見出し画像

夜の喧嘩の日記



夫と喧嘩した。
というより一方的に私がキレ、彼はうんうんと包み込むように聞いてくれた。



夫は、焦ったり困ったりすると視野狭窄になり言葉尻が鋭くなるひとだ。

結婚してすぐの頃はまだまだ二人の関係や生活も安定していると言いがたく、彼はすぐに焦り、

「ねえねえねえねえ、早く問題を解決して!どういうことなの!?早く早く早く!!」

そういう態度で迫ってくることがあった。

これは今でも、何かの受付窓口とかで説明を受ける時、自分にとってわからないことがあると、事務の人に対してすぐこういう態度になる。

ただ、結婚生活の安定にしたがって、こうしたことも少なくなってきた。


問題は、夜の生活で起こった。


彼はED気味なので、いつも自分がきちんと勃つかどうかを気にしている。たぶんプレッシャーがあるのだと思う。

鍼灸院にも通い、サプリも飲み、今日は調子がいいとか、確認している。


だからたぶん、そのことが頭から離れないのだ。


二人で夜の生活を楽しもうとしている時でも、彼は急に焦る。


勃つかどうか。その瀬戸際になると、急に言葉尻が鋭くなり、視野狭窄におちいる。


昨夜も、

「そこ違う!」
「髪の毛じゃま!」
「どいて、邪魔!!」

そんな感じで、私は彼に近づくことを許されなかった。

勃つかもしれない。だから余計なことをするな!今、今、勃つかもしれないんだぞ!


たぶん夫の頭の中はこんな感じ。


わかるよ。私が変な触り方をして萎えちゃうかもしれないもんね。

でも、怒って、雰囲気の悪くなった先に何があるというんだろう。
焦らず、普通に言ってくれれば良い。
普通に、試行錯誤しながらやっていけば良い。

「勃ったら呼ぶから!!」

真剣にそう言う彼に、私は声を失った。


これ、二人でやる意味ある?



泣けてきて、そのあとはずっと、私一人泣いていた。

夫もやっと気がついて、
「ごめん…」
と、そばに寄り添ってくる。


焦っていた。勃つかどうかが気になりすぎていて、おざなりだった。言葉がひどくなっちゃったけど、気を悪くしているとか、嫌だとかじゃない。ただただ焦ってた。
にれちゃんのために、にれちゃんが喜んでくれると思ってやったことなんだ、そこだけはわかってほしい。


そんな風に夫は弁明した。

「わかってほしい」
と言う夫に、私は首を振った。

「わかるかわからないかで言えば、わかるけど、でもそんな簡単には許さないよ。許したらすぐ忘れるもん」


たしか半年くらい前にもこんなことがあって、その時も私は言った。

「射精しなきゃ意味がないわけじゃないんだよ。そこをゴールに考えすぎるから、勃ったら入れて終わり、そんな内容にしかならないわけじゃん。私はそういうセックスがしたいわけじゃない」

そう言った。彼もわかったと、反省した。


でも半年経ったらこれ。

過程が大事だと言い続けてきたのに、いつのまにか勃つことがすべてになり、勃つことによってこのセックスの命運を支配しようとしている。


「ぜんぶちんこのせいだ。」


夫はそう思っているようだが、


そんなわけあるか。

ちんこにそんな力はねぇ。


「ちんこにそんな力はねぇ!!」

私は言った。

「私そんな、ちんこが勃っただけでよだれ垂らして喜ぶ女じゃないし、ちんこの力を過信しすぎじゃない?
ちんこがないと相手を気持ちよくできない男なんて、ちんこがあっても気持ちよくできないよ。
だいたい気持ちよくなるのは脳だから、脳が不快を覚えた時点でそのセックスは失敗してるんだよ。
ちんこが勃たなきゃ成り立たない?
ちんこにそんな力はねぇ!
復唱しな!」


「ちんこにそんな力はねぇ…」

無理やり復唱させられる夫。



傷つきつつも、彼は私の思いを受け止め、細々とした声で話しはじめた。


「俺、セックスを試合みたいに思ってた。一生懸命になって、なにか成し遂げないといけないし、そこに向かって頑張ることがセックスだと思ってた」

「そうなんだ。私はセックスをヨガみたいなものだと思ってる。ヨガやったことないから想像の中のヨガだけどね。もっとリラックスして、幸せを感じるものだと思ってる」


お互いの認識が違うことがわかった。

私はいつもBGMにリラックス音楽をかけているんだけど、今日はたまたま何も音楽をかけなかったのも良くなかったのかな。


「そんなに試合したいなら、BGMにビッグブリッジの死闘でもかける?」

聞くと、
「すみません、そんなのは嫌です」
と返ってきた。


彼のEDは、少しでも良くなればいいなと思ってる。いわゆる普通のセックス(問題なく勃って射精で終わるまでがワンセットのやつ)が選択肢にあればいいなと思うけれど、それがすべてになる必要はないんだ。


そのことも夫に伝えた。


「ちんこは大事だよ。でも一番じゃない」

もう一度つたえると、夫は神妙にうなずいた。


ちんこちんこ言うてますけど本人たちはとても真面目に話し合った。そんな夜なのでした。





仁礼(にれ)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?