見出し画像

新型コロナ災禍/リーマンショックと大震災  同時到来並の衝撃/人命より五輪を優先した政府(阪南大学准教授 下地真樹)

 新型コロナウイルスの感染が急速に広がっている。この原稿を書いているのは4月5日だが、状況が時々刻々と悪化している。この原稿が公表される頃にどうなっているか、予断を許さない状況が続く。


 この危機について「リーマン・ショックと(原発事故を併発した)東日本大震災が同時に来たような衝撃」という評もあるが、全く誇張ではないと私も思う。3月末からは、遂に東京と大阪の感染者の急増が報じられ始めたが、もっと酷いことになるだろう。


 今回の危機が深刻なのは、経済危機と医療危機の板挟みに陥っているということだ。経済活動の基本は、人々が行き交うことそのものである。だから、人々の移動・行動の制限は直接経済危機につながる。


 しかし、感染爆発を止めなければ、医療機関の受入能力を超えた患者の発生につながり、医療が崩壊する。その両方に対処しなければならない。


 だが、日本政府は自発的な行動自粛を呼びかけるという中途半端な対応に終始している。行動自粛を呼びかけるならば、経済的支援が不可欠だ。そうでなければ、病気より先に貧困で死ぬからだ。緊急に必要なのは、家賃や光熱費など人々の生活の経済基盤そのものを維持する費用の負担であるが、政府与党の検討会議は「クーポン券」を提案した。何をどうしたらそんな発想になるのか。


 また、医療崩壊を防ぐためには、医療資源そのものの拡充が必要だ。中国でもイギリスでも、突貫工事で病院を建設した話がニュースとして流れてきている。しかし、日本ではこれに相当する取り組みは、まだない。病床不足に対応するためにホテルの借り上げの話が出てきたのが、ようやく4月になってからだ。あまりに遅い。


 深刻なことに、このウイルスは夏になっても大人しくならないとの見通しが示されている。ある研究報告では、今回の新型ウイルスは高温多湿状況でも活発に活動する。ウイルスに対する集団免疫が獲得されるまでの間、繰り返し対策を打ち出す必要もでてくる。かなり長期の戦いを想定しなければならない。

強権行使の責任市民に転嫁

 では、この問題が始まった年初からの2カ月余り、政府は何をしていたのか。
 この深刻な危機に際して、政府が最優先事項としたのが「東京オリンピックの開催」だった。彼らは当初、予定どおりの今年7月の開催を堅持し続けていたのである。さらに、感染が全世界に拡大してそれが叶わぬとなるや、今度は「中止の回避」に全力をあげた。この間、人々の生命と生活を守る対応は、二の次三の次にされ続けた。


 また、政府だけでなく、延期決定までのコロナ関連報道の少なくとも半分が「オリンピックはどうなるのか」の話で埋め尽くされていたことも、記憶に留めておきたい。イタリアやスペインでは医療崩壊の深刻な状況が既に生じていたが、そうした深刻な状況が、日本でも現実的な問題となることを報道しはじめたのは、オリンピックの1年延期が決まった後だ。


 もう一つ、人々の行動や移動に対する制限について述べておきたい。安倍首相が国会答弁の中で「日本では自粛を要請することしかできない」「フランスのようなロックダウンは日本では法的にできない」などと述べていたが、適切な補償と併せて立法措置を取ればいいだけの話で、十分可能なことである。


 もちろん、多くの人が今の日本政府に人々の行動制限に関する強力な権限を与えることに躊躇するだろう(私だって躊躇する)。しかし、論点はそこではないと私は思う。


 感染症対策において、一部私権の制限を含む強い措置が必要なことは、むしろ自明だ。そもそも、先に紹介した安倍答弁は「強権行使に対する慎重な態度」ではあるまい。では、ここで安倍が忌避しているのは何か。強権行使やその結果について責任を取ることだ。強権行使を(ポーズとして)拒絶しつつ、しかし、社会の要請によって行使するなら、それは自分ではなく市民の責任だと考えているのではないか。


 現時点では、近い将来については暗い予感しかない。9年前の原発震災の発生直後と同じように、先の見通せない息苦しさの中に日々を暮らしている。状況は1、2週間で劇的に変化する。この原稿が発表される頃、世界はどんな顔をしているのだろうか? 考えるだに恐ろしい。

【お願い】人民新聞は広告に頼らず新聞を運営しています。ですから、みなさまからのサポートが欠かせません。よりよい紙面づくりのために、100円からご協力お願いします。