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根源を問う~哲学のススメ

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哲学書のレビュー集です。自身、専門家ではないので、比較的読みやすい本の紹介や、読みにくいものであっても非専門家の言葉で噛み砕いていきます
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2020年8月の記事一覧

マルクス・アウレリウス『自省録』で魂の平穏を学ぶ

マルクス・アウレリウス・アントニヌス(121-180)は、後期ストア派を代表する哲学者でありながら、2世紀前半に古代ローマ帝国を皇帝として統治していた人物である。ローマ最盛期を支えた五賢帝の最後の一人として、プラトンのいう哲人政治・哲人王―とくに『国家』で示された、哲学者が国を統べるべきという思想―をまさに地で行く、歴史上たいへんに稀有な事例でもあった。 ストア派自体が道徳主義・禁欲主義で知られる学派であるように、このマルクス・アウレリウスもまた、自身の外の世界で沸き起こる

愛はきっと、見つからない~フロム『愛するということ』

愛が渇望されている時代である。 「愛はお金で買えるか?」という問いは意外と息が長い問いで、未だに各所で議論がなされている。「買えた」という人がいて、「買うべきでない」という人がいる。「買えるべきだ」という人はあまりいないが、「買えなかった」という人もあまりいない。「なぜ買えないか」という問いに対して、納得がいく答えも実はあまりなされていない。 ときに、巷にはマッチングアプリが溢れ、出会いの機会を最大化させるべく、皆があらゆる場所に目を光らせているように見える。 恋愛の技

自然に還った哲学者~ルソー『孤独な散歩者の夢想』

苦しい。こんなに苦しいエッセーを読んだのは初めてだ。 個人の自由を、そして啓蒙と革命の時代を啓いた偉大な哲学者ルソーは、しかし晩年に精神錯乱におちいり、重度の被害妄想とともに没することになる。その最晩年に自らの手で綴った回想録、随想録が本書『孤独な散歩者の夢想』である。 読んでいて思い出すのは、ドストエフスキー『地下室の手記』で自意識にまみれた精神の牢獄の中から吐き出す小役人の言葉の数々だ。 自分を取り巻くあらゆる状況が陰謀によって動いており、すべての善意は罠で、友人と

意識の煌めき-ベルクソン『精神のエネルギー』

(原章二訳,平凡社ライブラリー) 流暢な美文とほとばしる叡智に感服する。とくにベルクソンの思想の前半部分についてのまとめの書だが、平易な表現の一つ一つの部分のうちに、かの壮大な思想の全体が反映している。 一応それぞれが独立した論文や講演録ではあるが、前期の主著『意識に直接与えられているものについての試論』『物質と記憶』など本書刊行以前の主著同士を説明し直し、相互に関連づけ、重要な付言を多く残している。平易なことばで書かれているためサクサク読めるが、提示されるものの大きさに

【素人解説#2】アリストテレス~西洋最大の哲人、その果てなき探求の跡を追う

新マガジンの第2弾です! ※マガジンの趣旨はこちらでまとめています。 第2記事目は、古代ギリシアの哲学者アリストテレス(B.C.384-B.C.322)です。「万学の祖」といわれる西洋最大の知性であり、本noteでも過去にいろんな記事でさまざま言及してきました。 人物アリストテレスは、紀元前3世紀に、当時ギリシャ人の植民地であったマケドニアのスタゲイラで、当時のマケドニア王の侍医の父と、同じく医療従事者であった母の間に生まれます。 17歳のときにプラトンがアテナイで主