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【IR公聴会】周辺環境無視の大阪市に市民から反対の声続出

編集部 かわすみかずみ

  1月6日、大阪市住之江区の咲洲ATCビルで、IR(統合型リゾート)の環境アセスメントに関する公聴会が行われ、IR反対派の市民らが注視する内容が明確に示された。その様子を報告する。
  14時頃、会場に高齢の女性が現れた。ATCビルは最寄り駅であるトレードセンター前駅から、ショッピング街を抜けて、さらに歩かねばならない。女性は「こんな正月のときに公聴会を開くなんて、意地が悪いですよね」と大阪市の姿勢を批判した。
  14時半からの開場後、パラパラと傍聴者が現れはじめ、15時の開始前には60人近くになった。傍聴者の多くは、カジノの建設差し止めを訴えた「夢洲訴訟」の原告や、カジノに反対する市民運動の参加者など、IRに強い関心を寄せる人々だった。市は、昨年12月8日から21日の間で公述人を募集。希望者は12人で、当日は全員が公述を行った。
  この公聴会は、IR事業者が提出した環境アセスメント評価の報告について、意見を述べる目的で開かれた。冒頭で大阪市は「皆様のご意見を聞くために開いた」と説明した。だが、傍聴者が市の説明に拍手することはなかった。
  公述人は全員が「カジノ反対」の立場から公述した。8番目の公述人の女性は、19年から3年間、夢洲の生物や植物の実地調査を行った。女性らは20年のゴールデンウィーク期間に1千羽以上のコアジサシが夢洲に飛来し、産卵していたことを確認した。コアジサシはチドリ目カモメ科の渡り鳥で、絶滅危惧種に指定されている。
  だが、連休が開けると飛来数はゼロになっていた。IR関連の工事が再開され、騒音や振動などで鳥類がいなくなったためだ。市に工場の中止を申し入れたが、市は「工事ではない。ボーリングだ」と主張した。
  夢洲はオーストラリアから韓国への渡り鳥の中継地となっており、重要な場所だという。

住民の訴えにも逃げ腰の大阪市

  4番目の公述人の男性は、昨年11月の港区でのIR説明会において、当該事業者が参加していなかったため充分な回答を得られなかったことから、「IR事業者は説明する気がない」と主張。市に問い合わせたが、「条例に事業者の参加は明記されていない」と回答したという。
  男性は他に、昨年12月4日から始まった地盤の液状化対策工事についても、環境影響評価に入っていないことに疑問を投げかけた。市はこれについて、「市の事業なので、対象外である」と回答しているという。
  10番目の公述人の男性は、カジノは国連が定めた「持続可能な社会」という目標に反すると述べた。準備書には「SDGsの達成に貢献するIRを目指す」とあるが、実際は10%ものギャンブル依存症者を生み、周辺環境も悪化するとして、内容を否定した。
  また、工事関係車両が走るルートについて、渋滞緩和の具体策が書かれていない。トイレや排水設備の具体的な対策もなく、くみ取りの可能性が高い。準備書を読むと「~に務める」などの言葉が多く、努力目標に過ぎない、と指摘した。
  この他にも、1万5千本もの樹木を移植する「静けさの森」や地盤沈下の問題など、多岐にわたる意見を公述した。
  市は「ご意見を反映して参ります」と結んだが、会場からは「ちゃんと反映してよ!」という声が飛んだ。

(人民新聞 24年1月20日号掲載)

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