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プラトン思想の隠れた良書~『パイドン ー 魂の不死について』

(岩波文庫)

プラトンの中核書『饗宴』に続く作品であり、プラトン中期の始まりの書。

この後のイデア論/想起説の展開の序章として足場固めをするように、その前提となる「魂は肉体の軛を逃れて不死であり、あらゆる物事をその純粋な観念として知っている」という仮説の論拠を幾重にも重ねて丁寧に示している。


正直、今日的な脳への理解と神経科学の知識体系から出発すると、ソクラテス≒プラトンの認識論にはモヤッとする部分が少なくないし、それ以外にも立論そのものにアラが目立つ所はわりとある。ただ本作においても他と全く同様に、それらの粗さを勘案してもなお傾聴に値する思想が詰まっていたし、多くの示唆が得られたと思う。


たとえば、肉体-魂の関係性において快楽を求める肉体の声に耳を傾けすぎると魂が肉体に嵌っていき最適化されてしまうという考え方がそれだし、ソクラテスが”言論嫌い”を喝破してる部分もそれである。また、(プラトン-ソクラテスによる考察かは定かじゃないが)海水と空気-アイテールのアナロジーは、足元にある構造から全体をこうも巨視的/幽体離脱的に捉えられるのかという衝撃が個人的にはすごくあった。


全体として、直前の『メノン』のようなきらびやかでダイナミックな作品とは趣向を異にするが、これまた良書。


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