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「文学」で読む、人と世界のこと

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古今東西の文学作品を通して、人間や文化、社会について学んでいく記事を集めました。
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記事一覧

夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

ちょうど先日記事にした『適切な世界と適切ならざる私』において、詩人は私と世界の再構成の実…

私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

いつ何時も力強くそびえ立っている「世界」という舞台があって、その中には無数の存在者がひし…

さいきんメンタルが落ちてた時に僕を救った本たち

前に記事に書いたのだけど、家庭内の無限パンデミックによって5,6月はメンタルが地を這うほど…

データと技芸、近代の不安~『ロビンソン・クルーソー』

小さい頃に読んで児童文学だと信じ切っていた作品が、実は原作はものすごく大人向けの文学だっ…

ボッカッチョ『デカメロン』~自由な人間と平和の讃歌

フィレンツェを襲うペストの猛威を逃れ、うら若き10人の男女が郊外の別荘地に集う。現実の悲惨…

機械の神は世界を二度洗う~『Horizon Zero Dawn』を神学的に解釈する

※ヘッダー画像はPSゲーム公式ページより引用 SFの神であるアーサー・C・クラークは、こう"預…

独ソ戦に内側から迫る"読む"FPS~『同志少女よ、敵を撃て』

宙を舞う薬莢、鼻に残る硝煙のにおい、頬をかすめる銃弾の強熱。 まるで自分が遠くロシアの激戦区の只中にたたずんでいるかのように、張り詰めた空気が行間を漂っている。 「史上最悪の戦争」と呼ばれる独ソ戦。第二次大戦のさなかにナチス・ドイツのソ連侵攻で幕を開け、ベルリン-モスクワ圏内で3,000万人以上の犠牲者を出した広域戦争が本書の舞台である。80年前に実際に大規模戦闘が行われた4つの戦地に読者は立ち、登場人物たちとともにその景色をながめ、激烈な戦火を内側から体験していくことに

トゥルゲーネフ『初恋』

穏やかじゃない。とてもザワザワする。 心のなかにひやりとするものを感じ、あの日の思い出が…

ビジョンは「都市」の形をしている~『太陽の都』カンパネッラ

中世イタリアに、トマソ・カンパネッラという思想家がいた。 若くして政治運動で逮捕されたの…

ソネットと愛と口承性~『対訳 シェイクスピア詩集』

柴田稔彦 編(岩波文庫) シェイクスピアの有名なソネット集から60編余り、加えて劇中歌や幾つ…

世界を捉え、自らを超えるまなざし~ジッド『ソヴィエト旅行記』

1936年6月、フランスのベストセラー作家アンドレ・ジッドはロシアの地を訪れていた。 目的は…

【危険書】"悪"と"共生"の正義論~新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』

以前読んだのはもう10年近く前だろうか。週刊ヤングサンデーで1997年から4年間連載されていた…

絢爛で魔術的な文化論の”超”作~高山宏『近代文化史入門―超英文学講義』

ついに出た。2020年私的ベスト本の急先鋒。 博覧強記の文学者にして「学魔」と呼ばれる著者高…

ギリシア悲劇とはなにか〜ソポクレス『アンティゴネー』

古代ギリシアの3大悲劇詩人の一人ソポクレスによる、ギリシア神話を題材にした悲劇の傑作。 ギリシア悲劇といえば、フロイトの精神分析理論の中心概念に据えられる父親殺しの葛藤「エディプス・コンプレックス(Oedipus complex)」の元ネタにもなっている『オイディプス王』が名高い。実はこれも同じソポクレスの手による劇作で、『アンティゴネー』はオイディプス王の死後を描いた続編的位置づけの作品である。 あらすじ父親を殺し、実の母と交わったために自身の両目をくり抜くこととなる悲