイスラエル人を指す。非占領地に占領国民が住むことは、国際法違反である。
注②…C地区は、行政権及び治安権がイスラエル政府にあり、パレスチナ領地内であるのにパレスチナ自治政府が関与できない地区。ヨルダン川西岸地区の面積の6割を超える。
 以下、イスラエル人権団体「ケーレン・ネボート」による報告を紹介する。
①今年イスラエルは、5つの集落民を追放した。理由は、入植者による暴力だ。イスラエル軍、警察、民政は入植者の暴力を擁護している。
②暴力は、付近に住む違法入植地の住民によってなされた。パレスチナ人は放牧する場所を失い、追放された。
③追放されたのは、ラス・ア・ティン集落、エイン・サミア集落、バカア集落、ワダディ集落、カブーン集落である。ワダディ集落は南ヘブロンに位置する。それ以外は、ラマッラー東部から北東部に位置するベドウィン集落だ。カブーン集落はラマッラー郊外のクファル・マ―リック村の北東部にあった。過去数年、この地域は、コハブ・ハシャハルやシロの入植者の激しい暴力に遭ってきた。
④カブーン集落民はカーブネ族の末裔である。先祖はネゲブ砂漠に暮らしていたが、イスラエル建国でヨルダン川西岸地区に追放された。
⑤カブーン集落民は、20年以上暮らしていた。家屋は、クファル・マ―リック村の私有地に建てられたが、ヨルダン統治時代に「ヨルダン国の土地」とされた土地に建てられた家屋もある。「ヨルダン国の土地」は、67年イスラエル占領が開始されると、イスラエルのビニヤミン地域協議会に所有権が移された。
⑥カブーン集落は、数か月前にファイアー・ゾーン906にできた違法入植者に襲撃された。ファイアーゾーンとは、軍閉鎖地区なので、イスラエル人の立ち入りも禁止されている。この違法入植地は、2015年にできたマラヘイ・ハシャロム入植地の飛び地としてできたもので、以前は、軍基地だった。
⑦マラヘイ・ハシャロム入植地は、元々違法入植地だったが、今年2月イスラエル政府により、認定された(筆者注・認定されると、政府から運営資金が出る)。
⑧マラヘイ・ハシャロム入植地から飛び地した違法入植地の入植者は、90年代後半にできたアデイ・アド違法入植地の住民だ。そこから約3㌔離れたシロ入植地の住民も暴力的だ。暴力に飢えた者が各地から集まり、パレスチナ人集落を襲っている。
⑨ファイアーゾーン906にできた新しい違法入植地は、約88㌔平米を一気に占拠した。20年間、軍演習は行われておらず、土地没収の標的になった。
⑩入植者の暴力は、イスラエル軍、警察、民政、地域評議会、入植省、水道局によって擁護されている。


★7月20日号でレポートしたスブ・ラバン家の追放について。
イスラエル当局は一家の追放の費用約130万円をスブ・ラバン家に請求。
彼らは家を失ったと同時に、借金を抱えることになった。

(人民新聞2023年9月20日号掲載)

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