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根源を問う~哲学のススメ

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哲学書のレビュー集です。自身、専門家ではないので、比較的読みやすい本の紹介や、読みにくいものであっても非専門家の言葉で噛み砕いていきます
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2020年5月の記事一覧

読書メモ:熊野純彦『西洋哲学史-近代から現代へ』

特色や基本的な構成は前巻とほぼ同じ。クセは強いが優れた読みモノである点もまた、しっかりと継承されている。 しかし、本書はやや尻切れで、現代までといいながら、ヴィトゲンシュタイン、レヴィナスあたりでブツリと終わってしまう。 そして前巻に比べると、哲学者ごとのトピック選定と原典引用と解説がややチグハグ感あり、書き方で難解さが増してしまっている感覚。 前半の大陸合理論・イギリス経験論まではとても良くまとめられているし、著者特有の濃密な描写も活きていた。ライプニッツあたりもそそ

哲学、その始原の海から~熊野純彦『西洋哲学史-古代から中世へ』

高台にのぼれば、視界の全面に海原がひろがる。空の蒼さを映して、水はどこまでも青く、けれどもふと青空のほうこそが、かえって海の色を移しているように思われてくる。 下方では、あわ立つ波があくことなく海岸をあらう。遥かな水平線上では、大海と大空とが番い、水面とおぼしき協会はあわくかすみがかって、空と海のさかいをあいまいにする。風が吹き、雲が白くかたちをあらわして、やがて大地に雨が降りそそぐとき、驟雨すら丘によせる波頭のように感じられる。海が大地を侵し、地は大河に浮かぶちいさな陸地の

入門から一歩踏み出す傍らに~『図説・標準 哲学史 』

哲学史の入門的テクストを色々と調べてて、複数の有識者がわりと推していたので手に取ってみた。 超入門編としては、以前紹介した『史上最強の哲学入門』がめちゃくちゃオススメなのだけど、より本格的に学問としての哲学に片足を突っ込む際の入門書というのが、本書の位置づけである。 西洋哲学史の全体を要覧した本としては、全200p強とかなり薄めで、各哲学者の思想説明には一人あたり2p前後を割く。カバー範囲は入門書としては割と広く、紹介されている哲学者も70人程度と多めとなっている。 本

人間の創立、実存の塔~岡本太郎『今日の芸術』

『自分の中に毒を持て』という名著がある。1970年の大阪万博に際して制作された「太陽の塔」で有名な芸術家の岡本太郎が、常識や規範に絡め取られる世間の人々に向け、それら安寧の場所を捨て、自分と周囲を切り刻みながら新たな自己に脱皮していくべしとする人生論を、大いに語った本である。 自らの両足で世界に立つことを、熱いハートで叫びかけてくる著者の言葉は、漫然として日々を暮らしている我々の心を鋭く抉り、多くの気づきをもたらしてくれる。 今日における芸術だが、時を遡ることさらに40年

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色はすなわち空であり、空はすなわち色である~『般若心経』山田無文

臨済宗の高名な禅僧、山田無文が、般若心経を一般向けに解説した本書。Audibleで聴き読みしたが、とてもわかりやすく、幾つか腑に落ちなかったところの見通しがすっきりと晴れた。 般若心経とは、正式名称『摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみたしんぎょう)』といい、全600巻にのぼる大乗仏教の経典『般若経』を漢文で300字弱にまとめたものだ。 お坊さんが唱えるいわゆる「お経」はこれの詠唱で、これを読んでいる皆さんも、それぞれの記憶を掘り返してみると、お経の冒頭はたしかに「ま

最強の入門書、ふたたび~『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』で「悟り」の深淵を覗き込む

以前紹介したスゴ本『史上最強の哲学入門』の続編で、こんどは東洋哲学をテーマにした入門書。これもまた、すごかった。 日常に溶け込む東洋思想仏教、輪廻転生、悟り、仁・礼、空、禅。 みなさんも、これらの単語はこれまで何度も聞いたことがあるだろう。 本書で描かれるこうしたテーマは、前著で示された西洋哲学の概念にくらべて、われわれ日本人の生活空間にはるかに多く入り込み、浸透している。そして、ほぼ無意識的に、これらは日本人/アジア人特有の世界観として受容され、我々の自己認識のちょっ

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