哲学、その始原の海から~熊野純彦『西洋哲学史-古代から中世へ』
高台にのぼれば、視界の全面に海原がひろがる。空の蒼さを映して、水はどこまでも青く、けれどもふと青空のほうこそが、かえって海の色を移しているように思われてくる。
下方では、あわ立つ波があくことなく海岸をあらう。遥かな水平線上では、大海と大空とが番い、水面とおぼしき協会はあわくかすみがかって、空と海のさかいをあいまいにする。風が吹き、雲が白くかたちをあらわして、やがて大地に雨が降りそそぐとき、驟雨すら丘によせる波頭のように感じられる。海が大地を侵し、地は大河に浮かぶちいさな陸地の